全 情 報

ID番号 07659
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ザ・スポーツコネクション事件
争点
事案概要  スポーツクラブ等を経営する株式会社Yでは、就業規則に、業務上やむを得ない場合は公休日を一週以内の他の日と振替えることがあり、前日までに振替による休日を指定して従業員に通知する旨が規定されていたものの、実際には従業員が公休日に出勤した場合、当月又は翌月の振替休日取得を原則に、やむを得ず取得できない場合に二年以内に取得することを認める取扱がなされてきたが、平成一〇年に、二カ月以内に振替休日を取得するよう内容を改正するとともに、課長代理以上の役職者についてはすでに発生した振替休日の取得を一切認めないとの決定がなされたため(係長以下については六ヶ月以内の経過措置あり)、当時、振替休日が一三三日に達していた経営課長であったXが、右決定が有効であると思いこみ、平成一一年二月一五日をもってY社を退職する旨を申出たが、実際には右決定は無効、退職の申出は錯誤により無効、振替休日をすべて取得した場合の同年八月一五日が退職日であると主張して、主位的に、その間の未払賃金などの支払を請求し、予備的に、同決定が有効であるとしても、公休日に出勤した一三三日分の賃金相当の不当利得金の支払を請求したケース(なお、Xの管理監督者性についても争われた)で、〔1〕については、本件退職の申出が錯誤により無効であるということはできないとして平成一一年二月一五日をもってYを退職しているとして請求が棄却されたが、〔2〕については、YはXから提供された労務を不当に利得したものと認められその利得を返還する義務を負うものというべきであるとし、一日当たりの基本給に、Xが公休日に出勤しいまだ振替休日を取得していない公休日一三三日を乗じた額につき請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法35条
労働基準法41条1項2号
民法95条
民法627条1項
労働基準法37条
体系項目 休日(民事) / 休日の振替え
労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
裁判年月日 2000年8月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 18061 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例804号81頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休日-休日の振替え〕
 本件において、被告は、公休日出勤について、業務上の都合により公休日に出勤する場合は、事前に所属長経由で公休日に出勤する旨の届出をしなければならないこと、事前の届出のない場合には、公休日の出勤を認めないこと、公休日に出勤した場合は、原則として当月又は翌月のローテーション内で調整し振り替えて公休日を取得しなければならないこと、やむを得ず振替休日を取得できない場合に限り、満2年間に限り残数が保留され消滅しないこと、という取扱いをしてきた(前記第二の二3、第三の一1(四))ところ、本件就業規則13条が「業務の都合でやむを得ない場合は、前条の休日を1週間以内の他の日と振り替えることがある。」と定めていることからすれば、本件就業規則13条のうち公休日の振替の時期に関する部分は右の取扱いの限度で修正されたものというべきであるが、被告は、右の取扱いを平成10年12月16日をもって、出勤した公休日から2か月が経過した後は公休日をほかの日に振り替えて公休日を取得することはできないという取扱いに改めたのであり(前記第二の二4)、この公休日の振替の時期に関する取扱いの変更は、振替日はできる限り休日労働をさせた日に近接した日であることが望ましいという前記の考え方に沿うものであるといえることに照らせば、この公休日の振替の時期に関する取扱いの変更が当然に無効であるということはできない。仮にこの公休日の振替の時期に関する取扱いの変更によって不利益を受ける従業員がいたとしても、その被った不利益を別の方法によって救済すれば足りるのであって、この公休日の振替の時期に関する取扱いの変更によって不利益を受ける従業員がいることを理由に、この公休日の振替の時期に関する取扱いの変更それ自体を無効であると解すべきではない。〔中略〕
〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕
 労基法41条2号にいう管理監督者とは、経営方針の決定に参画し又は労務管理上の指揮権限を有する等、その実態から見て経営者と一体的な立場にあり、出勤退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有する者であると解されるが、右に述べた管理監督者の意義に照らせば、課長代理の役職以上の者が労基法41条2号にいう管理監督者に当たるかどうかについては課長代理の役職以上の者の勤務の実態に即して判断されるべきである〔中略〕ところ、課長代理の役職以上の者の出退社時間はタイムレコーダーによって管理されていなかったこと、課長代理の役職以上の者には残業代が支払われていないことは、当事者間に争いはないが、これらの事実だけでは、被告において課長代理の役職以上の者が労基法41条2号にいう管理監督者に当たると認めることはできない。そして、原告が平成8年4月1日以降経理課長の役職にあったこと(前記第三の一1(三))からすれば、原告は経理課に所属する従業員を管理監督する立場にあったといえること、原告は課長という役職に対する手当として1か月当たり約3万円程度の支給を受けていたこと(前記第三の一1(三))、これらの事実を併せ考えても、原告が労基法41条2号にいう管理監督者に当たることを認めることはできない。〔中略〕
〔退職-退職願-退職願と錯誤〕
 原告は、本件公休日出勤の取扱いの変更のうち、課長代理の役職以上の者には平成10年12月15日までに公休日に出勤していまだ振替休日を取得していない分について同月16日から6か月以内の振替休日の取得を認めないとした部分が無効であるのに有効であると誤信して、本件退職の申出をしたのであり、本件退職の申出は要素の錯誤として無効であると主張する。
 しかし、原告の主張に係る錯誤はいわゆる動機の錯誤であり、動機に当たる部分、すなわち、本件公休日出勤の取扱いの変更のうち、課長代理の役職以上の者には同月15日までに公休日に出勤していまだ振替休日を取得していない保留分について同月16日から6か月以内の振替休日の取得を認めないとした部分が無効であるのに有効であると誤信したことが、本件退職の申出の際に表示されたことは、本件全証拠に照らしても、認められないのであって、そうであるとすれば、その余の点について判断するまでもなく、本件退職の申出が錯誤により無効であるということはできない。〔中略〕
〔休日-休日の振替え〕
 本件公休日出勤の取扱いの変更のうち、課長代理の役職以上の者には平成10年12月15日までに公休日に出勤していまだ振替休日を取得していない分について同月16日から6か月以内の振替休日の取得を認めないとした部分は、無効であり、本件公休日出勤の取扱いの変更において、課長代理の役職以上の者にも、係長の役職以下の者と同様に、同月16日から6か月以内の振替休日の取得を認めるべきであった(前記第三の一2(一)(3))のに、被告は、本件公休日出勤の取扱いの変更によって原告が不当に保留していた振替休日の無効を確認しようとした(前記第二の三1(二)(1)ア)というのであるから、被告は、本件公休日出勤の取扱いの変更を従業員に通知した平成10年12月16日の時点において、原告が同月15日公休日に出勤することによって原告から提供を受けた労務について振替休日を取得させず、また、その対価としての割増賃金の支払もしないこととしたというべきであり、そうすると、被告は右の時点において原告から提供された労務を不当に利得したものと認められ、被告はその利得を返還する義務を負うものというべきである。〔中略〕
〔休日-休日の振替え〕
〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 被告の従業員の1年間の公休日101日は、労基法35条1項に定める休日(以下「法定休日」という。)の外に本件就業規則において休日と定められた休日(以下「法定外休日」という。)が含まれているものと解されるところ、法定休日における労働については、労基法37条1項、労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成6年1月4日政令第5号)に基づいて13割5分の率で計算した割増賃金を支払わなければならないが、法定外休日については労基法37条1項に基づいて割増賃金を支払う必要はない。ただ、被告の賃金規程(本件就業規則16条を参照)において法定外休日についても割増賃金を支払うことが定められていれば、法定外休日についても被告の賃金規程において定められた率で計算した割増賃金が支払われることになる。しかし、本件では、被告の賃金規程が書証として提出されていないから、法定外休日について12割5分の率で計算した割増賃金を支払うべきであるということはできない。また、原告が公休日に出勤して振替休日を取得することができるのに、いまだ振替休日を取得していない公休日133日のうち法定休日については13割5分の率で計算すべきであるとしても、133日のうち法定休日が何日あるかは明らかではない。したがって、被告による利得を金銭に評価するに当たって1日当たりの基本給に12割5分又は13割5分の率を乗ずることはできない。