全 情 報

ID番号 07716
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 渡島信用金庫(懲戒解雇)事件
争点
事案概要  信用金庫Yに雇用され、平成九年から役場派出所で一人で出納事務処理に従事し、また労働組合の副執行委員長であったXが、昭和四九年に資格につき管理職D級の発令及び職位につき本店営業部有資課長代理の発令を受けたが、当時の一連の人事異動は組合活動を困難にするものであるとして異動を拒否していたが、その後一応の解決がなされ、昭和五三年に職位につき支店の一般職員とする旨の発令を受諾したが、資格変更の発令はなかったところ、Xは一般職でありながら、管理職D級の資格のまま昇給を重ねつつ給与を受けてきたが、平成九年に管理職者の資格認定作業が行われ、Xの資格と職位との不一致の是正を目的として、管理職Dから事務職A級に変更する旨の辞令が発せられ、それに伴い本給が約五万円減額され、さらに派出所における現金不正事件(過剰現金の発生につきXがYの内規、通達に違反して、杜撰な現金出納管理を行い、虚偽の報告したことなど)の責任を問われる形で就業規則に基づき懲戒解雇された(第一次解雇)うえ、本訴提起後には、顧客が国民年金保険料を納付すべく交付した現金約二万六千円に関する不法領得が判明したとして、再び懲戒解雇の意思表示(第二次解雇)を受けたため、二度にわたる懲戒解雇処分は無効であるとして、雇用契約上の地位確認、Yによる資格変更命令に基づく賃金減額措置の差額分の支払及び違法な懲戒解雇及びそれに先行する資格変更命令と賃金格下げ等により精神的苦痛を受けたとして、Y、代表理事Y1・常務理事Y2に対し、不法行為に基づく慰謝料の支払を請求したケースで、第一次解雇については就業規則所定の懲戒解雇事由が存在するものの、せいぜい譴責・減給等といったより軽い懲戒処分が妥当であり、相当性を欠くとして権利濫用により無効であり、第二懲戒解雇については根拠事実を認めることができないとして、雇用契約上の地位確認については請求が認容、また本件減額措置は、特段の事情がない限り一方的に減給措置は講じられず無効であるとして未払賃金の支払につき請求が一部認容されたが、慰謝料請求については請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
労働基準法89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 2001年2月15日
裁判所名 函館地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 113 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例812号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 まず、第1懲戒解雇についての懲戒事由の存否及び懲戒処分の相当性について判断する。
 上記認定の事実によれば、1月30日の過剰現金の発生については、原告が被告金庫の内規、通達に違反し、顧客が誰であるかを確認するとともに所定の手続等をすることを怠り、杜撰な現金出納管理を行い、顧客から提供された現金を不明金としながら、これを直ちに被告金庫に報告せず、「現金過不足金処理要領」に定められた被告金庫の「出納過剰口」への入金をとらずにそのまま約1週間自己の管理の下に置き、そのうえこのことを被告金庫に隠し虚偽の報告をして、同不明金をあたかも原告が不法に領得したかの如き疑惑を生じさせたことが明らかであるといわなければならない。そうとすれば、被告金庫の就業規則第73条9号所定の懲戒解雇事由である「業務命令・通達に違反し、職務に関して不正行為、職場秩序を乱したとき」に一応該当する。
 しかしながら、他方において、過剰現金について内規に従った処理を必ずしもしていなかったとは認められるものの、その日のうちに過剰現金の発生を天羽収入役には報告しており、その後数日間は同人とともに現金の差出人を探していたこと、被告金庫に対する報告は遅れたものの、約1週間後には自ら報告していること、一応は出納室における自己使用の机に鍵をかけて過剰現金を保管していたことなどの事情に加えて、懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分であり、このような処分を課すのもやむを得ないと評価するに足りるそれ相応の重大な不正行為又は非違行為がなされたことを要すると解すべきところ、原告の行為はそのように評価するに値するとは到底いうことができないこと、その他、証拠(〈証拠略〉)から窺われる同種事案における他の処分例等に照らすと、本件行為については、せいぜい譴責又は減給等といったより軽い懲戒処分を相当とする事案であり、職場からの排除を意味する懲戒解雇は明らかに酷であるといわざるを得ないこと、以上が明らかであるというべきである。
 そうすると、第1懲戒解雇については、懲戒事由は一応存在するものの、相当性を欠くと認めざるを得ず、したがって同処分は権利濫用として無効であるというほかはない。〔中略〕
 第2懲戒解雇については、結局、その根拠事実を認めることはできないから、無効であるといわざるを得ない。そして、以上述べたところによれば、第1懲戒解雇について第2懲戒解雇事由をもってしてもこれを肯定することはできず、逆に第2懲戒解雇について第1懲戒解雇事由をもってしてもこれを肯定することはできない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 一般に、労働者の賃金額は、当初の労働契約及びその後の昇格の合意等の契約の拘束力によって、使用者・労働者とも相互に拘束されるのであるから、労働者の同意がある場合、懲戒処分又は降格処分に伴う措置として減給処分又は措置がなされる場合その他特段の事情がない限り、使用者において一方的に賃金額を減額することは許されない。もっとも、本件においては、原告は、昭和49年4月に管理職D級に昇格しながら、昭和53年7月に一般職員として他店に配置転換命令(以下「配転」という。)を受けたものであるが、配転と賃金とは別個の問題であって、法的には相互に関連しておらず、労働者が使用者からの配転命令に従わなくてはならないということが直ちに賃金減額措置に服しなければならないということを意味するものではない。使用者は、資格に照応しない低額な賃金が相当であるような職種への配転を命じた場合であっても、本件の場合資格規程第6条の降格処分をする等の特段の事情のない限り、賃金については従前のままとすべき契約上の義務を負っているというべきである。そうすると、特段の事情が存在しない本件において、資格規程第7条を根拠として一方的に本件減給措置を講じることはできないというほかない(東京地方裁判所平成9年1月24日決定、判例時報1592号137頁参照)。
 そうすると、資格規程第7条を根拠とする被告金庫の主張は採用することができない。
 (4) 以上のとおりであるから、本件減給措置は無効であるといわざるを得ない。