ID番号 | : | 07714 |
事件名 | : | 賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 練馬交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー業を主たる目的とする株式会社Yでタクシー乗務員として勤務するXが、乗務中に追突事故を起こしたところ、期限を定めることなく「就業規則に基づく業務命令として内勤を命ずる」との告示の交付とともに、乗務停止処分にされたことから、右処分は無効であるとして、Yに対し、その間減額された賃金(十五万円以上の減額)の支払とともに、違法かつ無効な処分によって精神的苦痛を被ったとして不法行為に基づき慰謝料の支払を請求したケースで、本件事故は、結果としては重大な事故ではなく、Xが被害車両の写真や修理費用の見積書の不提出、被害車両の同乗者の有無を報告しなかったことについても、本件事故及び本件事故処理の経過に照らせば悪質なものとはいえないのに対し、本件処分は特に賃金の減額が甚だしく、期限の定めがないことからすれば、本件事故が二度目の事故であったこと(Yから注意・指導を受け自認書を提出し反省の態度を示している)、高速道路通行料金不納付の件を考慮しても、なおXの行為に照らし、重きに失するもので、懲戒権の濫用に当たり無効であるとして、雇用契約に基づき三ヶ月間の乗務停止処分がなかったら得られた賃金と内勤に従事した場合に得られる賃金の差額賃金請求が認容されるとともに、慰謝料等の請求が一部認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 担務変更・勤務形態の変更 |
裁判年月日 | : | 2001年2月9日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成11年 (ワ) 26482 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労経速報1767号11頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 原告が本件事故直後、直ちに所轄警察署に本件事故を届け出なかったことは責任を問われてもやむを得ないものであり、被害車両の写真や修理費用の見積書を被告に提出しなかったこと、被害車両に林の子供が同乗していたことを報告しなかったことも適切な業務遂行であったとは言い難いが、結果として、重大な事故ではなく、被告の信用失墜を招く結果にもならず、被害車両の写真や修理費用の見積書の不提出、被害車両の同乗者の有無を報告しなかったことについても、本件事故及び被告の本件事故処理の経過に照らせば、悪質なものとはいえない。 これに対し、本件処分は、タクシー乗務員として勤務してきた原告を内勤に従事させ、賃金を一五万円以上も減額して約六万円とし、しかも期限を定めないなど、原告が被る不利益は極めて重大である。特に賃金の減額は甚だしく、期限の定めがないことからすると、原告としては内勤に従事する期間が長期化すれば、生活の維持さえ困難となる状況であったということができるのであって、原告は、本件事故が二度目の事故であったこと、高速道路の通行料金不納付の件を考慮してもなお、本件処分は、原告の行為に照らし、重きに失するもので、懲戒権の濫用に当たるというほかない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-担務変更・勤務形態の変更〕 被告は、就業規則一一条に基づき人事権の行使として、原告に対し内勤を命じたとの主張もするが、「告示」(書証略)がもっぱら本件事故のことを指摘しており、本件処分はこれに対する制裁措置と解されることからすれば、本件処分を人事権の行使とみるのは困難であるが、仮に人事権の行使であるとしても、その必要性(本件で予想されるのは、原告に対し反省を促し、安全に関する教育指導を行うことなどである)に比して、原告の被る不利益が極めて重大であるというべきであることからすれば、権利の濫用に当たり、やはり無効であるといわざるをえない。 |