ID番号 | : | 07683 |
事件名 | : | 保険金引渡請求控訴事件(174号)、同附帯控訴事件(364号) |
いわゆる事件名 | : | 赤武石油ガス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 石油販売会社Yの取締役であったAの妻及び子であるXらが、Yと生命保険会社との間では、被保険者をA、保険金受取人をYとする内容の生命保険契約(第一・第二契約)が締結されるとともに、第一契約締結時から保険金の用途等で事後のトラブル防止のために作成された役員退職慰労規程が施行されていたところ、Aの死亡により右契約に基づいてYが保険金を受領したことから、AとYの間に、Aが死亡した場合に保険金をAの相続人に支払うことについて合意があった等として、右保険金の引渡しを請求した(二次的には、保険金のうち、退職慰労金規程に基づき計算された役員退職慰労金、役員退職功労加算金、弔慰金相当分の支払い、三次的には不法行為に基づく損害賠償を請求した)ケースの控訴審(Xが敗訴部分につき控訴するとともに、第一次的請求について請求元金に入院給付金相当額の支払い追加請求し、Yも敗訴部分につき附帯控訴した)で、原審と結論と同様に、YがAとの合意に基づき役員退職慰労金規程に基づき算定することができる退職慰労金及び弔慰金相当額分につきXの請求が認容されるとともに、入院給付金相当額についてもXの控訴が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法3章 商法674条1項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険 賃金(民事) / 退職金 / 退職慰労金 |
裁判年月日 | : | 2000年11月29日 |
裁判所名 | : | 仙台高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ネ) 174 平成12年 (ネ) 364 |
裁判結果 | : | 一部認容(原判決変更)・一部棄却(174号)、棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例806号50頁 |
審級関係 | : | 一審/07527/盛岡地遠野支/平12. 3.22/平成10年(ワ)9号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕 〔賃金-退職金-退職慰労金〕 以上認定の事実、並びに前記第二の一1及び2の事実を総合すると、被控訴会社は、第1契約の締結に際し、Aの死亡により死亡保険金を受領したときは、受領した保険金額の範囲内で、契約締結と同時に制定した本件退職慰労金規程に従って計算した退職慰労金及び弔慰金をAの遺族に支給することを予定し、一方、Aも少なくとも同程度の金額が被控訴会社から自己の遺族に支払われるとの認識をもって被保険者となることに同意し、その後に締結された同様の生命保険についても、このような被控訴会社及びAの認識に変わりはなかったものと推認することができる。〔中略〕 株式会社の取締役に対する退職慰労金及び弔慰金は、在職中の職務執行の対価として支給されるものである限り、商法269条にいう報酬に含まれるから、株主総会の決議を要するうえ、証拠によれば、本件退職慰労金規程2条では、「退職した役員に支給すべき退職慰労金は、次の各号のうち、いずれかの額の範囲内とする。」として、「〔1〕本規程に基づき、取締役若しくは取締役の過半数で決定し、社員総会において承認された額。〔2〕本規程に基づき、計算すべき旨の社員総会の決議に従い、取締役若しくは取締役の過半数により決定した額。」と定められている。〔中略〕 しかしながら、退職慰労金及び弔慰金の性質は右のとおりであるとしても、Aの遺族に対し支給する金額についての被控訴会社及びAの認識を、本件退職慰労金規程に定められた決定手続に従って支給されるところの退職慰労金等の金額であるとすると、後日、退職慰労金等の支給についての株主総会の決議や取締役の過半数の決定がなかった場合には、退職慰労金等が支給されず、また、その決議、決定があっても極めて不適切な金額であるというような場合には、被保険者となることに同意したAの意思に全く反する結果になることが明らかであり、しかも、〔1〕本件契約が他人の生命の保険であり、被保険者の同意がなければ効力を生じないものであるところ(商法674条1項)、これは保険が賭博又は投機の対象として濫用されたり、保険金取得目的での違法行為を誘発することを防止するためであること、〔2〕本件契約については、企業が負担した保険料は全額損金に計上できるものであるが、これは保険の目的、趣旨に被保険者あるいはその遺族に対する福利厚生措置の財源の確保ということが含まれていることを考慮すると、Aの死亡により受領した保険金により被控訴会社が一方的に大きな利益を得る結果になることは、Aの意思に反するばかりか、Aと被控訴会社との関係を考慮しても、商法674条1項の趣旨や税法上の前記措置の趣旨に反する結果となりかねないものである。 そうすると、被控訴会社とAとの間において、第1契約の締結の際に、Aが死亡したことにより被控訴会社が死亡保険金を受領した場合には、株主総会の決議及び取締役の過半数の決定を要することなく、前認定のとおり株主全員の了解を得て制定された本件退職慰労金規程に従って計算した退職慰労金及び弔慰金相当額の金員をAの遺族に支払う旨の合意が成立したものと認めるのが当事者の合理的意思の解釈として適切である。 そして、また、その後に締結された死亡保険金増額の契約や第2契約における死亡保険金の関係でも、契約締結の状況に特段の変化は認められないのであるから、第1契約の締結の際の合意におけるのと同じ位置づけにするとの追加的な合意が成立したものと認めることが相当である。〔中略〕 被控訴会社がAとの間の前記合意に基づいて同人の相続人である控訴人らに支払うべき退職慰労金及び弔慰金相当額の合計は2354万円となり、右金額のうち、控訴人ら各自が受け取ることのできる金額は、前記合意の性質に照らし、法定相続分に従った割合と解すべきであるから、控訴人X1について、1177万円、控訴人X2及び同X3について、各588万5000円となる。 |