ID番号 | : | 07708 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ユナイテッド・エアー・ラインズ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | アメリカにおいて航空機運航を目的とする会社YはA航空会社からの営業譲渡に伴い、A社の日本支社と同一の場所に営業所を置き、元A社の社員をそのまま移籍させることとなったことによりYに勤務することとなった元A社の社員X(未婚女性)が、Yの日本支社でもA社の従業員に適用されてきたA社時代の労働協約に沿う協約が締結され、就業規則が定められたところ、Yが従業員に対する賃金として、配偶者の収入金額による支給制限を設けずに婚姻していることのみを要件として、共働き労働者への二重支給を認めて配偶者手当を支給していることは労基法三条の信条又は社会的身分を理由とする差別的取扱いに該当し、憲法一四条・二四条に違反し公序良俗に反する違法・無効なものであるなどと主張して、不当な差別により支払を受けられなかった二八年分の配偶者手当一人当たり支給相当額の損害賠償及び慰謝料を請求したケースで、そもそも家族手当は具体的労働の対価としての性格を離れており、そのような手当については画一的基準を定めざるを得ず、労働協約の締結経緯、内容、配偶者手当支給規定を有する企業の実態等を総合すれば、本件配偶者手当支給規定は、独身者を不当に差別した不合理なものといえず、男女差別の点も見られないとして、労基法三条、憲法一四条、均等法等に違反するといえず、民法九〇条に反し無効ということもできないとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3条 民法90条 労働基準法11条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の範囲 |
裁判年月日 | : | 2001年1月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成10年 (ワ) 17019 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例805号71頁/労経速報1759号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金の範囲〕 本件配偶者手当支給規定により支給される家族手当は、被告の就業規則中の賃金規定において支給する旨定められており、具体的金額については、被告と被告従業員の唯一の組合であるY会社労働組合間で毎年締結される労働協約において定められているものであり、被告が従業員に支給している家族手当は、具体的支給条件が明確になっているものであり、労働基準法11条の労働の対償としての賃金に当たるものと認められる。〔中略〕 〔1〕 A会社における家族手当支給規定は、昭和46年に規定されたが、その内容は、支給対象として、男子従業員で正式の妻のある者、女子従業員で正式の夫を扶養している者と定められており、女子従業員の場合のみ配偶者を扶養していることが支給要件とされていたところ、A会社とA会社労働組合は、男女平等を図るため、昭和49年労働協約から男子従業員の(ママ)正式の妻のある者、女子従業員で正式の夫のある者として、女子従業員について配偶者に関する扶養要件をなくし、配偶者を有する従業員全員が支給対象となった。〔2〕 その後、支給要件については大きな変更はないまま支給額が改訂されてきたが、A会社から被告への営業譲渡により、A会社従業員のほとんどが被告に移籍したところ、同従業員らに適用されてきたA会社時代の労働協約に沿う協約が被告日本支社でも締結され、就業規則が定められたものである。 このような事実関係に、そもそも家族手当は個別的家族状況に応じて支給される性質のものであり、家族手当の果たしている社会経済的な一般的な役割に照らせば、家族手当は具体的労働に対する対価という性格を離れ、家族関係を保護する目的で支給される生活扶助又は生計補助給付としての経済的性格をもつものであるといえる。そして、具体的労働の対価として支給されるものでない手当について、どのような支給要件を定めるかについては、たとえば、被告の住居手当については扶養家族の有無により金額が異なるが、不動産資産所有の有無、その多寡、居住のための経費の多寡等にかかわらず支給される規定となっており、画一的基準を定めざるを得ないところである。 以上のとおり、本件においては、〔1〕前記各労働協約の締結の経緯をみれば、その動機、目的及び手続に不当な点は認められず、〔2〕内容としても当初女子従業員についてのみ配偶者について扶養要件を付していたのを、男女平等を図るため、扶養要件をはずしたものであること、〔3〕A会社又は被告においては、労組との交渉を重ねて各協約の内容を形成してきたことの各事実が認められ、〔4〕さらに、前記認定のとおり、平成9年12月末日現在における労働省の調査によれば、本件配偶者手当支給規定と同様に配偶者の所得制限のない支給規定を設けている企業も配偶者手当支給規定を有する企業のうちの半数に上っている事実が認められるのであり、これらの事実を総合すれば本件配偶者手当支給規定は、独身者を不当に差別した不合理なものということはできず、また、男女差別の点も認められないから、労働基準法3条、憲法14条、13条、22条(ママ)、27条、均等法及び労働基準法3条に反するとはいえず、民法90条に反し無効ということはできない。 |