全 情 報

ID番号 07669
事件名 療養補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 大田労基署長(日本航空)事件
争点
事案概要  航空会社Aで客室乗務員として勤務する女性社員Xが、三年七ヶ月間は国内線に、その後一年間は国際線に乗務した後、再度国内線に乗務して約二年経過した際に、頸肩腕症候群(転医後に「過労性腰痛症・過労性頸肩腕障害」と病名変更されている)と診断され、約五ヵ月半休業して治療を受けたが(休業後は、作業環境が改善されたほか、X自身も軽減業務に従事し、また十分な休養及び運動等をしたことにより症状は改善している)、大田労基署長Yに対してなした労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の請求につき不支給処分がなされたため、右頸肩腕症候群及び腰痛は過重な勤務に起因とする業務上の疾病に該当するとして、右不支給処分の取消しを請求したケースで、客室乗務員の業務内容・性質が腰部・頸肩腕部に負担や疲労を生じさせるものであり、Xの腰部・頸肩腕部の症状は長年にわたる客室乗務員としての業務に従事した過程において発生したものであること等からすれば、Xの疾病は長年の客室乗務員の業務が有力な原因ではないかと考えられるが、他方で、Xの従事した発症前一年間の業務は過重とはいえず、Xは休日・休暇も取得し、会社Aの労働状況からして通常腰部・頸肩腕部の疲労は休日の休息や運動等により回復可能であると考えられ、また頸肩腕症候群の原因は不明であり、腰痛は日常生活においても頻繁に発生すること等からすれば、Xの疾病とXが従事した業務との間に、労災補償を認めるのを相当とするほどの関係があったとまではいえないことから、本件疾病は業務上の疾病とは認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法75条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法施行規則35条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 2000年9月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行ウ) 81 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1738号119頁
審級関係 控訴審/07810/東京高/平13. 9.25/平成12年(行コ)279号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 6 以上の検討結果に基づき判断する。
 客室乗務員の業務内容・性質が腰部、頚肩腕部に負担や疲労を生じさせるものであること、原告の腰部、頚肩腕部の症状は、長年にわたり原告が客室乗務員としての業務に従事した過程において発生したものであること、証拠上、原告の業務以外に明らかに原告の症状を発生させる原因となった要因はうかがえないこと(原告のタービュランス遭遇に伴う心理的要因は考えられるものの、原告の疾病との関係は可能性の域に止まる。)、客室乗務員に疲労蓄積傾向があることを指摘する医学論文があることなどからすれば、原告の疾病は、長年客室乗務員として業務に従事したことにより蓄積された腰部、頚肩腕部の疲労が慢性化し、頚肩腕症候群ないし頚肩腕障害、腰痛症として発症するに至ったものとして、客室乗務員の業務がその有力な原因ではないかとも考えられる。
 しかしながら、原告の従事した発症前一年間の業務が過重とはいえず、原告は休日、休暇も取得していること(前記六3)からすれば、原告に生じたような腰部、頚肩腕部の疲労は、航空会社A客室乗務員の労働状況(前記二4)からして、通常は休日に休息することや運動をすること等により回復することができるとも考えられるし、このことと、頚肩腕症候群(狭義)の原因は不明であり、個体の肉体的・精神的素因に社会的環境要因が働いて発症することが多いこと(前記五1(一))、腰痛は日常生活においても頻繁に発生し、労働以外の影響も考えられること(前記五2)を併せ考えると、原告の疾病と原告が従事した客室乗務員としての業務の間に、経験則上、業務に内在する危険が現実化したといえるほどの関係、すなわち労災補償を認めるのを相当するほどの関係があったとまではいえないといわざるを得ない。
 七 結論 以上によれば、原告の疾病は業務に起因したものとまではいえないから、これを業務上の疾病とは認められないとした本件処分に違法はない。