全 情 報

ID番号 07643
事件名 公務外認定処分取消請求事件
いわゆる事件名 地公災基金群馬県支部長(桐生市消防職員)事件
争点
事案概要  勤務日と非番日を交互に設定されて勤務していた消防吏員であったA(当時四一歳・肥満傾向、高脂血症、多量の喫煙習慣あり)が消防署内で勤務中、午前二時三〇分ころ仮眠していたところ火災出動指令により起こされ、消防車に乗り込んだ直後、全身痙攣状態となり、急性心不全により死亡したため、Aの妻Xが、Aの死亡を公務上であるとして地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、地方公務員災害補償金群馬県支部長Yにより公務外認定処分がなされたため、右処分の取消しを請求したケースで、Aは精密検査を必要とされながら受検せず、また月例訓練においても顔面蒼白となっていたこと等から、Aの動脈硬化症は相当程度進行し、心筋梗塞の発症、急死に至る高度の危険性が存在していたものと推測され、これが本件疾病発症時の救急出動を契機として心筋梗塞に至ったと見ることができるとしたうえで、Aの勤務状況は医師による診察を受けられない状況にあったとは考えられず、また過度の緊張を要するものではないうえ本件疾病発症に至る前の勤務状況も精神的負担を強いるものであったとはいえないとして、本件疾病の発症は、Aの有する体質的素因の自然的増悪が有力な原因となって生じたものとみることができ、本件疾病について公務の遂行が相対的に有力な原因であったと認めることができないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 地方公務員災害補償法45条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 2000年1月28日
裁判所名 前橋地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (行ウ) 5 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例815号62頁
審級関係 控訴審/07792/東京高/平13. 8. 9/平成12年(行コ)99号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 地方公務員災害補償制度は、使用者の支配下で労務を提供する過程において、その業務に内在ないし随伴する危険が現実化し、被用者がそのために負傷し、又は疾病にかかった場合等に、使用者の過失の有無に関わらず、その危険が現実化したことによる被災者の損失を定型的・定率的に賠償しようとする労働者災害補償制度と同趣旨の制度であるから、公務と死亡との間に公務起因性があるといえるためには、公務がなければ疾病等が発症しなかったという条件関係が必要であることはもとより、負傷又は疾病と公務との間に、負傷又は疾病が公務に内在ないし通常随伴する危険の現実化であると認められる関係、すなわち相当因果関係があることが必要である。
 したがって、負傷又は疾病と公務との間に合理的な関連性があれば公務起因性があるとすべきである旨の原告の主張は採用することができない。
 2 また、右相当因果関係の評価に当たっては、公務が疾病等発症の唯一かつ直接の原因である必要はなく、被災者に疾病の基礎疾患があり、その基礎疾患も原因となって疾病等を発症した場合も含まれると解されるが、右地方公務員災害補償制度の趣旨からすると、被災者が基礎疾患を有する場合には、当該公務が死亡の原因となった当該疾病に対して、他の原因と比較して、相対的に有力な原因となっていると認められることが必要であり、当該公務が単に疾病等発症の誘因ないしきっかけになったに過ぎない場合には、相当因果関係は認められないと解すべきである。
 そして、公務が相対的に有力な原因であるというためには、被災者の業務内容、業務環境、業務量などの就労状況、基礎疾患の病態、程度などからみて、公務の遂行が基礎疾患をその自然的経過を超えて増悪させたと認められる程度に過重負荷となっていることが必要であるというべきである。そして、右過重負荷の判断にあっては、公務に内在ないし通常随伴する危険の現実化によって職員が負傷し又は疾病にかかった場合の損失を定型的・定率的に賠償しようとする災害補償制度の趣旨からすれば、一般通常人を基準として判断すべきであろう。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 Aの虚血性心疾患ないし動脈硬化症の危険因子は、かねて高血圧、高脂血症、多量の喫煙習慣、肥満等があった上に、昭和62年ころには、血液検査の結果でも精密検査を要するとされながらこれを受検せず、平成3年当時は、ジョギングをしても顔を赤くし、肩で呼吸するほどの状況であったし、山道を登るにも何回も立ち止まって呼吸を整える必要を生ずる状況であり、妻である原告から人間ドックに入ることを勧められながら、これも受検せず、平成4年の月例訓練においても顔面蒼白となり息苦しい様子を示すなどしたものであるから、Aの動脈硬化症は相当程度進行し、心筋梗塞の発症、急死に至る高度の危険性が存在していたものと推測され、これが、本件疾病発症時の救急出動を契機として心筋梗塞に至ったとみることができる。
 そして、Aの勤務状況は、勤務日と非番日が交互にあった上に、非勤務日もあったのであるから、医師による診察を受けられない状況にあったとは考えられない。
 たしかに、仮眠中に救急出動指令を受けて、救急出動をすること自体は、相当程度の緊張を要し、肉体的、精神的負担を強いられるものであることは予想されるが、Aはそのような勤務を継続していたのであるから、これが過度の緊張を要するものであったとみることはできないし、本件疾病発症に至る前の勤務状況も精神的負担を強いるものであったとはいえないことも既にみたとおりである。
 以上によれば、Aに発症した急性心筋梗塞は、Aの有する体質的素因の自然的増悪が有力な原因となって生じたものとみることができ、本件疾病について、公務の遂行が相対的に有力な原因であったと認めることはできない。
 結局、公務と本件疾病との間に相当因果関係は認められない。