全 情 報

ID番号 07737
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 東京国際学園事件
争点
事案概要  学校法人Yが設置経営している外国語専門学校の教員として、昭和五七年~平成四年にかけて雇用され、二回から一六回にわたり契約を更新してきたXら一六名(うち三名が日本人)が、平成七年度末(八名)もしくは平成八年度末(八名)をもって雇用契約の終了及びそれに伴う年俸月額一カ月分の支払を通知する書面を受けたことから、雇用契約上の地位の確認及び未払賃金の支払を請求したケースで、XらとYとの契約は一年の期間を定めた雇用契約であったとし、かつXらが毎年度の契約終了後も雇用関係の継続を期待することに合理性が認められるから、本件雇止めには解雇権濫用法理が適用されるとしたうえで、Xらのうち二名については人員削減の必要性、雇止め回避努力及び手続の点からみて権利濫用には当たらないが、そのほか一四名に対する雇止めは権利濫用により無効であるとして(平成七年度末に雇止めされた六名については、人員削減の必要性が四名で足りるところ六名も雇止めしており、労働能力の優劣を内容とする選定基準自体は合理性があるもののその当てはめが不合理であるとして、また平成八年度末に雇止めされた八名については、書類の不提出という基準自体及びその基準の適用の仕方及びその結果も不合理であるとして、権利濫用により無効とされた)、雇用契約上の地位確認の請求については認容されたが、賃金請求についてはXらが客観的にYにおいて就労する意思と能力を有していることを主張立証していないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法14条
労働基準法3条
労働基準法2章
民法1条3項
民法536条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の期間
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 国籍と均等待遇
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 2001年3月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 8334 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例818号55頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-国籍と均等待遇〕
〔労働契約-労働契約の期間〕
 被告では外国人教員を多数雇用するために外国人教員の賃金を日本人教員の賃金よりも高くする必要があったが、終身雇用を前提とする従来の賃金体系では外国人教員にとって魅力があると思えるほどに高額の賃金を提供することはできなかったという状況の下で、外国人契約は、外国人教員を期間の定めのある嘱託社員として扱うことによって従来の賃金体系との整合性を図るとともに、従来の賃金体系からみれば高額の賃金を提供することによって多数の外国人教員を雇用する目的で導入した契約であること(前記第3の2(2)イ(ア)a)からすれば、被告としては、雇用期間以外はすべて外国人契約と同じ内容で、雇用期間の定めのない契約を締結することはできなかったものというべきである。
 そうすると、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告には外国人教員(ただし、外国で学位を取得しネイティブ同等の英語力を有する日本人教員を除く。)との間で期間の定めのない雇用契約を締結する意思がないものと認められるが、そのことをもって、外国籍又は人種による明らかな差別であると認めることはできないのであって、ABC契約のうち期間を定める部分が憲法14条、労働基準法3条に違反して無効であるということはできない。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 期間の定めのある雇用契約において、労働者が契約期間の満了後も雇用関係の継続を期待することにある程度の合理性が認められる場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、契約期間の満了後の新契約の締結拒否(雇止め)について解雇に関する法理を類推すべきであると解される(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決(民集28巻5号927頁)及び最高裁昭和61年12月4日第一小法廷判決(判例時報1221号134頁)は、そのような観点から雇止めについて解雇の法理を類推適用したものと解される。)。
 (2) 本件において、
 ア 前記第3の2(2)イ(ア)a、(イ)、(ウ)a、(エ)及び(オ)aの各事実を総合すれば、原告らが毎年度の契約の終了後も雇用関係の継続を期待することに合理性があるものと認められるから、原告らが被告との間で締結したABC契約の雇止めについては解雇に関する法理を類推すべきである。〔中略〕
 前記のとおり要員調整の必要性が認められることから、原告X1及び同X2を対象とした平成7年度末の雇止めについて本件就業規則39条3号に基づいて解雇権が発生しているとしても、被告が希望退職の募集などの他の手段を採ることによって雇止めを回避することができたにもかかわらず、直ちに雇止めをした場合、あるいは、雇止めを回避することが客観的に可能であるか否かは別として、雇止めはいわば労働者側に出血を強いるものであることから、被告としてもそれ相応の努力をするのが通例であるのに、何の努力もしないで突然雇止めをした場合などに、諸般の事情を考慮すると、被告は、人員の削減のための雇止めを回避するために十全の努力をしていないとして雇止めが権利の濫用に当たるというべき場合があり得るものと解される。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 労働契約に基づく労働者の労務を遂行すべき債務の履行につき、使用者の責めに帰すべき事由によって労働者の債務の履行が不能となったときは、労働者は、現実には労務を遂行していないが、賃金の支払を請求することができる(民法536条2項)。そして、使用者が労働者の就労を事前に拒否する意思を明確にしているときも、労働者の労務を遂行すべき債務は履行不能となるというべきであるが、労働者は、同項の適用を受けるためには、その場合であっても、それが使用者の責めに帰すべき事由によるものであることを主張立証しなければならず、この事実を主張立証するには、その前提として、労働者が客観的に就労する意思と能力を有していることを主張立証することを要するものと解するのが相当である。