ID番号 | : | 07692 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | アスカ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | アスファルトの販売・加工等を業とする株式会社Yの従業員XがYに退職届を提出したところ、右退職届を提出してからXが実際に退職するまでの間に、Yでは売上総利益率の減少等により売上拡大が望めない状況にあったことなどから、人件費削減のために関連会社等に従業員を出向させることとし、その円滑化のために、出向先と大きく異なっていた退職金を含む給与体系を出向先と統一すべく、退職金の算定における勤続年数支給率及び退職事由係数が低く定めるなどの就業規則の改訂がなされ、その結果、Xの退職金は本件改訂によって一千万円以上減額され約半額になったことから、XがYに対し、退職届の提出時点で退職金債権が具体的に発生するものとして、改訂前の退職金規程が適用されること、ならびに改訂後の退職金規程は重大な不利益を労働者に受忍させるだけの高度の必要性に基づいた合理的なものでなく無効であるとして、改訂前の退職金規程に基づき計算した退職金と既払金の差額の支払を請求したケースで、退職金債権は原則として雇用関係が終了した時点に発生するとして、Xには改定後の退職金規程が適用されるとしたうえで、本件改訂後の退職金規程は従業員にその退職金を従来の約三分の二及び二分の一に減少させることを法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとは認め難く無効であるとして、請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法11条 労働基準法3章 労働基準法89条1項3号の2 労働基準法93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金 賃金(民事) / 退職金 / 退職金の法的性質 |
裁判年月日 | : | 2000年12月18日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ワ) 7424 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 労働判例807号52頁/労経速報1778号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金の法的性質〕 退職金は、継続的な雇用関係の終了を原因として労働者に支給される一時金であるから、原則として雇用関係が終了した時点に発生するものと解されるところ、本件全証拠に照らしても、本件退職金規程に基づいて被告の従業員に支払われる退職金が右にいう一時金とは法的に異なる性格の金員であることを認めるに足りる証拠はない。〔中略〕 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕 本件において、原告が被告を退職したのは平成12年2月29日であり(前記第二の二2)、本件改訂後の退職金規程が施行されたのは同月1日からである(前記第二の二3)から、原告に本来適用されるべき本件退職金規程は、本件改訂後の退職金規程ということになる。〔中略〕 退職金支給規程を労働者に不利益に変更することが許されるかどうかについては、労働者に不利益な労働条件を一方的に課する就業規則の作成又は変更の許否に関する判例法理(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁、最高裁昭和58年7月15日第二小法廷判決・判例時報1101号119頁、最高裁昭和58年11月25日第二小法廷判決・判例時報1101号114頁、最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決・裁判集民事147号237頁、最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁、最高裁平成3年11月28日第一小法廷判決・民集45巻8号1270頁、最高裁平成4年7月13日第二小法廷判決・判例時報1434号133頁、最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決・民集51巻2号705頁、最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・裁判所時報1275号8頁、最高裁平成12年9月22日第二小法廷判決・裁判所時報1276号2頁)に照らせば、使用者が新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、その内容が合理的なものである限り個々の労働者において当該条項に同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されないと解すべきであるところ、新たに作成又は変更された就業規則の内容が合理的なものであるとは、その必要性及び内容の両面から見て、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を勘案しても、なお、当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有することを要し、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。 1で認定した事実によれば、被告が平成12年2月1日に本件退職金規程を改訂したのは、要するに、主として、Aの連結決算の対象となったことと被告の従業員のA又はその関連会社への出向を円滑に進めるために、出向先との労働条件のバランスをとる必要が生じたためであったものと認められるが、この事実では、本件改訂後の退職金規程は、被告の従業員にその退職金を従来の約3分の2ないし約2分の1に減少させることを法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとは認め難いというべきである。 |