ID番号 | : | 07723 |
事件名 | : | 不当利得請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ソフトウエア開発・ソリトン技研事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | コンピューターの使用技術開発等を業とする資本金四億円の株式会社X1のソフトウェア開発の従業員であったが、自己都合により退職したYは、X1に在職中、会社X2に派遣され、会社X2は会社Aから受注した業務をA社内で行うべくYをさらにA社に派遣していたところ、YはX1を退職後も引続きA社でIPV6開発関連業務に従事していたため、これが退職金規程の退職金不支給事由に該当するとして(競合関係にある同業他社へ採用された者又はかかる会社を設立した者等)、〔1〕X1がYに対し、退職金規程に基づきすでに支払った退職金約三二四万円の返還を請求し、また〔2〕YがX1の退職金規程に違反したことにより会社X2はA社から契約を打ち切られて損害を負ったとして、X2がYに対し、損害賠償を請求したケースで、〔1〕については、退職金規程の規定はおよそ無制限の競業避止義務を遵守しなければ退職金の支給は全く受けられないことになるなどから、X1の必要性に比して労働者に与える不利益が重大かつ深刻にすぎるというべきであり、公序良俗に違反して無効であるとして、請求が棄却、〔2〕については、X2らの主張自体失当というべきであるなどとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法11条 労働基準法3章 労働基準法89条1項3号の2 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務 |
裁判年月日 | : | 2001年2月23日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成11年 (ワ) 27058 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報1768号16頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 退職金規程8条(3)ないし(5)は、退職金の不支給事由とすることで、原告ソフトウエア開発に対する競業及びこれに準ずる行為を抑制しようとするものであることは明らかである。そして、(証拠略)によれば、情報産業においては、技術成果物やノウハウは、会社ではなく、技術者個人や顧客に蓄積させることになるため、ある会社で蓄積したノウハウ、人脈、職位などを利用して転職したり、敵対的同業社を設立するようなことが極めて行われやすく、原告ソフトウエア開発も、技術ノウハウの流出等に悩まされていたことが認められる。このことからすれば、原告ソフトウエア開発が、企業防衛の観点から、退職金規程8条(3)ないし(5)の規定を設ける必要性があることは認められ、退職金が功労報償的な性格をも有していることも考慮すれば、退職金の支給を競業避止義務の遵守義務にかからしめることも直ちに許されないということはできない。 しかし、一方、退職金は、基本的には賃金の後払いとしての性格を有していること、競業避止義務は労働者の職業選択の自由を制約するものであることから、労働者に及ぼす不利益は重大であるから、どのような規定であっても許されるというものではなく、当該規定の効力は、個別的に検討して判断されなければならない。〔中略〕 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕 同条(3)の競業避止については、場所的、時間的範囲の制限が一切なく、文言からはおよそ無制限に競業避止を義務付けているものとしか解することができない。この点について、(人証略)は、競業避止の対象となるのは「かつて知ったる会社」であり、期間は約一年を想定しているが、これに該当するかどうかは原告ソフトウエア開発の判断である旨証言しており、従業員には、場所的、時間的範囲が明確に判断できないことが明らかである。また、同条(4)は、いわば競業避止契約を強制するような内容となっている。しかも、原告ソフトウエア開発においては、同条(3)ないし(5)に該当する場合、退職金は一切支給されないのである。 これら規定によれば、結局、原告ソフトウエア開発を退職しようとする従業員は、およそ無制限の競業避止義務を遵守しなければ退職金の支給は全く受けられないことになるのである。こうした規定は、労働者に対し、職業選択の自由を著しく制約するもので、また、基本的に賃金としての性格を有する退職金を一切支給しないというもので労働基準法違反の疑いもあるのであって、原告ソフトウエア開発の必要性に比して労働者に与える不利益が重大かつ深刻にすぎるというべきであり、退職金規程8(3)ないし(5)は、公序良俗に反し無効であるといわなければならない(ただし、同条(5)については、同条(3)、(4)に準ずる者の限度で無効であるというべきである)。 |