ID番号 | : | 07745 |
事件名 | : | 賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 住友化学工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 基礎科学品等の製造・販売等を目的とする株式会社Yに二種採用で(事業所採用、一般職務従事要員)昭和四〇年前後に雇用された女性従業員Xら三名が、三種採用(会社採用、専門職務従事要員)で同時期入社の同学歴男性従業員との間で職分昇任や賃金について格差が生じていたことから、主位的に同時期入社の同学歴男性社員との間で昇進、昇級などにおいて男女差別が行われていたことが違法性を有するとして債務不履行責任及び不法行為責任に基づく賃金格差相当額等の損害賠償の支払を(厚生給支給の男女差別、男女雇用機会均等法にも基づく調停開始への不同意についても違法性を主張)、予備的に系列転換審査制度を男女差別的に運用したことは、違法な差別の是正義務の不履行であり、違法な男女差別、人格権の侵害等にあたるとして、損害賠償・慰謝料等の支払を請求したケースで、主位的請求については、職分昇任や賃金における男女格差の存在を認定したうえで、二種採用者と三種採用者とでは社員としての位置付けの違いからくる採用区分が存し、その処遇の結果を同列比較することは相当とはいえず、その間に存する現在の任用職分の格差やこれに起因するとみられる賃金格差をただちに男女差別の労務管理の結果ということはできないとし、また女性も三種採用の処遇を受ける機会は保障されており、高卒女子を二種採用とすることがXらが採用された当時の公序良俗違反とまではいえないとして、請求が棄却され、そのほか全てのXらの主張には理由がないとして請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法4条 日本国憲法14条 労働基準法11条 民法709条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 男女同一賃金、同一労働同一賃金 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 男女別コ-ス制・配置・昇格等差別 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 |
裁判年月日 | : | 2001年3月28日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 8008 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例807号10頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 家田愛子・法律時報74巻7号97~100頁2002年6月 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-均等待遇-男女別コ-ス制・配置・昇格等差別〕 以上によれば、2種採用で採用された原告ら高卒女子と3種採用で採用された高卒男子との間では、職分昇任や管理職昇進及び賃金において著しい格差が生じているということができる(賃金格差に関しては、各年別の高卒女子の在職者が極めて少数であるため、その統計的な価値に疑問がないではないが、右(1)イ〔4〕に認定の2種採用高卒女子29名というある程度の集団と比較しても同様であるから、右の2種採用高卒女子と3種採用高卒男子との間には賃金水準でも著しい格差があると認められる。)。〔中略〕 原告らが比較対象とする3種採用者は、専門職務に従事することを予定して全社採用された者であり、そのため、36年制度の下では基礎能力検定試験合格者とみなされて多くの者が職分3級に職分昇任したうえ、45年制度の専門事務技術職系列に移行し、事務技術職に移行した3種採用者も専門事務技術職系列転換審査Bの学科試験が免除されるなどした結果、その多くが専門事務技術職系列に系列転換し、その後はこれを承継した企画開発職系列ないし専門職系列で職分昇任していったものと認められ、これは専門職務従事要員として全社採用された3種採用者に採用当初から予定されていたことというべきであるし、他方、原告ら2種採用者は、その多くが現在でも36年制度の一般職務に対応する基幹職掌の職務に従事する者として基幹職に任用されているが、このこともまた一般職務従事要員として事業所採用された2種採用者に当初から予定されていたものというべきである。 右のとおり、3種採用者と2種採用者とでは、全社採用か事業所採用か、したがって専門職務従事要員か一般職務従事要員かという社員としての位置付けの違いからくる採用区分が存するのであるから、その処遇の結果を同列に比較することは相当とはいえず、したがって、その間に存する現在の任用職分の格差やこれに起因するとみられる賃金格差を直ちに男女差別の労務管理の結果ということはできない。〔中略〕 企業には、いかなる労働者をいかなる条件で雇用するかについての採用の自由があり、その要員確保の目的に応じて、あらかじめ、採用後に従事させる職務等による社員の区分を行い、その区分毎に異なる募集条件や採用後の処遇を設定して社員の募集、採用を行い、採用後その区分に応じた処遇を行うことは原則として企業が自由になしうることであるが、かかる採用の自由も、法律上の制限がある場合はもちろん、そうでない場合でも基本的人権の諸原理や公共の福祉、公序良俗による制約を受けることは当然であり、不合理な採用区分の設定は違法になることもあるというべきである。 しかしながら、被告においては、36年制度実施当時から、事業所採用によって採用され、原則として一般職務に従事するものとされた社員でも、男女を問わず、基礎能力検定試験や職分3級登用審査に合格することによって職分2級に任用され、さらには職分3級に昇任することが可能とされて専門職務に従事する機会は与えられていたし、その後の制度改定においても、男女差別の是正という位置付けではないが系列転換審査制度が設けられ、2種採用者を含む事業所採用の社員でも、男女を問わず、専門事務技術職掌、企画開発職掌、専門職掌といった専門職的職種の職系列に転換する機会は保障されていたもので、一般職務従事要員としての女子社員の位置付けは必ずしも固定的なものではなかった。 2種採用で採用された原告ら高卒女子も、3種採用者と同等の処遇を求めるのであれば、これらの試験や審査に合格するなどして3種採用と同等の能力を有することを自ら示すべきであったのであり、そして、その機会はすでに36年制度当時から与えられていたのである。 以上のとおり、36年制度の2種、3種の採用区分が女子であることを理由としていた点では問題があるとしても、〔中略〕3種採用の予定する処遇から確定的に排除されていたのではなく、3種採用の処遇を受ける機会は保障されていたというべきである。〔中略〕 〔労基法の基本原則-男女同一賃金〕 被告の厚生給の扶養家族分及び住宅要素は、社員賃金規定に支給基準等が定められ、支給要件を備えた社員に一律に支給することが約されているのであるから、これが労働基準法11条の賃金に該当することは明らかであり、同法4条により、被告はその支給において男女を平等に扱わなければならない。 ところで、被告の厚生給の扶養家族分や住宅要素は社員一律に定額が支給されるものとされている場合とは異なり、その家族状況や住宅事情に応じて支給額が異なるものとされていることからすると、労働の対価というよりは生活補助費的性格が強いというべきである。そして、そのような性格のものである以上、いわゆる共稼ぎ夫婦の場合、そのいずれにも扶養家族分や住宅要素を支給することとすると、同一の事情に対し二重の支給をすることになって社員間の公平を失することになるから、実質的な生計の主催者にのみこれを支給するとすることも著しく不合理なものとすることはできない。 原告らは、それが運用上住民票上の世帯主とされることによって、実質的には男女差別になるというのであるが、確かに原告らが主張するとおり男女が世帯を構成する場合男子が住民票上の世帯主になる場合が圧倒的に多いであろうが、他方で、住民票上の世帯主を男子としている場合は、男子が主として一家の生計を維持しているとみられる場合が多いと考えられる。そうすると、一般的には住民票上の世帯主と主としてその家庭の生計を維持している者とは一致している場合が多いと考えられ、実質的な世帯主認定に要する支給事務の繁雑さ等を併せ考えると、住民票上の世帯主をもって厚生給支給の対象たる世帯主とするとの被告の運用にも理由がないことではない。そして、被告の運用において、女子の場合は住民票上の世帯主になったとしても世帯主厚生給が支給されないなどの男女での差別運用があると認めるに足る証拠はない。 以上によれば、厚生給のうち扶養家族分及び住宅要素を、便宜上、住民票上の世帯主に対して支給するという被告の運用が違法な男女差別に該当するものとは認められない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 均等法15条が、当事者の一方のみからの調停申請の場合に、相手方当事者の同意を調停開始の要件としたのは、調停がもともと任意の話し合いによる互譲によって紛争解決を図ることを目的とした制度であることによるものと解される。相手方当事者が調停開始に応じるか否かは全くの任意であって、均等法が相手方当事者に同意義務を課すものでないことは明らかであるし、原告らがいう調停を受ける利益なるものも、国が調停制度を設営していることによって事実上生じている反射的利益に過ぎず、相手方当事者との関係で法的権利性を有するものとは解されない。 したがって、被告が原告らの申請した調停開始に同意しなかったことがいかなる理由からであったにせよ、これによって、原告らの何らかの権利が侵害されたと認めることはできない。〔中略〕 原告らが平等に取り扱われるべき期待権、人格権を侵害されたと認めることはできず、原告らの予備的請求その2は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。 |