全 情 報

ID番号 07648
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 北海道交運事業協同組合事件
争点
事案概要  一般乗用旅客自動車運送事業を営む法人を組合員として、組合員の取扱う自動車等の共同購入を目的とする中小企業等共同組合法に基づく共同組合Yで経理・一般事務、電話交換等の業務に従事してきたXが、Yが勤続年数の長い職員の人件費削減のためになした解雇通知を拒否するとともに、労働組合支部を結成してYに対し雇用継続を求めたところ、給与が約五万円減額されたものの無線センターで勤務継続できることになったが、Yでは、タクシー業界の規制緩和・自由競争に備えた生産性向上のために衛星通信回線利用の自動配車システムの採用により余剰人員整理の必要が生じたことにより、就業規則に基づき解雇されたことから(Xを含む無線センターの余剰人員六名が解雇された)、右解雇は整理解雇の要件を充足せず権利濫用に当たり無効であるとして、労働契約上の地位の確認及び賃金支払を請求したケースで、新制度の採用は企業経営上合理的なものであるから余剰人員の必要性・合理性が肯定できるとしたうえで、地図探索能力に問題のあったXを解雇対象者として選定したことにも合理性が認められ、Xを解雇するとしたYの判断が不当・不合理であるとは言い難く、また本件解雇前にXは組合員として活動していた事実もないことから、YがX所属の労働組合と団体交渉をしなかったことをもって整理解雇の手続の妥当性を欠くと評価することができないなどとして、本件整理解雇は有効であるとし、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 2000年4月25日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 1411 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例805号123頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、被告の就業規則19条1項5号の「事業の縮小、廃止、その他、止むを得ない事業の都合により剰員となったとき」に基づくものであるから、企業の経営の合理化による余剰人員の整理、いわゆる整理解雇の性質を有するものと認められる。そして、一般に解雇は、労働者の生活に重大な影響を与えるものであり、整理解雇は、労働者の責めに帰すべき事由がなく使用者側の都合による解雇であるから、人員整理をする経営上の必要性、被解雇者の選定の合理性、解雇回避の努力を尽くしたか否か、解雇手続の妥当性などの諸事情を総合考慮して、整理解雇をする相当の理由がない場合には、解雇権の濫用として整理解雇することは許されないと解すべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 1 人員整理をする経営上の必要性については、経営者の合理的な判断に基づく裁量が認められるべきであり、タクシー業界の規制緩和・自由競争に備えて生産性を上げるためにGPSシステムを採用することは企業経営上合理的なものと認められるし、GPSシステムの採用によって無線センターに配属された職員のうち6名の職員が余剰人員なるとの判断も不合理とは認められないから、無線センターのうち6名を余剰人員として整理をする経営上の必要性・合理性は肯定できる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 2 更に、無線センターの余剰人員6名の選定についても、退職予定者1名と電話対応に問題のあった4名のほか、他の職員に比べて地図検索能力に問題のあった原告を選定したものであり、その選定に合理性がなかったとは言えない(原告が女性であることを理由に選定したとは認められない)。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 3 原告を解雇したことについても、原告は、運転免許証がないから他の職員のように乗務員として配置転換することはできないし、被告ないしその組合員であるタクシー会社の事務員の勤務内容や勤務状況に照らせば、原告を配置転換すべき事務職を見出すことはできず、原告の家庭状況も考慮した上、原告を解雇するとした被告の判断が不当・不合理であるとは言い難い(被告の経営状況は、原告の雇用を継続するだけの余裕がある(原告を解雇しなければ被告の倒産が必至であるものではない)とは認められるが、だからと言って、配置転換(ないし出向)すべき適当な職種がないにもかかわらず、余剰になった人員の雇用をなお継続することを法的に強制・要求することはできない。また、無線センター部門の6名の人員整理であるから、一時帰休や希望退職の募集の手段をとらなかったことをもって、解雇回避の努力を尽くしてないと評価することもできない)。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 4 また、被告の就業規則や原告所属の労働組合との間の労働協約において、いわゆる人事同意約款があるとの事実は認められないし、原告が本件解雇前に労働組合の組合員として活動していた事実もうかがえないのであるから、本件解雇に当たり、原告所属の労働組合との団体交渉をしなかったことをもって、整理解雇の手続の妥当性を欠くと評価することはできないし、A部長の原告に対する解雇の説明が十分であったか否かは問題とする余地はある(無線センターでの余剰人員の整理の一環であり、原告を配置転換すべき場所がないことの説明は一応されている)としても、本件解雇を無効とするだけの手続違背があるとは認められない。