全 情 報

ID番号 07677
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 大和交通(損害賠償)事件
争点
事案概要  一般旅客事業等を営む株式会社X1と労働組合Y1(X1に雇用されているタクシー運転手らで組織)との間で、タクシー運賃につき団交が重ねられたが合意に達していなかったところ、X1が、Y1が三日にわたりストを実行し、別組合員又は非組合員等による営業自動車の出庫を実力で阻止したことにより、会社は合計約一九時間、延べ四五台分のタクシーの出庫ができなかったこと、X1の営業車を使用してタクシーパレードを行ったこと等を理由に、組合Y1の執行委員長Y2を懲戒解雇し、組合Y1の副執行委員長Y3及び書記長Y4を出勤停止処分したが、1.X1が、Y1、Y2、組合Y1が加盟する上部団体の執行委員長Y5及び上部団体顧問弁護士で本件ストに立ち会ったY6に対し、本件ストライキは違法であるとして共同不法行為による損害賠償等を請求し(甲事件)、2.〔1〕Y1~Y4が会社X1及びX1の代表取締役・取締役(X2~X4)に対し、X1が不誠実な団交を行い地労委の斡旋にも応じないこと、〔2〕Y2~Y4に対し右懲戒処分をなしたこと等が強度の不当労働行為に該当するとして、不法行為に基づく損害賠償を請求し(乙事件)、3.X1がY1、Y2及びY5に対し、組合側が会社を批判する文書等を作成・大量頒布したことにつき、記載内容が会社の名誉、信用を著しく毀損する虚偽の内容であるとして、不法行為に基づく慰謝料等の請求をした(丙事件)ケースで、1.については、本件ピケッテイングは違法であるとして、Y1及びY2に対する損害賠償請求のみが一部認容され、2.については、〔1〕は労働協約違反であり不当労働行為に該当、〔2〕はY2に対する懲戒解雇処分は実体的・手続的に違法無効であり、不当労働行為に該当するが、Y3及びY4に対する出勤停止処分は不当労働行為ではないとして、Y1及びY2の会社X1に対する損害賠償請求のみが一部認容され、3.については、X1の名誉を毀損する不法行為は成立しないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働組合法8条
民法709条
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 2000年11月15日
裁判所名 奈良地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 574 
平成9年 (ワ) 379 
平成9年 (ワ) 470 
裁判結果 一部認容、一部棄却(574号、379号)、棄却(控訴)
出典 労働判例800号31頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 (1) ストライキは必然的に企業の業務の正常な運営を阻害するものであるが、その本質は、労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は、労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあり、したがって、ストライキの過程で不法に使用者側の自由意思を抑圧し、あるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず、これをもって正当な争議行為と解することはできない。また、使用者は、ストライキ期間中であっても、業務の遂行を停止しなければならないものではなく、操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる。そうして、右の理は、別組合または非組合員等により操業を継続して、ストライキの実効性を失わせることが容易であると考えられるタクシー等の運行を業とする企業の場合であっても、基本的には異なるものではない。したがって、労働者側が、ストライキの期間中、別組合員または非組合員等による営業用自動車による運行を阻止するために、平和的説得活動の範囲を超えて、当該自動車等を労働者側の排他的占有下に置いてしまうことなどの行為をすることは許されず、右のような自動車運行阻止の行為を正当な争議行為とすることはできない。
 (2) これを本件についてみるに、前示のとおり、Y1労働組合は外部支援労組員らと共に、会社がタクシーを稼働させるのを阻止することを目的として、平成8年4月8日は本社、同月9日は西ノ京営業所、同月15日は本社、西ノ京営業所の各車庫において、ストの時間中、会社の別組合の運転手や管理職等がタクシーを出庫しようとするのに対し、その前方に佇立したり、しゃがみ込んだり、寄りかかるなどし、結局のところ実力でタクシーの出庫を阻止したもので、このため会社は3日間にわたる本件ストにより、合計19時間10分間、延べ45台のタクシーの出庫ができなかったものである。これらの行為は、後記のとおり、会社の不誠実団交や地労委への斡旋辞退という会社の不当な対応を斟酌するとしても、本件ピケが違法であると評価せざるを得ない。
 (二) 争点2について(Y2の責任)
 本件ピケは違法であり、Y2はY1労働組合の執行委員長として、本件ピケを企画、決定、実行した最高責任者であって、会社に対しその損害を賠償する責任を免れない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 懲戒解雇は懲戒処分の中でも、労働者を企業の外に放逐する最終的な処分であるから、その適用にあたっては、当該労働者を懲戒解雇しなければならない程度の重大な企業秩序に違反する行為があった場合に限るよう、慎重に検討しなければならないところ、本件ピケが違法であることは事実であるが、その程度はピケにあたり平和的説得を超えたというものであり、暴力行為を伴うものではなく、また、近鉄奈良駅前やJR奈良駅前での別組合員に対する業務妨害についてY2が指示したと認めることができないことは前述のとおりであり、また本件ピケによる会社の財産的損害も前記のとおり16万0043円以上の損害を与えたとは認められないこと、本件タクシーパレードも会社に実害を与えていないこと、Aとの衝突も前記のとおり、偶発的な喧嘩にとどまっていることに加え、(証拠略)によれば、平成7年7月ころ、勤務中にBという運転手が、ほか2名の女性運転手と一緒に、入社間もなくの女性運転手を呼びだし暴力を振るったという事件が発生したが、この際は右Bには何らの処分がなされなかったこと、本件ピケに執行部として参加し、また本件タクシーパレードにも関与したY3及びY4らへの懲戒処分が出勤停止7日間に止まっていること等の事情に照らせば、Y2に対する本件懲戒解雇処分は実体的にも相当性を欠いていると言わざるをえない。
 さらに、右懲戒解雇処分にあたって、会社はY2に対し、事前に弁明の機会を一切与えなかったことは前記のとおりである。
 以上の検討によれば、会社のY2に対する本件懲戒解雇処分は、会社の懲戒権の行使にあたっての企業秩序維持という必要性を十分考慮に入れるとしても、実体的にも手続的にも違法と評価せざるを得ず、無効というほかはない。
 そうすると、Y1労働組合の執行委員長であるY2に対する無効な懲戒解雇処分は、本件ピケや本件タクシーパレードとは離れた、Y2のY1労働組合の組合活動一般を対象としてY2に対する会社の差別的取扱いであると同時にY1労働組合の組合運動に対する介入を意図したものと推認されるところであって、右事実は労働組合法7条1号の労働組合員に対する差別的取扱いを禁止した規定及び同条3号の組合に対する支配介入の禁止に違反する不当労働行為に該当すると言わねばならない。