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ID番号 07577
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 わいわいランド事件
争点
事案概要  A販売会社との保育業務委託契約成立を見込んだ保育所経営会社Yに、保育ルームのトレーナーとしての就職を勧誘され、おおむね承諾していた当時幼稚園教諭であったX1及び工務店等で勤務していたX2(幼稚園教諭歴あり)は、その数か月後、労働条件を記載した雇入通知表と就労開始月の勤務表を交付され、X1は承諾、X2は労働条件が勧誘時の会社の説明と異なっていたため、考えさせて欲しいと述べるに止まっていたところ、その後、X1らは会社Yの指示により出席した会議でトレーナーとして紹介されたが、結局、会社Yは、委託業務契約が成立しなかったことを理由に就労開始前にX1らに対し、「この話はなかったことにして下さい」と述べたため、X1らは、この通知は解雇の意思表示であり、解雇権濫用に当たるとして、債務不履行又は不法行為責任に基づく損害賠償及び慰謝料支払を請求したケースで、(1)X1については、雇入通知表を承諾した時点で会社との雇用契約は成立しており、未だこれに基づく就労前であっても、これを解消する旨の意思表示は解雇に該当し、他部署での就労可能性の検討等の解雇回避努力を欠いていることなどから、解雇権の濫用であるとして、解雇手当及び慰謝料請求の支払請求が一部認容され、(2)X2についても、雇用契約の成立は認められないが、雇用契約の申込みの撤回が不法行為に該当するとして慰謝料請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法20条1項
民法709条
民法710条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 保育所のトレーナー
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2000年6月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 9555 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例793号49頁
審級関係
評釈論文 小俣勝治・労働法律旬報1525号40~43頁2002年4月10日
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-保育所のトレーナー〕
 右事実に鑑みるに、被告の平成一〇年一一月二日の原告X1に対する就職の勧誘は、その前提となる補助参加人との業務委託についての交渉が開始されて間がなく、その実現の可能性が計り知れない時期であり、就労の開始時期も数か月先で明らかでなかったから、被告にその時期において明確な雇用契約を締結する意思があったとは考えられず、労働条件についても、大雑把な内容であって、その内容を明確にする書面が作成されているわけでもないから、被告の勧誘を雇用契約の申込みとまで認めることはできず、同日、原告X1が雇用に応じる返事をしたことをもって雇用契約が成立したと認めることはできない。
 しかし、被告が原告らに交付した雇入通知表(〈証拠略〉)は、雇用契約の申込みということができ、原告X1は、即これに承諾したということができるから、原告X1と被告との間では、雇用契約が成立したものと認めることができる。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-保育所のトレーナー〕
 被告は、平成一一年一月二〇日ころ、原告X2にも、労働条件を示すなどして、就職を勧誘したが、この時期においても、就職の前提となる補助参加人との業務委託契約は、両者間で契約条件に相当の開きがあり、合意成立の見通しがあったわけでもなく、この時点で、被告に明確な雇用契約を締結する意思があったとは考えられず、また、被告が示した原告X2に示した労働条件はA保育ルームのものをそのまま示している程度であって、明確でない部分も多く、原告X2は、同月三〇日、被告に労働条件を確認したうえで、同年二月一日、仕事を引き受ける旨の回答をしているけれども、原告らにおいてその後労働条件の明確化を求めているように、労働条件について未確定の部分やあいまいな部分も存在し、就労の開始時期も四月上旬という程度しか明らかにできない時期であり、その内容を明確にする書面が作成されているわけでもないから、同日、原告X2が雇用に応じる返事をしたことをもって雇用契約が成立したと認めることはできない。
 また、原告X2は、平成一一年三月二七日の雇入通知表を交付されたとき、これによる雇用申込みに承諾せず、同月三〇日に被告に電話した際にも、さらに就職するかどうかを考える旨を告げており、就職するかどうかを留保していたもので、未だ、被告の雇用申込みに承諾したとは認められない。そうであれば、原告X2については、未だ、雇用契約が締結され(ママ)とまでは認められない。
 原告X2本人は、スクーリングの時間と被告の就労時間を調整できるかどうかを確認する旨告げたことを、就職を止める趣旨はない旨述べるが、被告に告げる以上は、調整できない場合は就職しないことも考える趣旨であるといわなければならず、そうであれば、これをもって被告の申込みに承諾したものということはできない。
〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
 原告X1は、解雇の無効を主張せず、解雇予告手当の請求と一年分の賃金相当額を逸失利益として損害賠償の請求をする。解雇権の行使が濫用であるということは、解雇が無効であり、雇用関係は継続していることとなり、使用者は、解雇予告手当を支払う必要はないが、賃金については支払義務がある。そして、当該労働者については、賃金請求権が存在するのであるから、それ以外に賃金相当額の逸失損害が生じるとはいえない。しかしながら、原告X1は、復職を望まないとして、逸失利益等の損害賠償請求をするところ、解雇権の行使が濫用であるといえる場合であっても、労働者がその効力を否定しないことは差し支えない。ただし、このような場合、その解雇の意思表示は有効なものと扱われることになるから、解雇予告手当については、その請求はなし得るもの、賃金請求権は発生しないこととなる。
 2 そこで、原告X1に対する解雇予告手当の額については、労働基準法一二条、同法施行規則四条により、二四万円と推算する(昭和二二年九月二二日発基一七号)。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告X1に対する解雇は、それが解雇権の濫用であることは前述のとおりであり、被告において解雇事由とした事情が生じてからの解雇回避の努力を全くせずに解雇を告知したこと、その告知に至る対応の手続を併せ考慮するときは、これを不法行為ということができ、これによって原告らが著しい精神的苦痛を受けたことはこれを肯定できる。そして、これを慰藉するに相当な額は諸般の事情を考慮し五〇万円と認めるのを相当とする。
 5 原告X2については、前述のとおり、雇用契約が成立していないのであるが、被告の雇入通知表は、労働条件を具体的に明示したもので、諸般の事情から、雇用契約の申込みと認められるところ、前記認定の事実からすれば、承諾期間を付与したものといえ、その期間経過といえない内に雇用契約の申込みを撤回したものである。そして、その経緯は、原告X1について認定したと同様であり(三2)、右申込みの撤回は、原告X2に対する不法行為になるというべきである。原告X2の主張は、解雇が不法行為になる旨の主張ではあるが、その解雇と主張する具体的な事実は、平成一一年四月八日の被告代表者による就職の話がなくなったという告知であり、この告知によるよる(ママ)損害賠償を求めるものであるから、この告知が解雇の意思表示でなく契約申込みの撤回と評価される場合であって、この告知を不法行為として損害賠償請求をする趣旨を含むといえるから、これによって生じた精神的損害は認めることができる。そして、その額は、諸般の事情を考慮して三〇万円と認める。