全 情 報

ID番号 07727
事件名 建物明渡請求事件(4223号)、賃金請求事件(26265号)
いわゆる事件名 共同都心住宅販売事件
争点
事案概要  不動産売買、賃貸等を主たる業務とする株式会社Xが、日本に進出している海外の投資機関を対象として顧客開拓するため、外国人Yとの間で、〔1〕雇用期間を法務省により滞在許可が認可される日から一年、〔2〕役職をエグゼクティブダイレクター・国際法務担当とする、〔3〕Yは半期ベースでXのために獲得したコミッションから一〇%の支払を受領する、〔4〕雇用期間中のXはYに住居提供をするといった内容の雇用契約を締結し、右契約書に基づき社宅として提供すべくマンションを第三者より借受けたうえで、Yに対し無償で提供し、他方、Yは雇用契約に基づき業務に従事していたが、Yの雇用開始から三カ月半程度経過した頃に、XがYに対し、Yは何ら業績もあげられなかったこと、重要な営業会議を無断欠席したこと、他者の求人募集に応募し面接を受けたことを理由に懲戒解雇したため、(1)XがYに対し、無償で貸与していた住宅にかかる賃料相当額等の支払を請求し、(2)YがXに対し、本件解雇の無効を主張し、雇用契約期間満了までの賃金支払を請求したケースで、(2)について、本件解雇の事由はいずれも解雇の理由とすることができないものであり、Yには、Xが主張する懲戒解雇及び予備的に主張する普通解雇のいずれについても解雇事由に該当する事実はなく、本件解雇は解雇権の濫用により無効であるとしたうえで、解雇期間中にYが得た中間収入について平均賃金の四〇%の範囲内を限度として控除した額について請求が一部認容され(なお、雇用契約の終期については、雇用契約書の文言どおり雇用期間をビザ取得から一年と解釈した場合、実際の雇用期間が一年を超えてしまい労基法一四条に違反することから、労基法一三条により就労開始後一年間に短縮された)、(1)については、XとYとの社宅使用契約は雇用契約期間中のみ存続するものであったとして、雇用契約の終期からYがその建物を明渡した日までの賃料相当損害金の請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法14条
民法536条2項
労働基準法26条
労働基準法11条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
労働契約(民事) / 労働契約の期間
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
賃金(民事) / 出来高払いの保障給・歩合給
寄宿舎・社宅(民事) / 社宅の使用関係
裁判年月日 2001年2月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 4223 
平成11年 (ワ) 26265 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例812号48頁/労経速報1785号31頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト1236号122~124頁2002年12月15日
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 被告は平成10年6月9日から原告会社で勤務を始めたことが認められるが、本件解雇の通知は同年9月24日に行われているから、原告会社が被告の業績を評価することができた期間はこの3か月半程度であることになる。また、証拠(〈証拠略〉、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告は原告会社に在籍中不動産取引の仲介案件を手掛けていたこと、その手掛けていた業務については、原告会社に具体的な利益を上げる状況に至るには、上記期間程度では足りないことが認められる(原告会社代表者は、不動産取引の仲介案件は1週間程度で決まる場合もある旨供述するが、一方で同人の供述からすれば、同人は、被告が手掛けていた不動産取引の仲介案件があったのか、それが具体的にいかなるものであったかについては、何ら認識していなかったと認められるのであって、そうであれば、1週間程度で決まる場合があるとの上記供述は、あくまで一般論であるといわざるを得ず、したがって、上記認定を左右するものではない。)。
 以上の点を総合すれば、仮に、本件雇用契約の内容として、被告が原告会社に具体的に利益をもたらす程度の業績を上げることが含まれており、被告がそのような業績を上げない以上解雇されることもやむを得ない地位にあったとしても、上記のような短期間に業績が上げられなかったことを理由に解雇をすることは許されないというほかはない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約の期間〕
 本件雇用契約書には、「法務省よりの滞在許可が認可される日から1年」との記載があること、被告は、平成10年9月6日、滞在許可に係る査証(ビザ)を取得したことは、上記第2の1(2)記載のとおりである。そうすると、同契約書の文言に反する合意があったなどの特段の事情が認められない限り、本件雇用契約における合意内容は、同契約が、平成10年9月6日から1年の後である平成11年9月5日にその終期を迎えるというものであったと解するのが相当である。〔中略〕
 本件雇用契約の期間は、当事者の合意上は平成10年6月9日から平成11年9月5日までであることになる。
 しかし、この雇用期間は1年を超えるものであり、労働基準法14条本文の期間制限に反する。したがって、本件雇用契約の期間は1年に短縮され(同法13条)、平成10年6月9日から平成11年6月8日であることになる。
 なお、1年を超えた期間分について就労の実態があれば、黙示の契約更新(民法629条1項)の問題が生ずるが、本件においては、平成11年6月9日以降被告が原告会社において就労した事実がないことは明らかであるから、上記のとおり解するのが相当である。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-バックペイと中間収入の控除〕
 使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が、解雇後の期間内に他の職に就いて利益を得た場合、使用者は、この期間中の賃金を支払うに当たり上記利益を賃金額から控除することができるが、その限度は平均賃金の40パーセントの範囲内にとどめるのが相当である(最高裁昭和37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁)。
 そこで検討するに、被告は、上記第2の1(7)記載のとおりの中間収入を得ているが、上記のとおり被告が原告会社に対して賃金を請求することができる期間は平成10年8月21日から平成11年6月8日であるから、この期間内に被告が他の職に就いて得た利益は、平成10年11月から平成11年3月30日までにB社から支給された200万円(月額40万円の5か月分)である。
 また、平成10年11月から平成11年3月30日までの間(5か月)に原告会社から被告に対して支払われるべき平均賃金は月額100万円であり、その40パーセントは40万円であるから、上記利益の控除の対象となるべき金額は200万円(40万円の5か月分)となる。
 したがって、上記2記載の被告が原告会社に対して請求することができる賃金額から、被告が他の職に就いて得た利益として控除すべき金額は、200万円であるとするのが相当である。〔中略〕
〔賃金-出来高払いの保障給・歩合給〕
 原告会社の被告に対するコミッションとして、被告が原告会社のために獲得した営業上の利益の10パーセントが支払われることが、本件雇用契約の内容となっていたことが認められる。このことからすれば、このコミッションは、被告が現実に営業上の利益を上げたことを原告会社が確認した場合に初めて発生するものであるというべきである。
 被告は、採用面接の段階で、原告会社から、2000万円から3000万円のコミッションの支払を示唆された旨主張するが、仮にこのような示唆があったとしても、これがその支払を保証する趣旨であったとみることは、上記認定に照らして困難である。被告は、原告会社での就労を決意するに当たり、コミッションの支払が重要な要因となっていた旨主張するが、本件雇用契約の締結に当たり、上記主張のような被告の事情について原告会社が認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
 以上からすると、被告の主張するように、被告の手掛けていた業務において、原告会社に利益を上げることが予想され得る状況にあったとしても、このことをもって、被告がコミッションの支払を必ず受け得る状況に至ったとまではいうことができない。したがって、被告が原告会社から解雇されたことによって、被告にコミッション相当額の損害が生じたものと認めることはできず、被告のこの点に関する請求は理由がない。〔中略〕
〔寄宿舎・社宅-社宅の使用関係〕
 被告は、労働の対価として本件建物の提供がされており、したがって、本件社宅使用契約は法律上賃貸借契約に当たる旨主張する。
 しかし、同契約は無償であること(上記第2の1(3)イ)、労働の対価としては、100万円という比較的高額な賃金が支給される約定であったことからすれば、本件社宅使用契約が賃貸借契約に当たるということはできない。
 そして、上記第2の1(2)及び(3)記載の事実及び弁論の全趣旨からすれば、本件社宅使用契約は、原告会社と被告との雇用契約期間中のみ存続するものであると認められるから、被告は、本件雇用契約の終期である平成11年6月8日の経過をもって、原告会社に対し、本件建物を明け渡す義務を負うものと認められる。