全 情 報

ID番号 07668
事件名 遺族補償費不支給処分取消等請求控訴事件
いわゆる事件名 佐伯労基署長(協栄産業)事件
争点
事案概要  昭和五二年から五六年四月までの間に五回の狭心症発作を起こして通院治療中であった港湾荷役作業とりわけレッカー車運転業務に従事していたA(当時四五歳・虚血性心疾患の既往症を有する高血圧・高脂血症・肥満等の基礎疾患あったが、狭心症発作後は虚血の持続はあるものの悪化傾向はなく安定していた)が、昭和五七年七月末日、最高気温二九・五度の中鉄板仕訳作業に従事し(前日もほぼ同様)、勤務終了後帰宅するや倒れ、心筋梗塞で死亡したため、Aの遺族Xが佐伯労基署長Yに対してAの死亡を業務上の事由によるものとして遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、Yから不支給決定がなされたことから、右処分の取消しを請求したケースの控訴審(X控訴)で、Aの基礎疾患がその自然の経過によって致死的心筋梗塞を発症させる程度に増悪していたとみるのは困難であり、発症前二カ月(発症二カ月前はそれ以前に比べ時間外労働時間が増加し、特に死亡した月の前月は同僚等と比較しても多かった)、特に直前の二週間(労働時間数は一二三時間、それ以前に比べ、早出及び残業が集中していた)による過重な精神的、身体的負荷がAの基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ、右発症に至ったとみるのが相当であり、その間に相当因果関係の存在を肯定できるとして、業務起因性を否定した原審が取消され、Xの控訴が認容された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法12条の8第1項4号
労働基準法79条
労働基準法80条
労働基準法施行規則別表1の2第9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 2000年9月27日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行コ) 24 
裁判結果 原判決取消、認容(上告)
出典 タイムズ1073号162頁
審級関係 一審/07118/大分地/平10. 4.20/平成5年(行ウ)9号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 以上認定の事実によれば、(一)亡Aは、昭和五二年六月から昭和五六年四月までの間に五回にわたる狭心症発作を起こし、その内一部は心筋梗塞に移行し、冠状動脈の多肢病変も指摘されていたが、昭和五六年四月以降の通院治療中の健康状態をみると、血圧は概ね境界域ないし正常に改善され、高脂血症も総コレステロール値が正常値に改善され、心電図所見は、夏季の長時間労働が続いたころの昭和五六年七月及び八月にはRonT、ST低下の悪化、心室性期外収縮がみられるなどして一時悪化したものの、その後は昭和五七年七月一七日まで、虚血の持続はあるものの悪化傾向は認められず安定(改善)していたこと、(二)亡Aは、右のとおり虚血性心疾患の既往症を有する高血圧、高脂血症、肥満等の基礎疾患を有しながら、レッカー車運転を中心とする業務に就いていたのであるが、その業務遂行状況をみると、時間外労働時間は、昭和五七年六月期(三五時間)及び七月期(一四・五時間)は同年四期(一三時間)及び五月期(一一・五時間)に比べて増えており、同僚六人の六月期及び七月期の各平均(一六・五時間、一四・八時間)と比較すると、七月期はほとんど同等であるが、六月期は格段に多く、死亡前一か月余り(六月二六日から七月三一日)をみると、五回の休日(日曜日)のうち三回の休日出勤があり、時間外労働が二二・五時間で、死亡の三日前(七月二九日)に親戚の結婚式に出席するため休みを一日とったものの、その前は一七日間連続して勤務しており、死亡前二週間(最後に心電図検査を受けた翌日である七月一八日から死亡した七月三一日まで)をみると、労働時間は一二三時間(=八時間×一三日+時間外勤務一九時間(乙第三号証の一一、二八))、週平均六一・五時間に及び、それ以前に比べて早出(五回)、残業(三回)が集中している上、死亡当日は最高気温二九・五度(佐伯地方)の中鉄板仕訳作業のレッカー車の運転に従事したものであり(前日もほぼ同様)、レッカー車の運転席にも鉄板等の輻射熱が影響し、暑熱の暴露があったといえること、(三)前記認定の虚血性疾患の作業関連性に関する報告、提言などを併せ考えれば、亡Aの前記基礎疾患がその自然の経過によって致死的心筋梗塞を発症させる程度に増悪していたとみるのは困難であって、発症前二か月、特に直前の二週間に従事した業務による過重な精神的、身体的負荷が亡Aの基礎疾患をその自然の経過を越えて増悪させ、右発症に至ったとみるのが相当であって、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる。したがって、亡Aの発症した心筋梗塞は労働基準法施行規則三五条、別表第一の二第九号にいう「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するというべきである。