全 情 報

ID番号 07734
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 利根地下技術事件
争点
事案概要  公共事業における地下開発等の施行に関する業を主な目的する株式会社Yに、年俸一〇〇〇万とする期間の定めのない雇用契約を締結して入社し、環境事業推進部長に就任したXが、Yは従前から経営危機にあったこともあり、経営の合理化を図るため、合理化委員会の設置とともに、同委員の委員長等がXを含む四名の環境事業部社員に対し、Xの入社から約五カ月経過した日をもって退職するよう勧告し、X以外の者はこれに応じていたが、Xはこれに応じず、その後も、退職しない場合の年収額についての交渉にも応じないまま、事務の引継ぎだけして、就労していないところ、Yに対し、右退職の勧告は解雇の意思表示であるが整理解雇の要件を満たさず違法な解雇であると主張して、労働契約上の地位確認及び未払賃金の支払とともに、慰謝料の支払を請求したケースで、労働契約上の地位確認請求については、Y側がXを解雇していない旨を主張し、Xが同地位を有していることを認めているため当事者間に争いがないとして請求を却下したうえで、YがXに対し、退職するよう述べたことは、退職を勧奨したものにすぎず、解雇の意思表示ではなく、Xは自らの意思で就労しなくなったものであり、Xの不就労がYの帰責事由によるものであるとは到底できないとして、その余の請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
民法536条2項
労働基準法2章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
退職 / 退職勧奨
裁判年月日 2001年3月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 4427 
裁判結果 一部却下、一部棄却
出典 労経速報1762号24頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職勧奨〕
 前記2認定の事実によれば、原告が、平成一一年一〇月一日、被告の環境事業推進部の部長として入社したこと、このころ、被告が、経営悪化に伴い、経営の合理化を図る必要があったことから、同年一二月二八日、合理化委員会を設置したこと、合理化委員会が、平成一二年一月上旬ころ、組織の見直しの一環として、環境事業推進部を廃部にすることとし、同委員会の委員長及び副委員長が、原告を含む四名の同部社員に対し、退職を勧告し、退職条件につき協議することにしたこと、この内、原告を除く三名は、同月下旬、退職勧奨に応じ、同年二月末日をもって退職することになったこと、合理化委員会の委員長及び副委員長が、原告と面談し、同年一月三一日、同年二月末日限り退職してほしい旨述べたが、原告がこれに応じず、裁判に訴えるなどと述べて、面談を打切ったこと、同人らが、原告に対し、同月二八日、被告を退職しない場合の年収額について交渉しようとしたが、原告がこれに応じず、面談を打切ったことが認められる。
 これらの事実によれば、被告が、原告に対し、同年一月三一日、退職するよう述べたことは、退職を勧奨したものにすぎず、解雇の意思表示ではないというべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 前記2認定の事実によれば、被告が、原告に対し、平成一二年一月三一日、退職を勧奨し、同年二月二九日、原告が退職しない場合の年収額減額を提示したが、原告がいずれも拒否したこと、原告が、同日、自発的に事務引継をした後に退社し、以後、被告に就労しなかったことが認められる。
 これらの事実によれば、原告は、同年三月以降、被告から就労を拒否されていなかったにもかかわらず、被告から退職を勧奨されたことから、自らの意思で就労しなくなったことが認められる。
 そうすると、原告の不就労が、被告の帰責事由によるものということは到底できないから、原告は、被告に対し、不就労の期間に対応する賃金の支払を求めることはできないというべきである。
 したがって、原告の賃金請求は理由がない。