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ID番号 07750
事件名 各損害賠償請求控訴事件、仮執行の原状回復等を命ずる裁判の申立て事件、各損害賠償請求附帯控訴事件
いわゆる事件名 東朋学園事件
争点
事案概要  専修学校等を設置することを目的とする学校法人Yに事務職として採用され、当時Yらにおける職階が書記二級であった女性職員Xが、八週間の産後休業を取得し、続いてYの育児休職規定に基づき勤務時間の短縮を請求し、約九ヶ月間、一日一時間一五分の育児時間を取得していたところ、Yの給与規定には、賞与の支給要件として出勤率が九〇%以上となっており、Xの賞与算定に際し、Yは右産後休業期間及び育児時間を欠勤日数に算入する取扱いをした結果、Xは給与規定の支給要件を充足しないとして二回分の賞与が支給されなかったことから、Y及びその代表理事等に対し、賃金請求として右二回分の賞与等を請求し、選択的に、不法行為による損害賠償として右各賞与相当額を請求したケースの控訴審(Y控訴、Xらが慰謝料等を求め附帯控訴)で、本件九〇%条項中、出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し、出勤した日数から産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による育児時間を除外することと定めている部分は、労基法六五条、育児介護休業法一〇条、労基法六七条の趣旨に反し、公序良俗に違反するから無効であるとし、その結果、Yにおける賞与の支給要件及び算定基準について本件各除外規定がない状態に復するのであるから、賞与全額の支払を命じた原審(各賞与請求権を肯定してXの請求を一部認容)の判断に不合理性はないとして、Xの賞与請求権が肯定されて、Yの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法65条
労働基準法67条
育児・介護休業法10条
民法90条
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
女性労働者(民事) / 産前産後
女性労働者(民事) / 育児期間
裁判年月日 2001年4月17日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 1925 
平成10年 (ネ) 5630 
平成13年 (ネ) 778 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報1751号54頁/労働判例803号11頁/労経速報1766号14頁/第一法規A
審級関係 一審/07105/東京地/平10. 3.25/平成7年(ワ)3822号
評釈論文 ・労政時報3498号48~49頁2001年7月6日/名古道功・判例評論517〔判例時報1770〕203~208頁2002年3月1日
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 当裁判所も、被控訴人の請求は、控訴人に対し、賞与として合計126万2300円及び内金77万4500円に対する平成6年度年末賞与支給日である平成6年12月16日から、内金48万7800円に対する平成7年度夏期賞与支給日である平成7年6月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない(したがって、控訴人の仮執行の原状回復請求もその判断の必要がないこととなる)と判断するものであり、その理由は、次の2のとおり、原判決に対する訂正、加除をし、3のとおり、当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決〔中略〕に説示のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 本件90パーセント条項の趣旨・目的について、従業員の出勤率向上、貢献度評価という二つの側面があることは控訴人指摘のとおりであるが、控訴人においては、職務が事務職である場合の貢献度を評価するに当たっては、結局、出勤率をもって行うものであることは控訴人も自認するところであり、したがって、従業員の高い出勤率を確保することを制度の主たる趣旨・目的として本件90パーセント条項の効力について検討している原判決の判断が偏頗なものであるとはいえない。
 また、控訴人の主張によれば、同じ特別休暇として勤務を免除された出産休暇や育児時間以外の休暇の取得については、貢献度に問題はないということになるが、不就労の事実は同じであるのに、何故取得した休暇の種類によって契約上の効果を異にするかについての合理的な説明はされていない。とりわけ、控訴人においては、就業規則45条3号において「配偶者が出産したとき」は5日の特別休暇(有給)が与えられるのに対して、従業員本人が出産したときはすべて無給とされ、かつ賞与もカットされることとなり、均衡を失する規定となっていること、また、生理休暇については、有給の特別休暇とされながら、賞与の支給に関しては欠勤扱いとされ、整合性を欠いていること等、育児時間を含めて休暇取得者として主として女性が予定されている休暇について欠勤に加算して処理されるという不合理な取扱いとなっているものというべきである。
 さらに、控訴人は、長期にわたる休暇については貢献度評価において他の特別休暇と質的に異なるもので不合理ではないとの主張をしているものと解されるが、当時の控訴人において、年次有給休暇の繰越しを年数による制限を設けず、長期間の年次有給休暇の取得を容認していた例があること(証人Aの証言)に照らしてみると、長期の休暇取得であるから貢献度評価をゼロとするという説明も必ずしも成り立つものではない。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
〔女性労働者-産前産後〕
 産前産後休業については、その取得を労働者の責めに帰すべき事由による不就労と区別し、これを取得した女性労働者が解雇その他の労働条件における不利益を被らないように種々の法的規制がなされているのであって、これは、産前産後休業を取得することによって不利益を被ることになると、労働者に権利行使を躊躇させ、あるいは、断念させるおそれがあり、法が権利、法的利益を保障した趣旨を没却させることになるからにほかならない。そうすると、産前産後休業の取得を労働者の責めに帰すべき事由による不就労と同視して、これを取得した女性労働者に同様の不利益を被らせることは、法が産前産後休業を保障した趣旨を没却させるものであり、法の容認しないところというべく、そのような取扱いは、公序良俗に違反して違法・無効となると解するのが相当である。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
〔女性労働者-育児期間〕
 労基法67条は、生後1年未満の生児を育てる女性労働者は、休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分育児時間を請求することができ、使用者が育児時間中の女性労働者を使用することを禁止しているが、これは、生児への授乳等の母子接触の機会を与えることを目的とするものである。また、育児休業法は、子を養育する労働者の雇用の継続を図ることを目的として、1歳に満たない子を養育する労働者の育児休業等について定めるが、育児休業を取得しない者については、同法10条が、労働者の申出に基づく勤務時間の短縮その他の当該労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするための措置を講じるよう努力すべきことを事業主に義務づけている。
 また、労基法67条の育児時間については、その違反に対する罰則(労基法119条1号)が、育児休業法10条については、労働大臣等の助言、指導又は勧告(育児休業法12条)が規定されているが、その他には直接には具体的な法規制は行われていない。さらに、育児休業法10条は、事業主が講じるべき措置義務を定めたものであり、同条から直接私法上の権利義務が発生するわけではない。本件では、被控訴人は、控訴人の育児休職規程に基づき勤務時間短縮措置による育児時間を取得したことは当事者間に争いがなく、同措置は育児休業法10条に基づくものである。
 以上の各規定に表れている法の趣旨は、労働者が所定の育児時間を取得することは、労働者の責めに帰すべき事由による不就労と区別されなければならず、保障されるべきであることを明確にすることにあると解するのが相当である。したがって、事業主が同条に基づいて就業規則等に育児のための勤務時間短縮措置を規定し、労働者がこれにより育児時間を取得したところ、事業主が育児時間の取得を労働者の責めに帰すべき事由による不就労と同視して、労働者に同様の不利益を被らせることは、法が育児時間を保障した趣旨を没却させるものであり、法の容認しないところといわざるを得ず、そのような取扱いは、公序良俗に違反して違法・無効となると解するのが相当である。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 本件90パーセント条項の趣旨・目的は、前記のとおり、従業員の出勤率を向上させ、貢献度を評価することにあり、もって、従業員の高い出勤率を確保することを目的とするものであって、この趣旨・目的は一応の経済的合理性を有しているが、その本来的意義は、欠勤、遅刻、早退のように労働者の責めに帰すべき事由による出勤率の低下を防止することにあり、合理性の本体もここにあるものと解するのが相当である。産前産後休業の期間、勤務時間短縮措置による育児時間のように、法により権利、利益として保障されるものについては、そのような労働者の責めに帰すべき事由による場合と同視することはできないから、本件90パーセント条項を適用することにより、法が権利、利益として保障する趣旨を損なう場合には、これを損なう限度では本件90パーセント条項の合理性を肯定することはできない。
 したがって、本件90パーセント条項中、出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し、出勤した日数から産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による育児時間を除外することと定めている部分(給与規程と一体をなす本件各除外規定によって定められている部分)は、労基法65条、育児休業法10条、労基法67条の趣旨に反し、公序良俗に違反するから、無効であると解すべきである。