全 情 報

ID番号 07658
事件名 謝罪広告等請求控訴事件
いわゆる事件名 群英学園(名誉毀損)事件
争点
事案概要  進学予備校を経営する学校法人Xでは、かねてから労使間の対立、理事者の間での対立等に起因する紛争が少なくなく、人事のあり方や処遇等の労働条件をめぐって紛争があったところ、Xに勤務する指導部長兼国語の専任教師と事務次長であったYら二名が、〔1〕理事長X1に不正経理の疑いがあり、職員の退職勧奨など職場環境が悪化している、X1がXの資金を流用しているなどと主張してX1の退陣要求を申し入れるなどしたほか、〔2〕第三者である高校及び短大の教職員労働組合AにXらの不正経理問題や右申し入れの経緯等を報告するなどしたことから、XはYに対し自宅待機を命じたところ、Yらは右自宅待機処分の無効確認訴訟を提訴し(途中で取り下げた)、〔3〕その直後に記者会見等を開きマスコミに対し同起訴に係る事実を説明した結果、翌日の新聞にはX1の不正処理問題等が掲載されたため、XらがYらに対し、謝罪広告の掲載及び慰謝料の支払を請求したケースの控訴審(XY控訴)で、原審では損害賠償請求が一部認容されていたが、〔1〕〔2〕については、不法行為に基づく損害賠償請求が棄却され、また〔3〕については、認定事実からすれば、X1に不正行為があったものと信ずるについて相当な根拠があり、Yらによる事実の公表は、Xの運営の適正化を図るという公益目的から行われたと考えることができるから、X1らに対する名誉毀損行為として不法行為を構成するものではないとして原審の判断が取消されて、Yの控訴が一部認容された(原審での敗訴部分におけるXらの控訴は棄却された)事例。
参照法条 民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 2000年8月7日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ネ) 1104 
裁判結果 一審被告敗訴部分取消、一審原告請求・控訴各棄却(上告)
出典 労働判例799号40頁
審級関係 一審/前橋地/平12. 1.13/平成10年(ワ)20号
評釈論文 藤原稔弘・労働法律旬報1517・1518号116~119頁2001年12月25日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 被告らが、平成9年7月8日及び同月11日に、高校組合及び短大組合を訪ねて両組合の役員らに対して行った被告らの原告Xらに対する退陣要求等の経過、状況等に関する説明内容がどのようなものであったかを直接明らかにすることのできる証拠は見当たらない。しかし、その後の右の組合の平成9年7月12日付けの要求書(〈証拠略〉)に「原告学園の不透明な金銭的な運営が明らかになった」といった記載があることからすれば、右の両組合の役員らに対する説明の機会に、被告らから、原告Xらによる原告学園の運営に関して、何らかの経理上の不正行為があったとの説明がされたことは、十分に推認できるところというべきである。
 もっとも、右の説明が、被告らの勤務する原告学園の職員らとも密接な関係にある両組合の役員という、いわば被告らの内部関係者ともいうべき立場にある者に対して行われたにすぎないものであり、しかも、右の経理上の不正行為の内容等について、どの程度までに具体的な事実を摘示した説明が行われたかの点が不明であることなどからすれば、このような説明が、直ちに原告Xらに対する関係で名誉毀損の不法行為を構成するものとまですることは困難なものというべきである。〔中略〕
 被告らが右の記者会見の席で公表したA工営による高進館の工事に関して原告Xによる経理上の不正行為があったとする事実については、真実右の工事が架空のものであったか否かはともかくとして、被告らにおいて、少なくとも、この工事が架空のものであって、この工事代金の支払に関して原告Xに不正行為があったものと信ずるについて、相当な根拠があったものというべきである。
 そうすると、被告らによる右のような事実の公表は、前記認定のような事実経過からして、私立学校法に基づいて設立された学校法人として適正な会計事務の処理を義務づけられている原告学園の会計事務処理の適否という公共の利害に関する事実について、原告学園の運営の適正化を図るという公益目的から行われたものと考えることができるから、これは、原告Aらに対する名誉毀損行為として不法行為を構成するものではないものというべきことになる。〔中略〕
 原告学園においては、従前から原告Xによるその運営をめぐって紛争があり、理事者側のBからさえも、原告Xには多くの不正行為があるものとしてその退陣を要求しようとするという動きが出たこともあること、さらに、少なくともA工営による高進館の工事に関する原告Xによる不正経理問題については、被告らがこれを真実であるものと信ずるについて相当な根拠があったものと考えられることなどの前記認定のような各事実関係からすれば、この被告らの原告Xらに対する辞任要求行為が違法な脅迫、強要行為として不法行為を構成するものとまですることには、なお疑問があるものとせざるを得ない。また、この席でのやり取りが、原告Xを含む原告学園の理事者側のメンバー4名と被告らという限られた者の間で、しかも他とは独立した室内において行われたものと考えられることからすると、これが原告らに対する名誉毀損行為を構成するとすることも困難なものとせざるを得ない。