ID番号 | : | 07607 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪空港事業(関西航業)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 伊丹空港の航空貨物の積み降ろしや機内掃除等の業務を営む会社Yの専属的下請会社Aの従業員であったXら三二名が、関西国際空港開港による人員過剰に起因するYからの業務委託契約解除により経営困難に陥ったAの事業閉鎖に伴い、Aから全従業員対象として解雇されたところ、Aは従業員を独自に雇用し、自らの労働条件を決定して配置、懲戒、解雇などの人事管理を行っており、Yと経理関係も所有関係も別であったが、業務がYと混同していたり、Yの指示に基づいてなされていたり、またYの器材を使用していたうえ、Aの成立以前から解散に至るまで、Yは、その分会がAの従業員で組織する労組でもあったYの従業員労組Bの活発な労働運動を嫌悪し不当労働行為に及ぶこともあったことから、(1)YとAは実質的には同一であること、(2)Yは労組B弱体化という不当労働行為を目的としてAの法人格を利用し濫用したこと、もしくは(3)黙示の労働契約の成立、(4)議事録等の存在を根拠として、雇用契約上の権利を有する地位の確認及び賃金の支払を請求したケースで、(1)については、YのAに対する事実上の大きな影響力を認めつつも、両者間に出資関係や役員交流は存在せず、Aは独自の人事管理を行い、Yとは別個の法人の体裁を有していたことなどからAY間に法人格同一性は認められないとし、(2)についても、Aは実体のない会社であるとはいえず、Yの意のままにその不当労働行為や労務対策の手段として存在してきたものとまではいうことができず、業務委託解除の直接の原因は業務の減少であり、Yが下請企業に対する優越的地位を利用して委託業務量を減少させ、そのため下請企業が倒産に至ったとしても、これは優越的地位を利用したといえても法人格濫用ということはできないとし、(3)及び(4)についてもXの主張は認められないとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法10条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社 労働契約(民事) / 成立 |
裁判年月日 | : | 2000年9月20日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 6423 平成9年 (ワ) 7382 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例792号26頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 森信雄、鎌田幸夫・労働法律旬報1504号15~28頁2001年5月25日/中川純・法律時報74巻2号106~109頁2002年2月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕 以上の事実及び前提事実に基いて検討するに、A会社は、法規上要求される人的構成を持ち、その従業員については多いときには二〇〇人を超える人員を擁し、これらの従業員を採用し、その配置、懲戒、解雇などの人事管理を行い、賃金を支払っていたものであり、また、経理関係の帳簿も整え、独自の決算を行っており、経理関係は被告と明確に区別されていたし、財産関係についても被告の器材を使用している点はあるものの所有関係に混同があったものではなく、被告とは別個の法人の体裁を有していたものであるところ、被告とA会社との間に出資関係はなく、役員についても全く交流はなかったものであって、いわゆる親子会社でもなく、被告とA会社が経済的同一性を有していたということはできない。原告らは、A会社に独立した請負業者としての実態がなかった旨主張するところ、その業務が被告の業務と混同していたり、被告の指示に基づいてなされており、労働者派遣法に反する旨の指摘を受けたことは認められるものの、それ故直ちに右業務に従事する者が被告の従業員となる訳ではなく、これらの従業員についてもその出退勤はA会社において管理し、その賃金はA会社から支払われていたものであって、右事実をもってA会社の法人としての実体を否定することにはならない。また、A会社は業務に必要な器材をさほど所有せず、被告の器材を使用していたことが認められるが、その所有関係が区別されている以上、これも被告とA会社との一体性を意味することにはならない。〔中略〕 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕 もっとも、A会社は被告の専属的下請業者であって、他社から業務を請負うことは困難であり、また、空港内における営業免許の関係、さらにはその借入金について保証を受けていた関係などから、被告はA会社に対して優越的地位にあり、業務委託量の決定、委託代金の決定については事実上その意向を通すことが可能であったということができるし、A会社の人事やその他A会社が独自に決しうる事柄についても事実上大きな影響力を行使することができ、現に労使問題についても指導力を行使してきたことを認めることができるのであるが、これは下請関係にある多くの企業においてもいいうることであって、このような事実上の影響力をもって被告とA会社が一体であったとか、被告がA会社を支配していたということはできない。 〔労働契約-成立〕 右事実によれば、被告とA会社従業員との間ではある程度の指揮命令関係があり、受託代金はその労務に対して支払われているとの見方もできないものではないが、被告が特定の作業に従事するA会社従業員個人を特定して委託代金を決定していたとまで認めるに足りる証拠はないし、前記認定のとおり、A会社の従業員の出退勤の管理はA会社において行っており、その採用や配置・懲戒・解雇などの人事管理もA会社が行っていたのであり、被告がこれらに関与していたと認めるべき証拠は存在しない。 以上の事実によれば、未だ被告とA会社従業員との間に黙示の労働契約が成立したと認めることはできない。 |