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ID番号 07633
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 横浜税関事件
争点
事案概要  〔1〕税関職員であり、全国税関労働組合横浜支部X1の組合員であるX2ら一〇三名が、横浜税関長からX1の組合員であること又は思想、信条のみを理由に昇任、昇格及び昇給において差別的取扱を受けたとして、国に対し、昭和三九年から昭和四九年までの間に昇任において差別されなかった場合に得られたであろう賃金と現に得た賃金との差額及び差別的取扱により被った精神的苦痛に対する慰謝料等の損害賠償を、〔2〕組合X1が国に対し、組合員が右のような差別的取扱いを受けたこと及び横浜税関当局によるX1からの脱退勧奨、分裂の画策、加入妨害、組合員に対する不利益取扱、第二組合への活動援助と新入職員に対する右第二組合加入のための便宜供与などの違法な支配介入により団結権を侵害され無形の損害を被ったとして、慰謝料等の損害賠償を請求したケースの控訴審(X控訴)で、原審はいずれの請求も棄却していたが、〔1〕については、原審と同様に、本件期間中の処遇において、組合員と非組合員との間に昇任、昇格、昇給等給与に格差があるものの、その処遇が勤務成績、能力、適性等に照らし著しく不相当であって裁量権の範囲を逸脱しているとはいえないとしてX2らの控訴が棄却されたが、〔2〕については、横浜税関長がX1組合に対し違法な支配介入を行い団結権を違法に侵害したとして、慰謝料二〇〇万円(及び弁護士費用五〇万円)についてX1の控訴が一部認容され、原審の判断が変更された事例。
参照法条 国家公務員法27条
国家公務員法33条
一般職の職員の給与等に関する法律8条
国家賠償法1条1項
民法724条
体系項目 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 人事権 / 昇給・昇格
雑則(民事) / 時効
裁判年月日 1999年2月24日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ネ) 824 
裁判結果 原判決取消、一部認容、一部棄却(上告)
出典 訟務月報45巻11号1967頁
審級関係 上告審/07816/最高一小/平13.10.25/平成11年(オ)853号
評釈論文 伊藤幹郎・労働法律旬報1460号6~9頁1999年7月25日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
 控訴人組合員と非組合員との間には、本件係争期間中の処遇において、全体的、集団的にみて、特に男子について昇任、昇格、昇給等給与に関わる面で格差があることが認められ、後に認定するように、個別的にみても、特に男子の個人控訴人は、それぞれ程度の差はあるものの同年同資格で入関した非組合員男子と比べ低位の処遇を受けていることが認められる。〔中略〕
 控訴人組合に対する昇任、昇格、昇給関係以外の右差別意思(嫌悪、警戒)に加えて、関税局文書からは、少なくとも本件係争期間中を含む昭和六一年を遡る相当前の時期から、全国的に全税関組合員を昇任、昇格等の面で一般的に他より低位に処遇するという意味での全体的、一般的差別意思の存在が推認されること(前記第六)、横浜税関において、本件係争期間中、控訴人組合員と非組合員との間に全体的、集団的な処遇の格差が認められること(前記第五)を総合すれば、本件係争期間中控訴人組合員に対する昇任等給与面での当局の差別意思は、全体的、一般的にはこれを肯認するほかはないというべきである。〔中略〕
〔労働契約-人事権-昇給・昇格〕
 昇任、昇格は、当該職員の勤務実績、能力、適性等に照らし、より上位の官職、等級に昇任、昇格させるのが適当であるかどうかの観点から機構上や等級別定数の枠の範囲において対象者を選考するものであり、昇給(特に特別昇給)も成績主義の実現を期して行われ、いずれも公務の能率の維持及びその適正な運営の目的に資するため任命権者に与えられた権限である。そして、これらの昇任、昇格、昇給に関する権限は、職員の勤務実績、能力、適性、日常の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容としており、その性質上平素から庁内の事情に通暁している任命権者の裁量に任せるのでなければ到底適切な結果を期待できず、任命権者に広範な裁量の余地を認めざるを得ない。しかし、その権限はもとより純然たる自由裁量に委ねられているものではなく、例えば当該職員の所属する職員団体により昇任、昇格、昇給等の取扱いの基準を異にしたりするなどの、昇任等の目的と関係のない目的や動機に基づいていたり、考慮すべきでない事項を考慮して判断するなどして、ある期間において他と比較して著しい等級又は号俸上の差を招き、その結果その判断が合理性を持つ判断として許容される限度を超えた不当なものと認められるときは、裁量権の行使を誤った違法のものであるとされることがあり得るが、裁判所の審査権は、この範囲に限られ、このような違法の限度に至らない当不当の判断にまで及ぶものではない。
 そして、本件において右のような任命権者である横浜税関長の裁量権の行使が差別的取扱いであって裁量権の濫用に当たり違法があるというためには、その差別的取扱いを受けたとする本件係争期間において、各個人控訴人らが比較の対象とされた非組合員に比べて勤務実績や能力等、昇任、昇格、昇給に関する諸条件が格別劣るわけではないことが個別的に立証されなければならないことは先に説示したとおりである。〔中略〕
 各個人控訴人らは、その入関年次別に、また個人別にみて、格差の内容及び格差の程度に差はあるものの〔中略〕、控訴人らが主張する標準対象者はもとより、同年同資格で入関した非組合員中最も処遇の遅れた者と同程度かそれより低位の処遇を受けていることが認められ、また個人控訴人の大部分については、職務の一般的能力に関する限り非組合員平均より劣るものではないと認められる。しかしながら、本件係争期間中、個人控訴人らの中には、控訴人組合の活動の一環として、正当な組合活動とは到底いえない無許可庁舎内集会、抗議行動、プレート着用、庁舎建物ビラ貼り等の非違行為を繰り返し行い、病気休暇日数や遅刻と目すべき始業時休暇取得回数が平均をかなり上回る者が少なからず存在することが認められるのである。これらの個人控訴人らの非違行為や出勤状況等から窺われる勤務成績等には、かなりの個人差が認められるものの、その非違行為や休暇等が個人控訴人らの間でも最も軽度の部類に属する者についても、その内容、程度に照らし勤務成績評価への悪影響は看過できないものがある。〔中略〕昇任等に関しては任命権者の大幅な裁量を認めるべきである以上、個人控訴人らの本件係争期間中の処遇が、全体的又は個人的にみて非組合員より低いとしても、そして、横浜税関当局には控訴人組合員に対する前記昇任等に関する全体的、一般的差別意思が存在したとしても、その処遇の格差は、いずれも横浜税関長の昇任等に関する裁量の範囲内にとどまるものというべきであり、本件係争期間中の個人控訴人らに対する処遇がその勤務成績、能力、適性等に照らし著しく不相当であって裁量権の範囲を逸脱しているとまで認めるに足りない。横浜税関当局には、前記のとおり控訴人組合員をその昇任、昇格、昇給等においてなるべく低位に処遇しようとする意図があったことは否定できないのであるが、それにもかかわらず、前記の個別の検討による各個人控訴人の勤務成績等に照らし、結果においては、右の意味での差別意思が処遇の結果に一部なりとも反映したとみるのは困難といわざるを得ない。結局、個人控訴人らの処遇は、本件係争期間中の各評定時期において各人の勤務成績等に応じて横浜税関長がその裁量権の範囲内でした評定の結果であるといわざるを得ないのであって、このような見方を否定して、横浜税関長において、昇任等に関し、本来の趣旨を逸脱した目的や動機をもって裁量権限が行使されたり、考慮すべきでないところの控訴人組合に所属することに着目してこれを考慮し、その結果不当な不利益扱いがされたものであるとする控訴人らの主張は、これを認めるに足りる適確な証拠がないというほかはない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 横浜税関長は、本件係争期間中、全税関の勢力や活動に対する嫌悪、警戒意思と本件第二組合の勢力伸長への期待をもって、職制上司等による控訴人組合からの脱退勧奨、本件第二組合からの脱退と控訴人組合への加入の諌止の働きかけ及び第二組合による新入職員に対する組合加入勧誘活動を含むバス旅行等の企画について、これを容認、助長するなどして関与し、控訴人組合員である新入職員の宿直勤務においてあえて非組合員と接触させないような組合せなどの控訴人組合に対する違法な支配介入を行ったものであるから、国公法上の登録団体である控訴人組合の団結権を違法に侵害したものとして、被控訴人は、国家賠償法一条一項により、控訴人組合に対し、これに対する慰謝料を支払うべき義務がある。〔中略〕
〔雑則-時効〕
 当局の全税関に対する一般的な嫌悪、警戒に基づく諸方策の検討は、〔中略〕昭和四二年ころから本件係争期間の全部又は一部を含む一定期間継続されて行われたとみるのが相当であることからすると、一体的な控訴人組合に対する支配介入行為として把握するのが相当である。〔中略〕被控訴人の控訴人組合に対する不法行為は、少なくとも控訴人組合が本訴訟を提起した昭和四九年六月一一日の三年間の昭和四六年六月一一日以降まで継続していたとみるのが相当であり、それまでには終了したと認めるべき適確な証拠もないから、結局被控訴人の主張の時効の抗弁は採用できない。