全 情 報

ID番号 07634
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 山陽カンツリー事件
争点
事案概要  ゴルフ場の造成・管理経営事業等を目的とする株式会社Y1経営のゴルフ場でキャデイとして勤務していた従業員Xが、キャデイ業務の従事中に、ゴルフ場でプレーしていたY2の打球が右足首を直撃したため、約一〇ヶ月ほど病院への通院を余儀なくされ、また本件事故による後遺症として労基署から労災保険法施行規則別表第一の一四級九号に該当する旨の通知を受けたことから、〔1〕会社Y1に対し、本件事故はY1の安全配慮義務違反により生じたものであるとして、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償の支払を、〔2〕行為者Y2に対し、不法行為に基づく損害賠償の支払を求めたケースで、〔1〕については、Y1はキャデイに対し、抽象的にはプレーヤーの前方に出ないよう相当の注意ないし指導をしているものの、十分な安全対策の指導を怠っているため安全配慮義務違反による債務不履行が認められるとしたうえで、Xにも、安易にプレーヤーの前方に出たという点に過失が認められるとして、認定損害額から八割の過失相殺がなされて、請求が一部認容された(さらに、労災保険に基づきXが受領した休業補償・障害補償給付額分が減額されている)が、〔2〕については、球を打とうとするプレーヤーにおいて、同伴プレーヤー又は担当キャデイの一切の動静に注意を払い、位置関係を完全把握した上で打球を打つべき注意義務まではないから、Y2には過失があったと認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 民法415条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1999年3月31日
裁判所名 神戸地姫路支
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 154 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 時報1699号114頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 雇用契約上の安全配慮義務に怠りがないと認めるためには、抽象的に危険を告知し、一般的に安全対策を指導するだけでは足りず、具体的な状況において、従業員が安全を損なうような行動に出た場合あるいはその恐れがある場合には、適宜安全のための指導をする必要があることは雇用契約に付随する義務というべきであって、前記認定の事実によると、被告会社は、原告に対し、十分な安全対策の指導を怠ったものといわなければならず、安全配慮義務違反の債務不履行があったと認められる。〔中略〕
 通常ゴルフプレーヤーが球を打つに際しては、前方に同伴競技者等がいないこと、同伴プレーヤー等がいる場合には、その者らに対し、自己がこれから球を打つことについて注意を喚起すべき義務があるものと解されるところ、右義務はキャディに対しても同様であるというべきである。
 しかしながら、ゴルフがスポーツであり、スポーツに厳格な注意義務を求めるのは相当ではないこと、同伴プレーヤーらとしても、パーティ全体のプレーの流れや状況等については当然把握しているはずであること等に照らせば、球を打とうとするプレーヤーにおいて、同伴プレーヤー又は自己のパーティを担当するキャディの一切の動静に注意を払い、それらの者の位置関係を完全に把握した上で打球を放つべき注意義務まではないというべきところ、前記認定の事実及び通常自己の前方にキャディが移動していることは予想し得ないこと等を総合すると、被告Y2において第二打を放つ際に、キャディである原告が前方に移動中であることを予見又は予見し得るとはいえないことに帰する。
 3 そうすると、被告Y2において、本件事故発生について過失があったとは認められない。〔中略〕
 原告の右足関節はその機能が全廃ではないがそれに近いものであることが認められ、これは、労働者災害補償保険法施行規則別表第一の一〇級一〇号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当すると認められる。〔中略〕
 前記認定の後遺障害の原因は、右腓骨神経麻痺と反射性交感神経性異栄養症症候群が合併した状態であると思われること、右神経麻痺の原因は特定できないこと、反射性交感神経異栄養症症候群は軽微な外傷を契機としても発症しうること、原告の後遺障害の主因は右腓骨神経麻痺であり、主因の関与比率が六ないし七割程度と見られること、もっとも本件事故態様及び初診時の原告の骨折の状態ないし程度からすると、原告の後遺障害の原因となるような神経麻痺が生じるとは通常考えられないこと等の事実が認められる。
 右事実を総合すると、本件事故と原告の後遺障害との間に事実的因果関係を認めることはできるものの、その相当性の判断としては、損害の公平な分担という不法行為の制度趣旨に照らし、一〇〇パーセントの因果関係を認めるのは相当ではなく、いわゆる素因的要素による減額と、相当性の立証が完全になされていないとの観点から、右後遺障害による損害の五〇パーセントを減じるのが相当である。〔中略〕
 本件事故は、被告会社の安全配慮義務違反による部分もあるが、被告会社は、抽象的にはプレーヤーの前方に出ないよう相当の注意ないし指導をしており、またプレーヤーの前方に出ないことは、ゴルフ競技に携わる者として基本的な事項であるといえること、換言すれば、プレーヤーの前方に出ることが自己の身体の安全を害する危険性は通常十分認識し得るということからすると、本件事故は、原告が右の諸点に反して安易にプレーヤーの前方に出たことによって生じたといえるのであって、大幅な過失相殺はやむを得ない事案であり、前記説示の諸点からすると、原告に生じた損害の八割を減じるのが相当である。