全 情 報

ID番号 07564
事件名 休業補償不支給決定取消等請求控訴事件
いわゆる事件名 茨木労基署長・大龍産業事件
争点
事案概要  運送業を自営するいわゆる一人親方のダンプトラック運転手であり、労災保険の特別加入者であったX(当時六一歳高血圧症の基礎疾患あり、しかし過去四年間の健康診断の結果からは高血圧症の指摘はなし)が、専属している会社のずりの運搬中に高速道への進入車を避けようとして縁石に接触させ、そのまま運転を継続したが、まもなく意識を失い、脳内出血と判断され入院治療を受けたため、労災保険法に基づき、労基署Yに対し、療養補償給付及び休業補償給付の請求をしたが、不支給処分を受けたため、右疾病は業務に起因するとして、右処分の取消しを請求したケースの控訴審で、原審は請求を棄却していたが、本件発症の時期は本件交通事故の直後であったと認定し、Xは右交通事故という業務に関連する異常な出来事に遭遇したため、基礎疾患である高血圧症が自然的経過を超えて急激に悪化し、本件疾病が発症したものと認めることができ、Xの業務と本件疾病との間に相当因果関係が肯定することができるとして、Xの控訴が認容され原審が取消された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2000年6月2日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行コ) 64 
裁判結果 認容(確定)
出典 労働判例786号33頁
審級関係 一審/07185/大阪地/平10. 9.30/平成7年(行ウ)86号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労災補償制度が、業務に内在または通常随伴する危険が現実化した場合に、それによって労働者に生じた損失を補償するものであることに鑑みると、労働者が基礎疾患を有しており、これが一因となって疾病が発症した場合であっても、業務に関連する過重負荷が加わることによって基礎疾患が自然的経過を超えて急激に悪化した結果、右の疾病が発症したと認められるときは、業務に内在または通常随伴する危険が現実化したというべきであり、業務と疾病との相当因果関係を肯定することができる(最高裁平成六年(行ツ)第二〇〇号同九年四月二五日第三小法廷判決・裁判集民事一八三号二九三頁参照)。」
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 前記引用に係る原判決「事実及び理由」第四の三記載のとおり、本件疾病発症当日、原告が、突然と感じられる乗用車の割込みに遭遇し、追突を回避しようとして縁石との接触事故(本件交通事故)を起こしたという事実が認められるところ、一般的にいえば、このような事態はダンプトラックの運転という業務に関連する異常な出来事への遭遇であり、このような場合、運転者は強い恐怖、驚がく等の精神的ショックを受け、極度の緊張から一時的に血圧が上昇することが認められる(〈証拠略〉)。原告は、ダンプトラックの運転歴二十数年にも及ぶ熟練運転手であったから、その程度は幾分緩和されることはあろうが、なお、右の一般論は妥当すると思われる。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 以上に説示したところによると、前記A証人及びB証人の各証言と意見書(〈証拠略〉)を採用して、本件疾病の発症時期は本件交通事故の直後であったと認めるのが相当であり、これに前記三で認定した原告の高血圧症の程度や、本件疾病発症直前、本件交通事故以外に原告の血圧の急激な上昇を招来するに足る要因が見当たらないことをも併せ考えると、原告は、右交通事故という業務に関連する異常な出来事(過重負荷)に遭遇したため、基礎疾患である高血圧症が自然的経過を超えて急激に悪化し、本件疾病が発症したものと認めることができ、したがって、原告の業務と本件疾病との間に相当因果関係を肯定することができる。