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ID番号 07567
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 泉証券(営業嘱託)事件
争点
事案概要  二つの証券会社が合併した証券会社Yとの間で、合併両者の制度併存下で営業研修社員契約を締結し、その後歩合外務員の途が残されている営業研修社員契約を締結していたが、歩合外務員は証券業務歴一〇年以上の者でなければならないとの日本証券協会の規則改正に伴い、歩合外務員育成のための制度が営業嘱託制度(契約期間一年、更新回数九回まで)に一本化されたことから、期間を一年とする営業嘱託契約を締結し、更新していたところ、Xの証券業務歴が一〇年を超えることとなった際に、歩合外務員契約の締結を申し込まれたが、これを拒否して営業嘱託契約として更新し、翌年以降も歩合外務員契約を締結しなければ退社するように求められたにもかかわらず、これを拒否して営業嘱託契約を更新したが、その翌年には営業成績不振を理由に契約期間満了により更新拒否されたため、右雇止めは解雇法理の類推適用により無効であるとして、従業員たる地位の確認及び賃金の支払を請求したケースで、本件営業嘱託契約は、現実にYによって指揮監督がなされ、報酬についても固定給部分が存在していることから、雇用契約であるというべきであるが、本件営業嘱託契約についてXに更新の客観的期待を与える事情はなく、本件営業嘱託契約が期間の定めのない契約に転化し、あるいは実質的に異ならないものとなったと認めることができず、YがXの営業成績不振を理由に更新拒絶することは不当ではないとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法14条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 外務員
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 2000年6月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 10265 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例791号15頁/労経速報1753号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-外務員〕
 本件営業嘱託契約が、雇用契約か否かについて検討するに、営業嘱託制度は、前述のとおり、日本証券業協会の規則改正により、証券業務従事歴一〇年未満の者について歩合外務員として契約できないこととなったため、歩合外務員育成のための制度として設けられたものであり、その制度の趣旨からすれば、当然に営業嘱託契約を締結した者に対する被告の指揮監督が要求され、営業嘱託契約書にも出社義務や報告義務が明記されており(〈証拠略〉)、人事課長Aにおいて、午前八時五〇分から午後四時までの営業専念、出勤簿の押印、時間中の外出や休務について届けを出すように指示するなど(〈証拠略〉)、現実に指揮監督がされており、また、報酬については、前述のとおり、固定給部分が存在している。これらによれば、本件営業嘱託契約は雇用契約であるというべきである。
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 本件営業嘱託契約が、その更新の繰り返しによって、期間の定めのない契約に転化し、あるいは、実質的にこれと異ならないものとなったかどうかついてみるに、営業嘱託制度が、日本証券業協会の規則改正により、証券業務従事歴一〇年未満の者について歩合外務員として契約できないこととなったため、更新回数を限定して、歩合外務員育成のための制度として設けられたものであるから、歩合外務員となる資格が得られた後には、歩合外務員契約を締結することが予定されたもので、制度自体、歩合外務員となる資格が得られた後まで、更新することを予定したものではない。原告もその制度の趣旨は了解して契約したものである。そして、前述のとおり、原告は、平成六年の契約更新においては期間を一年とする旨を告げられており、平成七年には、原告が歩合外務員契約に応じないことから、被告において契約解除の意思表示をする事態になり、結局、被告において、右契約解除を徹回したが、その際、被告は営業成績の向上を強く求めた(〈証拠略〉)。被告は、平成八年三月一日の契約更新時においても、手数料収入が月額五〇万円を超えない場合は更新しない旨を伝えている。(〈証拠略〉)。そして、原告は、その後、平成九年二月までの間、一か月を除き、手数料収入五〇万円以上をあげることができなかった。
 以上に鑑みれば、本件営業嘱託契約について、原告に更新の客観的期待を与える事情はなく、本件営業嘱託契約が期間の定めのない契約に転化し、あるいは、実質的にこれと異ならないものとなったと認めることはできない。
 原告は、原告に手数料収入五〇万円以上を求めることは更新拒絶の理由とならないと主張するが、営業嘱託制度が、歩合外務員育成のための制度であり、手数料収入が少ない場合でも固定給を支払うものとされており、従業員が一定の手数料収入をあげなければ、それは被告の負担となるものであるから、被告が原告の営業成績不良を更新拒絶の理由とすることは不当なことではない。