ID番号 | : | 07681 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | ユナイテッド・エアー・ラインズ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 米国デラウェア州法に準拠して設立された航空会社に雇用され旅客サービス職員(地上職)として国内の空港で勤務していた日本人労働者Xが、同会社の客室乗務員の募集に応募し、日本国内での面接・筆記試験等を経て、シカゴ本社実施の選抜試験を含む客室乗務員訓練に参加後、雇用契約書の内容説明等を経て、一ヶ月前にすでに写しが送付してあったシカゴ本社との雇用契約書に署名して契約を締結し、その後、日本における会社との雇用契約を終了させた後、シカゴ本社の客室乗務員として正式に採用され、日本を拠点に勤務していたところ、試用期間(一八〇日間)中に、勤務態度や英語力の問題等を理由に自主退職を勧められた結果、退職届を提出したが、右退職は、退職勧奨の強要に基づくもので実質的には本採用拒否に該当し、もしくは錯誤無効、強迫による取消等ができる旨を主張して、雇用関係存在の確認及び賃金の支払を請求したところ、雇用契約書には、雇用関係に関する訴訟については、米国連邦裁判所ないしイリノイ州裁判所を専属的裁判管轄とする旨の記載がなされていたことから、右記載内容について合意が成立していたかが争われたケースの控訴審(X控訴)で、一審の結論と同様、専属的裁判管轄の合意は有効に成立しており、またYの主張は権利の濫用と評価することができず、管轄権のない日本の裁判所への地位確認等請求の訴えは不適法であるそしてXの控訴が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 法例7条 法例33条 民法1条3項 民事訴訟法(平成8年改正前)4条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 裁判管轄 |
裁判年月日 | : | 2000年11月28日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ネ) 2624 |
裁判結果 | : | 控訴棄却(確定) |
出典 | : | 時報1743号137頁/労働判例815号77頁/労経速報1771号20頁 |
審級関係 | : | 一審/07550/東京地/平12. 4.28/平成11年(ワ)2929号 |
評釈論文 | : | 海老沢美広・私法判例リマークス〔24〕<2002〔上〕>〔法律時報別冊〕151頁2002年2月/山田恒久・ジュリスト1229号200~203頁2002年9月1日/長谷川俊明・国際商事法務29巻7号861頁2001年7月/陳一・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕300~302頁2001年6月/本吉弘行・平成13年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1096〕232~233頁2002年9月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-裁判管轄〕 専属的裁判管轄の合意の効力に関する控訴人の主張は、以下に述べるとおりいずれも理由がなく、本件における専属的裁判管轄の合意は有効であるというべきである。 (1) AFAによる保護は、専属的裁判管轄の合意の効力を判断する際の一つの要素にすぎないのであって、AFAによる保護の実態が控訴人の主張するとおりであるとしても、このことから直ちに本件における専属的裁判管轄の合意がはなはだしく不合理で公序法に反するとまではいえない。 (2) 12月16日に、被控訴人の側から訓練候補生に対して質問の有無を尋ねたことが認められることは前記のとおりであり、現実に説明がなされなかったとしても、これをもって専属的裁判管轄がはなはだしく不合理で公序法に反するほど説明が不十分であるとまではいえない。 (3) 控訴人は、本件雇用契約締結する前は、被控訴人の旅客サービス職員(地上職)として成田ないし伊丹で勤務しており、そのときの雇用契約には準拠法規定も管轄規定も存在しなかったところ(乙13)、その後、自らの意思で被控訴人のシカゴ本社との事前雇用契約に署名して、従前の地上職としての雇用契約から自ら離脱したのである(乙19)。もし、控訴人が、事前雇用契約の内容に不満があれば、事前雇用契約を締結することなく、従前の地上職勤務に復帰することが容易に可能であった。そのような状況下において、控訴人は自らの意思に基づいて事前雇用契約に署名したのであり、使用者である被控訴人が圧倒的優位な立場を背景に労働条件を一方的に定めたということはできないし、労働者たる控訴人がこれに従わざるを得なかったということもできないというべきである。 (4) 米国において、訴訟提起のための手数料が日本に比較して低額であり、弁護士費用も成功報酬制の普及によって直ちに支払わなければならないものではないことは既に我が国でも広く知られており、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。もちろん、現実に控訴人が米国で訴訟を提起してこれを追行しようとすれば、かなりの不利益が伴うことは控訴人の主張するとおりであろう。しかしながら、前述したとおり、控訴人は、事前雇用契約の内容を理解してこれを締結したものと認められるのであって、このことは、かかる不利益についても承認したうえで契約を締結したものとみられてもやむを得ないのである。〔中略〕 前記認定にかかる本件の事実関係の下においては、米国に本拠を有し、世界のあらゆる地域において輸送業務を営んでいる被控訴人が、日本において客室乗務員を採用する際に、雇用条件に関する裁判管轄を米国の裁判所に帰属する旨の契約を締結する自由を否定される理由は見出し難いのであって、本件における被控訴人の主張を権利の濫用と評価することはできないというべきである。 |