ID番号 | : | 07639 |
事件名 | : | 賃金請求控訴事件(3076号)、附帯控訴事件(5385号) |
いわゆる事件名 | : | 都南自動車教習所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 自動車教習所の経営等を主たる目的とする株式会社Yに雇用され全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方労働組合・神奈川県自動車教習所労働組合Y自動車教習所支部に所属する組合員であるXら三八名が、昭和五三年以来、毎年のベースアップに関してはYと労使交渉を行い、その結果を労働協約として締結することによって、ベ・ア分が支給されていたが、平成三年度から平成七年までの各ベ・ア交渉で合意したベ・ア加算額につき労働協約として労組法一四条所定の書面協定書を作成することについては、平成三年に就業規則改訂により支部の合意なくして導入された新賃金体系にも合意することになるという理由でこれを拒否していたため、Yからは、書面作成という法所定の要件を充足しておらず労働協約としての効力が発生していないことを理由にベ・ア分が支給されなかったことから、ベ・ア分についてはすでに労使合意が成立しており賃金請求権は発生しているとして、主位的請求としてベ・ア分の賃金支払を、予備的請求として同未払は不当労働行為に該当するとして不法行為による損害賠償の支払を請求したケースの控訴審(Y控訴)で、原審の結論と同様に、Yがベ・ア分の支給を拒む理由として書面作成がないことを主張するのは、支部が記名押印することができないことを見越してベ・ア分の支給を取り留める口実にしたものであることからすれば、信義に反するとして、ベ・ア分に関するXとYとの間の合意は、労働協約として成立し、規範的効力を具備しているとして、Yの控訴が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働組合法14条 労働基準法115条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 協約の成立と賃金請求権 雑則(民事) / 時効 |
裁判年月日 | : | 1999年11月22日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ネ) 3076 平成9年 (ネ) 5385 |
裁判結果 | : | 棄却(3076号)、一部認容、一部棄却(5385号)(上告) |
出典 | : | 民集55巻2号424頁/労働判例805号28頁/労経速報1780号7頁 |
審級関係 | : | 上告審/07735/最高三小/平13. 3.13/平成12年(受)192号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-協約の成立と賃金請求権〕 被控訴人らは、控訴人と支部との間で本件合意が成立したことを根拠として、右各ベースアップ分に相当する未払賃金等の支払を求めているのであるが、その請求権が発生したといえるためには、本件合意が支部と控訴人との間の労働協約の内容となることが必要であり、本件合意は、労働組合法14条所定の労働協約として成立することにより、規範的効力を具備することになる。そして、労働組合法14条が、労働協約は書面に作成して両当事者が署名し又は記名押印することによってその効力を生ずると定めた趣旨は、労働協約が労使間において、労働条件の基準を設定する法規範としての作用を営むことから、労働協約の存否及び内容について後日当事者間に紛争が生ずることを防止するため、労働協約の締結に当たり、当事者をして慎重を期せしめ、その内容の明確化を図るとともに、当事者の最終的な意思を明確にすることにある。 したがって、右の立法趣旨からすれば、書面化されなかった労使間の合意については、労働協約としての効力を有しないと解される。〔中略〕 控訴人は、各時期の協定書作成の段階に至って、支部が新賃金体系の導入に同意する形式となる書面(協定書)を作成して、支部に対し記名押印の要求(協定書作成の提案)をしたものであるが、これは、支部がそのような書面に記名押印することがないことを見越して、控訴人が本件合意によるベースアップ分の支給を取り止める口実にしようとしたもので、まことに不誠実な要求(提案)であるといわざるをえない。さらに、すでに認定した本件合意前後の経緯、なかんづく、控訴人と支部との間において昭和58年度のベースアップ等については協定書が作成されないまま合意されたベースアップ分が支給されたこと、平成3年度の夏期賞与額に関して成立した合意及びその協定書は、新賃金体系による賃金を基準として算出するものであったこと、控訴人がA会の組合員及び非組合員に対しては各ベースアップ分を各年度の4月に遡って支給していることを考慮すると、控訴人が、本件合意によるベースアップ分の支給を拒む理由として労働組合法14条所定の書面が作成されなかったことを主張することは、信義に反するものであり、許されないというべきである。そうとすれば、本件合意によるベースアップ分については、本件合意がされた各時期の直後ころ(具体的時期は、本件合意がされた各時期の約10日経過後とすると、平成3年度につき後記推認により同年11月11日、平成4年度につき同年7月8日、平成5年度につき同年5月24日、平成6年度につき同年7月16日、平成7年度につき同年8月14日である。)に、その旨の協定書が作成され両当事者が署名し又は記名押印した場合と同視すべきであるから、本件合意は、労働協約として成立し、規範的効力を具備していると解するのが相当である。〔中略〕 〔雑則-時効〕 被控訴人らは控訴人に対し、別件訴訟において和解が打ち切られた平成5年9月22日まで本件未払賃金の支払を催告していたものと解すべきであり、右平成5年9月22日は、平成3年度4月分から2月分までの賃金請求権のいずれの履行期からも2年未満であり、かつ、本件訴訟が提起された平成6年3月8日までに6か月を経過していないので、平成3年度4月分から2月分までの賃金請求権については、消滅時効が中断され、完成していないものである。 |