全 情 報

ID番号 07590
事件名 労働契約上の地位保全仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 ネスレ日本(合意退職)事件
争点
事案概要  約七年前に工場内で生じた暴行事件への関与の疑いを理由とする懲戒解雇処分をほのめかされた労働者Xが、退職届を提出したものの思い直して取り下げたが、会社は合意解約により労働契約が終了したものとして取扱ったため、(1)合意解約の不成立、(2)錯誤無効、(3)強迫による取消しを根拠として、労働契約上の従業員たる地位にあること及び賃金の支払を求めて仮処分申立てしたケースで、特段の事情がない限り、Xが退職届けを提出して合意解約を申し込み、その承諾権限を有する工場長が承諾して通知書を交付した時点で合意解約により雇用契約は終了するとして、本件合意解約の成立を認めつつ、右解約の申込みは、懲戒解雇をほのめかした工場長らの強迫によるものであったとし、その意思表示の取消しが認められるとして、Xの請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法96条
体系項目 退職 / 合意解約
退職 / 退職願 / 退職願と強迫
裁判年月日 2000年8月7日
裁判所名 水戸地龍ケ崎支
裁判形式 決定
事件番号 平成12年 (ヨ) 27 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例793号42頁
審級関係
評釈論文 島田陽一・法律時報74巻3号129~131頁2002年3月
判決理由 〔退職-合意解約〕
 本件疎明資料及び審尋の結果によれば、霞ヶ浦工場長(A工場長)には、霞ヶ浦工場勤務の労働者からの退職願を受理して労働契約合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をする権限があると一応認められる。そうすると、前提事実3によれば、特段の事情のない限り、債権者と債務者との労働契約は、債権者が平成12年5月17日に債務者に対し本件退職願を提出して労働契約の合意解約を申し込み、その承諾権限を有する霞ヶ浦工場長(A工場長)が承諾して本件通知書を債権者に交付した時点で合意解約により終了したことになる。
〔退職-退職願-退職願と強迫〕
 以上の事実によれば、播摩工場長らが債務者の職制として、会議室に1人呼び出した債権者に対し、債務者が近くB暴力事件を理由として債権者について懲戒解雇を含む懲戒処分に及ぶことが確実であることを予告した上で、債権者が右処分に不服であれば債務者は妥協しないため長く裁判で争うことが必至であるから、この事態を避けるためには債務者が処分をする前に自発的に行動することが賢明であるとして暗に早期に自己都合退職することを強く迫ったため、債権者は、債務者から近く懲戒解雇される蓋然性が高く、懲戒解雇された場合に裁判で争うことはこれまでの債務者の対応や姿勢から妥協のない長期間の争いとなるだろうが、これは自身の年齢や家族状況に照らして負担が大きいと畏怖して心理的に追い込まれた状態となり、この事態を避けるためには即時に自己都合退職に応ぜざるを得ないとして本件退職願を作成し労働契約合意解約の申込みをしたものと一応認めることができる。そうすると、債権者の右申込みは、特段の事情のない限り、播摩工場長らの強迫によるものとして取り消し得るものというべきである。