全 情 報

ID番号 07739
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 大誠電機工業事件
争点
事案概要  車両及び各種電気機器具の製造・販売等を業とする株式会社Yは主要な取引会社であるJR西日本との請負契約に基づき、JRの工場内に国鉄時代から設けられていた出張所での電車車両の誘導業務に従事してきたYの従業員X(同業務従事者はXを分会長とする労働組合分会に加入)が、YとJR西日本との右請負契約が期間満了によって更新されることなく終了したことに伴い、Yから解雇されたことから、Yに対し、〔1〕右解雇は整理解雇の要件を充足せず、また不当労働行為に該当すると主張して、雇用契約に基づく権利を有することの確認及び賃金支払を請求するとともに、〔2〕本来はJR西日本に雇用されるべきであるのに、形式上Yに雇用されることによって違法な就労形態を強いられ(JR西日本は実質的には使用者であるにかかわらず、使用者責任を回避するために、YによるXらの雇用、Yとの本件請負契約という形態経由して本件業務に従事させたことは、職業安定法や労働者派遣法に違反する)人格権侵害による精神的苦痛を受けたと主張して慰謝料の支払を請求したケースで、〔1〕については、本件解雇は整理解雇として有効要件を満たし、客観的にみて合理的な理由があると認められ、不当労働行為にも該当しないとして、請求が棄却、〔2〕については、YはJR西日本とは全く独立した会社であり、Xは従事する業務内容を把握したうえでYと雇用契約を締結し、Yによって本件業務に配置されてこれに従事し、その結果、Yから予定された賃金の支給を受けていたのであって、JR西日本の従業員として処遇されるべき何らの権利を有していなかったのであるから、本件請負契約が職業安定法違反を含むものであったとしても、それによって労働者としての人格権を侵害されたとはいえないとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
民法623条
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
労働契約(民事) / 成立
裁判年月日 2001年3月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 1445 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例806号30頁/労経速報1775号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、JR西日本からの本件請負契約の更新拒絶により余剰人員となった原告らを人員整理のために解雇するというものであり、いわゆる整理解雇に該当するものであるところ、解雇権の行使といえども、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認できない場合には権利の濫用として無効とされるべきである。整理解雇は、使用者側の経営上の理由のみに基づいて行われるものであり、その結果、何らの帰責事由もない労働者の生活に直接かつ重大な影響を及ぼすのであるから、恣意的な整理解雇は是認できるものではなく、その場合の解雇権の行使が一定の制約を受けることはやむを得ない。
 かかる観点から整理解雇が有効とされるための要件を検討すると、第一に、人員整理の必要もなくなされた解雇が不当であることはいうまでもないし、第二に、人員整理の必要が認められる場合でも、解雇によって労働者が被る影響を考えると使用者には解雇に先立ちこれを回避するための方策を講じるべき努力義務があるというべきであり、第三に、その人選が合理的なものでなければならず、第四に、労使間の信義という点からして、使用者には、当該解雇が恣意的なものでないことを労働者ないし労働組合に納得させるべく説明や協議を行うべきことも要請されるというべきである。そして、整理解雇が、客観的に合理的な理由を有するものであるか否かは、これらの要件に即し、かつ、最終的にはこれらの要件該当性の有無、程度を総合して判断されるべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 右認定事実によれば、平成7年以降被告全体の売上高は年々下落してきていたし、平成9年の時点で博多営業所の閉鎖が免れないものとなり、さらに平成11年7月以後は電車車両の検査周期の延長から更なる受注減少が見込まれるなどして、被告は本件解雇以前から退職勧奨による余剰人員の整理を進めるなどしていたのであって、このようななかで本件請負契約の終了により本件業務がなくなることになったのであるから、原告らが余剰人員となるのは明らかである。
 現に、平成11年の売上高の推移(別紙平成11年度売上高推移表)をみても、7月以降はJR西日本の関連会社であるA社(被告に対する電車車両部品検査修理等の直接の発注者である。)に対する売上が極端に減少し、全体の売上を大幅に押し下げている。被告は、原告らが解雇された前後ころの人件費、買掛金、被告負担の社会保険料等しか明らかにしてはいないが、これだけでみても、そのころの月々の売上からこれらの諸経費を控除した余剰は僅かであり、吹田出張所関係の収益がなくなる同年10月以降も原告らを雇用し続けたとした場合、赤字経営となることは明らかである。
 以上によれば、被告に人員整理の必要があったことを認めることができる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 すでに本件解雇前から本社では人員が余剰化しており、被告は、従業員の新規採用を停止し、退職勧奨で任意退職を促したりして本件解雇告知前のみならず告知後も本社での人員整理を推し進めていたし、役員の報酬減額をしたり、さらには役員自身も退任するなどしたのであって、それでも、結局、本件解雇の平成11年9月ころの状況では、右のとおり、原告らの雇用継続を確保することは困難な状態であった。そのころ、本社従業員には残業もなく、残業調整をする余地もなかった。
 また、被告は、規程どおりの退職金の支給をしたほか、代償措置としては微々たるものとはいえ、特別手当の支給も行うなどしている。
 以上によれば、被告としては、本件解雇を回避するためになすべきことはほとんど行ってきているというべきであり、その努力を尽くしたものということができる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 本件解雇は、本件業務が被告からなくなったことに伴って、それに従事していた原告らを全員一律に解雇するというものであったから、その人選が被告の恣意に基づいてなされたものということはできない。
 本社勤務の従業員との関係でみても、被告は、かねてから退職勧奨等を行うなどしていたのであるから、さらに本社で退職者募集を行う余地はなかったと考えられるし、本件解雇後に被告が本社に残した従業員は、いずれも有資格者や熟練工であるから被告の業務遂行には不可欠な人材であり、主として誘導業務に関わってきていた原告らとの比較では代替性に乏しいものであったと認められる。
 以上によれば、人選の合理性も認められる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 被告は、JR西日本から本件請負契約の更新がないことが確定したことの通知を受けるや、その直後に、原告らに対し、事情を説明したうえで本件解雇を通告している。
 その後、分会が平成11年7月以降になってJR西日本に対し団体交渉を求めるなどしたことはあるが、原告ら及び分会が、説明が不十分であるなどとして、本件解雇に関する事情説明等を被告に対して求めたりしたことを認めるに足る証拠はない。
 以上によれば、本件解雇が手続的にも不当であったとは認められない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 以上を総合すると、本件解雇は、整理解雇としての有効要件を満たすものというべきであり、客観的にみて合理的な理由があると認められる。〔中略〕
〔労働契約-成立〕
 仮に、本件請負契約の実質が原告らの主張するように、請負といい得るものではなく、JR西日本の指揮命令下での単なる労務の提供に過ぎないものでしかなかったとしても、JR西日本としては、原告らを直接雇用する意思のなかったことは明らかであるし、原告としてもJR西日本に雇用された同社の従業員としての意識で本件業務に従事していたものでないことは明らかというべきであって、その間には契約締結に向けられた意思の合致はなく、雇用契約が締結されていたと認める根拠がない。原告らは本件請負契約の職業安定法違反や派遣法違反の点を非難するが、それらの違反がある場合でも、その違法状態を解消するためにJR西日本が直接雇用の責任を当然に負担しなければならないものではなく、ましてや、右違反の故に両者間の雇用契約締結が擬制されるとの法律効果が生じるものではない。被告にしても、右違反の故に、被告とは法人格の異なるJR西日本をして、原告らを直接雇用させる義務を負担するというものでもない。
 してみると、仮に、本件請負契約が実質的に見て職業安定法等の違反するものであったとしても、そこから、原告がJR西日本の従業員として処遇されるべきであったとの権利が生じる余地はないというべきである。