ID番号 | : | 07563 |
事件名 | : | 損害賠償等控訴事件、同附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | エフピコ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 食品容器製造販売会社Yの茨城県の関東工場の従業員として採用されて勤務していた元従業員X1ら六名が、バブル経済崩壊後の厳しい経済環境のもとでYの経営合理化方策の一環として行われることになった関東工場の生産部門の分社化に伴い、余剰人員の雇用維持と新製品の開発・製造のために本社工場に新設された新規生産部門への要員確保のために、個別面接や数次にわたる説明会等とともに広島県福山市の本社工場へ転勤してほしい旨要請されたが、これを拒否し、転勤命令に応じられないとして退職したが、不当な配転命令により退職を強要された等として、債務不履行ないし不法行為に基づき、勤務を継続し得た向こう一年間の得べかりし賃金、慰謝料及び会社都合退職金との差額の損害賠償を請求したケースの控訴審で、原審はX1の請求を一部認容していたが、本件転勤は、Yの経営環境に照らして合理的であり、X1らは勤務地限定社員でもなく、業務上の必要により転勤を命じる旨の就業規則の規定があること等から、YがX1らを転勤させようとしたことに、人事権の行使として違法ないし不当な点があったと認めることはできず、またX1らが退職に至るまでにもX1ら主張のような人事権の違法ないし不当な行使があったとは認めることができないとして、Yの控訴が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 |
裁判年月日 | : | 2000年5月24日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成11年 (ネ) 3834 平成11年 (ネ) 4618 |
裁判結果 | : | 控訴認容、附帯控訴棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例785号22頁/労経速報1735号3頁 |
審級関係 | : | 一審/07347/水戸地下妻支/平11. 6.15/平成9年(ワ)108号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 以上認定の事実関係に照らすと、被控訴人らの本社工場への転勤は、控訴人の経営合理化方策の一環として行われることになった関東工場の生産部門の分社化に伴って生じる余剰人員の雇用を維持しつつ、新製品であるPS製品の開発・製造のために本社工場に新設されたPS-四課及び同五課等の新規生産部門への要員を確保するべく、控訴人の組織全体で行われた人事異動の一環として計画されたものであって、控訴人の置かれた前記のような経営環境に照らして合理的なものであったと認められる。そして、被控訴人らを転勤要員として選定した過程に格別不当な点があったとは認められない。関東工場の近くに生活の本拠を持ち、関東工場の従業員として採用された被控訴人らが遠方の広島県福山市へ転勤することについては、それを容易に受け入れられない各人それぞれの事情があることは、それなりに理解できなくはないけれども、本件全証拠をもってしても、被控訴人らが勤務先を関東工場に限定して採用されたとの事実を認めるに足りないし(被控訴人ら自身、A部長らから転勤要請を受けた際に、かかる事実を転勤に応じられない事情として主張していない。)、就業規則(〈証拠略〉)上も、「会社は業務上の必要があるときは転勤、長期出張を命ずることがある、この場合、社員は正当な理由なくこれを拒むことができない」旨明記されているのであって、被控訴人らもこれを承知した上で勤務してきたものと認められる。そして、被控訴人らが転勤に応じられない理由として述べた前記のような個別事情も、それ自体転勤を拒否できる正当な理由に当たるとまでいうことができるものではない。 被控訴人らは、控訴人が被控訴人らを含む前記一〇名を転勤対象者として選定した理由や本社工場への転勤期間を明らかにしなかったことを非難するが、転勤を命じる場合の人選は会社がその責任と権限に基づいて決定すべきもので、その理由は人事の秘密に属し、これを対象者に明らかにしなかったからといって、それを違法ないし不当とすることはできないし、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、平成八年一〇月ころないし平成九年当時は、新製品であるソリッド製品の開発・製造が緒についたばかりで、その事業が将来どのように展開するかを容易に予測できない段階にあったものと認められるから、A部長らが被控訴人らの本社工場への転勤期間は未定である旨答えたことは、やむを得なかったというべきである。 しかも、控訴人は、いわゆるバブル経済崩壊後の厳しい経済環境の下で同業他社との激しい競争に生き残るため経営合理化を図らざるを得ない会社の事情と会社がそのために採ろうとしている経営方針等を社内報等を通じて従業員に周知徹底させるとともに、平成八年一〇月二一日以降、被控訴人らを含む一〇名に対し、経営合理化策の一環として関東工場の生産部門の分社化せざるを得ない会社の事情や新設のPS製造部門の重要性とその要員として控訴人らを転勤させる必要性を個別面接や数次にわたる説明会等を通じて説明し、X1及びX2の両名を本社工場に出張させて、PS-四課等の稼働状況を見学させ、被控訴人X3ら三名による仮処分申立てを契機としてではあるが、右三名に対する転勤命令の発令を本人らの同意が得られるまで延期する措置をとるとともに、X4本部長との話合いの場を設けて説得に努め、さらに、右三名に本社工場の実情を知ってもらうため福山への出張を命じたり、関東工場の近くにある関連会社を出向先として紹介するなど、被控訴人らが円滑に本社工場に転勤できるよう、また、被控訴人X3ら三名については、関連会社に出向という形で就職できるよう、最大限の努力をしたものと認められる。 3 そうとすれば、控訴人が被控訴人らを本社工場に転勤させようとしたことに、人事権の行使として違法ないし不当な点があったと認めることはできないものというほかはない。 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 以上のとおり、被控訴人らは、控訴人が前記のような業務上の必要に基づいて行った本社工場への転勤要請を拒否して、各人の意思に基づいて控訴人を退職するに至ったものであって、被控訴人X5ら三名はもとより、被控訴人X3ら三名も、自己都合により退職したものと認めるほかはなく、その退職を会社都合によるものと認めることはできないし、退職に至るまでの過程で、被控訴人ら(ママ)主張のような人事権の違法ないし不当な行使があったと認めることはできず、控訴人による報復や嫌がらせ行為があったとの事実も認めることができない。 2 したがって、被控訴人らの退職について、控訴人に債務不履行ないし不法行為責任があるとの被控訴人らの主張は、その前提となる事実が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。 |