全 情 報

ID番号 07650
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 関西電力事件
争点
事案概要  電力株式会社Yで工事稟議起案等の業務を行っていたXが、視力異常が生じ、その治療等のため、有給休暇を取得後、さらに六ヶ月間欠勤したが、回復しないため、休職して通院治療し、視力障害三級の認定を受けたが、休職期間満了二カ月前に病院から「中等度の労働は可能」との診断を受けたため、復職を申し出たところ、Yの就業規則では業務外の事由による欠勤が六ヶ月を超えるときは休職させ、休職事由が止まず休職期間満了したときは、退職させる旨規定されていたため、Yから休職期間満了(Xの場合二年が六ヶ月)による解雇の取扱いがなされたことから、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認及び賃金支払を請求したケースで、裁判所は、証拠取調べ終了後、和解を勧告し、Xの職務遂行能力の程度等の把握のためにXを三ヶ月試用するとともにXの再雇用の方向で当事者双方の譲歩がなされたものの、Xがなお解雇撤回を求め、また復職後の賃金額等につき合意に至らなかったため、民事訴訟法一七条に基づき、諸般の事情を考慮して、Xは休業期間満了を以って合意退職し、Yにおいて再雇用するとの決定がなされた事例。
参照法条 民事調停法17条
労働基準法2章
民法493条
民法623条
体系項目 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停
休職 / 傷病休職
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
裁判年月日 2000年5月16日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (メ) 11 
裁判結果 民事調停法17条の決定(確定)
出典 タイムズ1077号200頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇と争訟・付調停〕
 本訴は、平成九年二月一九日に提訴されたもので、同年五月二一日第一回口頭弁論期日が開かれ、以後七回の口頭弁論期日を一回の進行協議期日を経て、平成一〇年一一月一八日及び同年一二月二日の両日、証人三名と原告本人の尋問が実施された。裁判所は、証拠調べ終了後、和解勧告を行った。
 和解においては、被告は、かんでんエルハートにおいてOAオペレーターとしての採用を提案したが、原告が、現職への復帰を強く求め、原告の執務能力の有無、程度が争点となったことから、裁判所は、原告の執務能力の有無、程度について検証の機会をもつことを提案し、原、被告とも、その位置づけについての考え方に相違はあったものの、一応了解した。以後、その方法等について協議が続けられ、平成一一年二月二二日には、実施場所が裁判所外となり、裁判官の検証の必要などから、自庁調停に付された。
 被告は、原告の執務能力の検証を、被告社屋において試用として行うことを了解し、調停期日において、試用の方法、期間、試用に当たって作成する協定書の内容について協議し、併せて、被告においてパソコンや拡大読書器の準備を行うなどしてきた。平成一一年四月五日の第三回期日には、懸案となっていた試用期間及び原告が協力を求める社会福祉法人Aの担当者の被告社屋立入りについて合意ができ、同月三〇日に、被告大阪北支店において、設備等の確認をしたうえで、当事者間において協定書及び誓約書を作成して試用を開始することになり、かつ、試用期間中に発生する問題に対応するため、概ね二週間毎の七回の期日が指定された。〔中略〕
 協定書の概要は、次のとおりである。ただし、Yは被告、Xは原告である。
 第一条(試用の目的)今回の試用は、裁判所からの要請により、一定期間Xに原職を試みさせたうえで、Xが原職をどの程度行うことが出来るか判定することを目的とするものである。
 第二条(試用箇所)Xの試用箇所はYの大阪北支店とする。
 第三条(試用期間)Xの試用期間は平成一一年五月一〇日から一か月間とし、以降二回(各一か月間)を限度に試用期間を更新することができる。
 Yは、Xの作業遂行状況によっては、試用期間中であっても裁判所及びXに試用の打ち切りを申し出、協議のうえで試用を打ち切ることがある。
 第四条(試用日、試用時間)略
 第五条(試用期間中の金銭の支払)略
 第六条(試用期間中の作業内容)試用期間中にYがXに付与する作業内容は、図面整備工事、鉄塔保護柵修理工事、鉄塔敷地修理工事の三件名に関する全工程(現場調査、禀議作成、着工打合せ、竣工検査等)とする。
 第七条(試用期間中の補助者)略
 第八条(作業遂行状況の報告)Y及びXは、各々、Xの第六条に掲げる作業の遂行状況について、試用期間中、適宜裁判所に報告するとともに、試用期間終了後、裁判所に報告する。
 第九条(A職員の来社)略
 第一〇条(協定書、誓約書の遵守)略
 なお、試用期間については、一か月と規定されたが、調停の席上、特段の事情がない限り二回に限って更新拒絶はしないことが確認された。〔中略〕
〔休職-傷病休職〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 原告は、休職期間満了前に復職の申出をしているので、原告が、従業員としての債務の本旨に従った履行の提供ができるのであれば、休職期間の満了を理由とする解雇はその理由を失うこととなり、本件解雇は合理的理由がないものとして無効となるというべきである。そして、労働者が私病等により休職となった以後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に就労可能な業務の有無を検討すべきであり、そのような趣旨の裁判例もある(大阪地方裁判所平成一一年一〇月四日判決・労働判例七七一号二五頁、最高裁判所平成一〇年四月九日第一小法廷判決・裁判所時報第一二一七号一頁参照)。
 右裁判例が、労働契約に職種や業務内容の限定がない場合の労務の提供について、労働者の能力、経験等を勘案しながら、当該労働者の本来の業務以外の業務内容についても斟酌すべきであるとしたこと、他との業務調整の可能性の範囲を当該労働者の所属する部署内に限定していないことは、本件においても、原告について配置の現実的可能性のある業務を検討するに当たり、原告が従前担当していた業務以外の業務や他の部署における業務の検討を要求するものである。また、身体障害等によって従前の業務を担当できなくなった場合に他の業務の配置可能性を検討する際、健常者と同じ密度と速度の労務提供を要求すれば、労務提供が可能な業務はあり得なくなるのであって、雇用契約における信義則によれば、職務分担の変更を考慮し、当該労働者の能力に応じた職務を分担させる工夫をすることも要求されるというべきである。
 しかしながら、労働契約は、契約として、提供される労務と賃金の間に対価関係が存在するものであるから、債務の本旨に従った履行の提供をなし得るというためには、降格が肯定される場合があるとしても、その賃金に相応する労務の提供が可能でなければならない。健常者と同じ密度と速度の労務提供は要求されないとしても、そこには限界があるといわなければならない。〔中略〕障害者雇用促進法の精神を考慮しても、管理者的な地位にある、あるいは専門職を担当する労働者が単純軽作業しかできなくなった場合に、従前の雇用契約がそのまま維持されるものとはいえない。〔中略〕
〔解雇-解雇と争訟・付調停〕
 4 決定主文(調停案)について
 以上の諸事情を前提に、調停案を検討する。
 本件解雇の効力について、本件解雇の効力については、原告は解雇撤回を求め、被告は撤回を拒否するところである。ただ、双方とも、本件解雇の日に合意退職することは、可能とする。そこで、本決定においては、平成八年一二月一日合意退職とした。本件解雇は、同日の満了による休職期間満了によるものであるから、本件解雇は効力を生じなかったこととなる。
 そこで、退職金等の関係では、合意退職を前提とした給付となる。
 賃金については、原告の主張する額に至っていない。これは、試用の結果、従前業務を全面的に行うのは困難であり、他の業務を付与せざるをえないこと、可能な工事設計業務についても、作業効率は相当劣るため、原告が現実に就労した場合にどの程度の労務提供をなし得るかは未知数の部分が多いことを考慮し、右の額でやむをえないものとした。温情で高額の賃金を支払わせることは、労働者の尊厳を損なうことにもなる。ただし、被告には、次年度以降において、正当な評価、格付、能力に応じた賃金の支払を求める。
 いうまでもないが、事件の合意による解決は当事者双方に互譲の精神がなければ不可能である。双方に、たてまえにこだわる面があるが、これに意味があるか否かは検討を要しよう。