ID番号 | : | 07704 |
事件名 | : | 遺族補償費等不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 水戸労基署長(茨城新聞社)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 新聞社の編集者として勤務していたA(当時三八歳・相当以前から血圧が高く、通院暦もあった)が、退社後自宅で高血圧性脳出血を発症し搬送先の病院で死亡したため、Aの妻Xが水戸労労基署長Yに対し、右死亡を業務上の事由によるものとして、労災保険法に基づき遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めたところ、不支給処分とされたため、右処分の取消しを請求したケースの控訴審で、原審と同様に、本件発症は、死亡約四ヶ月前に二カ月余りにわたる東京への長期出張に伴う過重な業務(一日も休日を取らず、実労働時間は一ヶ月あたり約三六〇時間)が、Aの高血圧と並んで、Aの基礎疾患をその自然的経過を超えて増悪させた結果生じたものとみることができ、Aの高血圧症が継続したのも、右出張業務により治療の機会を失ったことに起因するものであることから、Aの業務による疲労の蓄積ないし過労と本件発症との間に相当因果関係を肯定でき、Aが発症した本件脳出血は、労基法施行規則三五条別表第一の二第九号にいう「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するとして、不支給処分が取消されて、Yの控訴が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条1項1号 労働者災害補償保険法12条の8第4号 労働基準法施行規則別表1の2第9号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 2001年1月23日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成11年 (行コ) 112 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例804号46頁 |
審級関係 | : | 一審/07305/水戸地/平11. 3.24/平成7年(行ウ)4号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 Aの死亡直前のCT所見からみて、Aが脳出血で死亡したことは明らかであるが、右脳出血の原因については、本件において、Aに高血圧以外に脳出血の原因となるような疾患があったとの事情は見出せない上に、脳出血の大部分は高血圧性のものであるとされていることからみて、Aは高血圧性脳出血により死亡したものと認めることができる。そうすると、本件における問題は、Aの本件発症を生じさせるに足りる高血圧の原因及びその業務起因性の有無ということに帰着することになる。〔中略〕 Aの血圧が、その5か月前までは比較的規則正しい通院と降圧剤の服用のほか、勤務の負担が比較的軽かったことなどにより、かなり低下していたこと、後記説示のとおり昭和62年10月以降もAの血圧は相当高い状態が継続していたと推認されるにもかかわらず、同年末のかなり過重な労働の最中には脳出血を発症していないことからみて、同年10月のAの血圧が非常に高かったことを考慮しても、昭和62年10月当時のAの脳動脈がその自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに破綻を来す程度にまで増悪していたと認めることは困難というべきである。したがって、もしもAが、この時点で、B大学附属病院に継続して通院し、あるいは入院して治療を受けるとともに、Aの勤務の状況が同年1月から5月までの程度にとどまっていたならば、昭和61年秋から昭和62年5月までの間の通院治療によりAの血圧が相当程度低下していることからみても、Aの基礎疾患が本件発症にまでは至らないで経過した可能性があったと認めることができる。〔中略〕 昭和63年2月に入ってからのAの業務が、人事録が1月末に完成し、その発送、集金等の残務整理が残されていたとはいうものの、かなり軽減されたことは、本件発症日である同年2月19日までの時間外労働が19.5時間であることからもうかがうことができる。しかしながら、Aは、この間公休日以外の休暇をとっていたわけではなく、少なくなったとはいいながらも残業を行いながら、通常の勤務を続けていたのである。そして、前記認定のとおり、このころAは、朝起きるのがつらそうな様子を示したり、休日になると1日中寝ていたりするなど、相当疲労が蓄積していたことをうかがわせる状況にあったものであり、前年末からの過重労働の影響を受けて極度の疲労状態にあったものと推認されるのである。そして、高血圧性脳出血についての医学的知見のほか、前記認定のとおり、疲労の蓄積ないし過労が、脳・心臓疾患発生の基盤となる異常状態を誘発し、あるいはそれを一層増悪させたりする作用を有するとされていること、現実にもAが同年2月19日に脳出血を発症していることに照らせば、このころのAは、前年10月以降引き続いた高血圧と右過重労働の影響により、何時脳出血を発症してもおかしくない状態にあったものと推認することができる。また、Aが訴外会社の業務のために適時の高血圧治療の機会を失ったものと評価すべきことは前記認定のとおりである。〔中略〕 Aの本件発症は、昭和62年10月末から12月末までの間の過重労働が、同年10月以降も引き続いたと推認される高血圧と並んで、Aの前記基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させた結果、生じたものとみることができるというべきである。そして、Aの高血圧が同年10月以降も継続したのが、東京出張という業務のために治療の機会を失ったことに起因するものであることは前記説示のとおりである。以上説示の事実を総合すれば、Aの前記業務による疲労の蓄積ないし過労と本件発症との間に相当因果関係を肯定することができるものというべきであるから、Aが発症した本件脳出血は、労働基準法施行規則35条、別表第1の2第9号にいう「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するというべきである。したがって、控訴人のした遺族補償給付及び葬祭料の不支給処分の取消しを求める被控訴人の請求は理由がある。 |