全 情 報

ID番号 07573
事件名 公務外認定処分取消請求
いわゆる事件名 地公災基金大阪府支部長・松岡警察署事件
争点
事案概要  派出所に勤務する採用二年目で、深夜勤務を含み、拘束時間も二三時間から二五時間と長く、時間外勤務が恒常的に発生するという勤務状況のなかで真面目に公務を行っていた警察官A(当時二四歳で基礎疾患は認められなかった)の遺族Xが、Aはサミットの警備等による特別任務に従事し、他の所員の休暇取得に伴い予定外の連続勤務等により疲労が蓄積しているなかで、午前〇時過ぎに盗難災害を受けた店に立ち寄って事情聴取を行っていた最中に倒れ、救急車で病院に搬送され死亡した(死因は急性虚血性心疾患の疑いと診断された)ことから、地公災基金大阪府支部長Yに対し、公務災害の認定請求を行ったが、公務外災害であると認定されたため、右処分の取消しを求めたケースで、本件発症は公務に内在する危険性が現実化したものとして相当因果関係を肯定し得るとして請求が認容された事例。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
地方公務員災害補償法42条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2000年6月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行ウ) 40 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例795号62頁/判例地方自治208号63頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 職員が公務上死亡した場合、災害補償が実施されるが(地方公務員災害補償法三一条、四二条災害)、ここに「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい(公務起因性)、これが肯定されるためには、負傷又は疾病と公務との間に相当因果関係があることが必要である。そして、使用者等に、その過失の有無を問うことなく危険を負担させ、損失の補填(ママ)を責任を負わせるものであるという災害補償制度の制度趣旨及び地方公務員災害補償法の沿革、特質等に照らすならば、右当(ママ)因果関係の有無は、当該災害が当該公務に内在又は随伴する危険性が現実化したものであるか否かをもって決するのが相当である。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 前記認定によれば、被災者の業務はもともと、深夜勤務を含む不規則なものであり、かつ拘束時間も二三時間ないし二五時間という長いものであった。そして警察官という仕事柄時間外勤務が恒常的に発生しており、また本件発症前の平成五年一月以降は、平成五年三月に年次休暇を一日取得した以降は年次休暇もとらず、五月の大型連休も出勤し、六月には二回サミットの警備のための特別勤務に従事し、うち一回はジェラルミン製のチョッキ等重装備を装着しての約二八時間の断続勤務であった。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 他方、被災者には本件発症の原因となるべき基礎疾患は認められず、また長時間労働、不規則勤務、深夜勤務、心理的ストレスが冠動脈疾患、致死的不整脈や突然死を引き起こす可能性は医学的に肯定されている。
 以上の事実を総合考慮すれば、本件発症は公務に内在する危険性が現実化したものとして、相当因果関係を肯定しうる。この点、被告は、被災者が行っている勤務は、通常の勤務状態であり、また特にその勤務中に本件災害発生の原因となりうる特別な事象がおこったわけではないから、公務との相当因果関係はないと主張する。しかし、警察官という被災者の勤務内容は、ひとつひとつ真面目に行おうとすればかなり厳しいものであるうえ、現実の被災者の勤務はマニュアル通り行われておらず、時間外勤務も恒常化していたこと、他方で必ずしも規定どおり勤務に従事していない巡査もいること(〈証拠略〉)などに照らせば、仮に他の交番勤務の巡査が発症しなかったとしても、これをもって、相当因果関係が否定されるとまではいえない。