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ID番号 07610
事件名 賃金請求事件、立替金請求事件、和解金請求事件
いわゆる事件名 エスエイロジテム(賃金請求)事件
争点
事案概要  一般貨物自動車運輸業等を目的とする会社Yでタンクローリー車の運転等を行い、組合員である労働者Xら二六名が、四〇日間の長期ストライキの解除後、Yに対し、就労申入れをなし、労務提供のために会社内及び組合事務所で待機していたものの、YはXらが現実の運転業務に従事しなかった日の日当分を本来の支給額から欠勤日として差し引いて支給したことに対し、(1)XらがYに対し、右控除分の支払を請求した(第一事件)が、Yが(2)スト期間中に控除すべきであった労働者本人負担分の社会保険料、労働保険料、住民税等につき、当該月の給与額を上回る部分がある八名に対する立替え払分の支払(第二~八事件)、(3)Xらのうち一名に対し、Yとの和解契約に基づく金員の未払分を請求したケース(第九事件)で、Xらは労務提供のためにY敷地内に待機し、それをYも認識していたことから、Xらは本件賃金控除額相当時間中、使用者の指揮命令下にあり労務を現実に提供していたものと認めるのが相当であり、Yは労務提供の受領を拒否したことにつき、合理的理由等の事実の立証ができていないことから、(1)についてはYの責めに帰すべき事由があり、本件賃金控除額分についての請求権を失わないとして請求が一部認容され、(2)については請求が棄却、(3)については請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 2000年9月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 16512 
平成12年 (ワ) 12250 
平成12年 (ワ) 12589 
平成12年 (ワ) 12590 
平成12年 (ワ) 13090 
裁判結果 棄却(12250号等)、一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例796号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-争議行為・組合活動と賃金請求権〕
(一) 一般に、履行の提供は、債務の本旨に従って現実にされることを要し(民法四九三条本文)、労務の提供であってもこれと異なるところはない。そして、労働者が労務を現実に提供しているということは、使用者が労働者を指揮命令下に置いている状況にあることを意味すると解するのが相当である。
 (二) 以上を前提に、本件賃金控除額相当時間中原告らが被告会社に対して労務の提供を行ったと認めることができるかについて検討する。
 前提となる事実に証拠(〈証拠・人証略〉)を併せ考えれば、次の事実が認められる。
 (1) 原告らは本件ストライキに参加し、その間被告会社において就労しなかったが、平成一〇年九月一四日、東部労組支部を通じて被告会社に対し、同月一六日から被告会社において就労する旨を通告した(本件通告)。
 (2) 原告らは、同月一六日午前八時ころ、それぞれ被告会社に出勤し、会社事務室において待機していたが、その後同日中に、こぞって被告会社敷地内にある組合事務所に移動した。この移動に当たり、A(東部労組支部書記長)は被告会社の配車係であったBに対し、原告らが会社事務室にいたら邪魔だろうから、組合事務所で待機する旨提案したところ、Bがこれを承諾したといった経緯があった。
 (3) 同日以降、本件賃金控除額相当時間中、原告らは原則として組合事務所において待機を続けたが、例外として、一部被告会社敷地内の車両内において待機した場合もあった。
 原告らは、右のとおり待機した日には、所定労働時間の終了する時刻である午後三時以降、当日分の運転日報(本件運転日報)を会社事務室備付けの箱の中に入れることによって被告会社に対して提出していた。
 (三) 以上認定の事実によれば、原告らは、本件賃金控除額相当時間中、被告会社敷地内において労務を提供するために待機していたこと、被告会社もそのことを認識していたことが認められる。よって、被告会社は原告らを指揮命令下に置いている状況にあったことが認められ、原告らは、本件賃金控除額相当時間中労務を現実に提供していたものと認めるのが相当である。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-争議行為・組合活動と賃金請求権〕
 (一) 労働者が労務を提供し、使用者がこれを受領しないことは、使用者の責めに帰すべき事由に基づくものと推認されると解するのが相当である。使用者は企業を運営するに当たり、その企業運営の必要の範囲内で、それに見合う人数の労働者と、相応の労働条件の下で労働契約(雇用契約)を締結しているのが通常であり、にもかかわらず使用者が労務を受領しないというのは、例外的かつ異常な事態であるというべきであるからである。したがって、使用者としては、労務の受領を拒否したことについて自己の責めに帰すべきものであることを否定するためには、そこに合理的な理由があること等右推認を覆すに足りる事実を主張・立証しなければならないことになる。
 (二) 本件でも、前記認定・判断のとおり、本件賃金控除額相当時間中、原告らが被告会社に対して労務を提供したが、被告会社がその受領を拒否したのであるから、この受領拒否について被告会社の責めに帰すべき事由があると推認される。
 (三) これに対し、第一事件被告は、本件ストライキが原因で被告会社への運送業務の発注が減少し、その結果原告らに対して本件ストライキ解除後即配車ができなかった、したがって、被告会社が原告らの労務の提供を拒否したことは、本件ストライキに参加した従業員すなわち原告らの責めに帰すべき事由である旨主張し、これに沿う証拠(〈証拠・人証略〉)もある。
 しかし、第一事件被告は、本件賃金控除額相当時間中、原告ら以外の従業員(乗務員)についてはどの程度の配車を行っていたかについて何ら主張しない。仮に、この間原告らと原告ら以外の従業員とで配車の割合が同程度であるなどといった主張・立証がされれば、他の事情とあいまって原告らからの労務の提供の受領を拒否したことにつき合理的な理由があると解する余地があるが、右のとおり本件ではそのような主張がなく、かえって、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、この間、東部労組支部所属組合員以外の従業員に対し、同支部所属組合員に比べて多く配車の割当てがされた場合があったことが認められる。
 したがって、仮に本件ストライキが原因で被告会社への運送業務の発注が減少したとの事実があったとしても、この事実は、被告会社には労務提供の受領を拒否したことについて責めに帰すべき事由がないことの根拠とはなり得ないというべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-争議行為・組合活動と賃金請求権〕
 以上のとおりであって、被告会社が原告らの労務提供の受領を拒否したことにつき、被告会社の責めに帰すべき事由があるから、原告らは、労務提供の受領を拒否されて実際に就労しなかった時間分の賃金(本件賃金控除額)の請求権を失わないことになる(民法536条2項本文)。