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ID番号 07751
事件名 懲戒処分取消請求上告事件
いわゆる事件名 愛知県教委(減給処分)事件
争点
事案概要  市立中学校の教諭であったXが、三度にわたる定期健康診断に係る胸部エックス線検査を受けるように命じた校長の職務命令を放射線暴露の危険性を理由に拒否したことが地方公務員法二九条一項一号・二号(法律等違反、職務上の義務違反)に該当するとして、三カ月間、給料及びこれに対する調整手当ての合計額の一〇分の一を減ずる旨の減給処分を受けたことから、その処分を違法として教育委員会Yに対し、その取消しを請求したケースの上告審で、一審は本件処分を違法として取消したのに対し、二審は定期健康診断の受診義務を肯定してYの懲戒処分に違法はないとしていたが、最高裁も、市町村立中学校の教職員は、労働安全衛生法六六条五項により当該市町村が行う定期の健康診断を受ける義務を負うとともに、当該診断における結核の有無に関するエックス線検査について、結核予防法七条一項によりこれを受診する義務がある等として、二審の判断を相当として、Xの上告を棄却した事例。
参照法条 労働安全衛生法66条5項
結核予防法7条1項
地方公務員法29条1項
学校保健法8条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令
労働安全衛生法 / 健康保持増進の措置 / 健康診断
裁判年月日 2001年4月26日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行ツ) 229 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1751号173頁/タイムズ1063号113頁/裁判所時報1290号3頁/労働判例804号15頁/労経速報1776号3頁
審級関係 控訴審/07017/名古屋高/平 9. 7.25/平成8年(行コ)15号
評釈論文 磯部哲・平成13年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1224〕39~40頁2002年6月/山田洋・法令解説資料総覧238号139~140頁2001年11月/小畑史子・労働基準53巻11号32~36頁2001年11月/須藤陽子・月刊法学教室254号109~108頁2001年11月/水島郁子・民商法雑誌125巻3号132~137頁2001年12月/西村健一郎・労働判例808号5~10頁2001年10月1日/飯島直人・労働法律旬報1548号44~51頁2003年3月25日/矢部恒夫・法律時報74巻4号106~1
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕
〔労働安全衛生法-健康保持増進の措置-健康診断〕
 市町村立中学校の設置者である市町村は、学校保健法8条1項により、毎学年定期に、学校の職員の健康診断を行わなければならず、当該健康診断においては、結核の有無をエックス線間接撮影の方法により検査するものとされている(同法10条1項、学校保健法施行規則(平成2年文部省令第1号による改正前のもの)10条1項3号、11条2項)。また、当該市町村は、結核予防法4条1項、6条、結核予防法施行令(平成4年政令第359号による改正前のもの)2条1項9号、2項2号、結核予防法施行規則(平成4年厚生省令第66号による改正前のもの)3条5号により、職員に対し、毎年度、少なくとも1回、エックス線間接撮影の方法による健康診断を行わなければならないものとされ、職員に対して学校保健法等の規定によって健康診断が行われた場合において、その健康診断が結核予防法12条の規定に基づく省令で定める技術的基準に適合するものであるときは、同法4条4項により、当該対象者に対して同条1項の規定による健康診断を行ったものとみなされる。他方、市町村立中学校の教諭その他の職員は、労働安全衛生法66条5項により、当該市町村が行う定期の健康診断を受けなければならない義務を負っているとともに、当該健康診断において行われる結核の有無に関するエックス線検査(労働安全衛生規則(平成元年労働省令第22号による改正前のもの)44条1項4号参照)については、結核予防法7条1項によっても、これを受診する義務を負うものである。ところで、学校保健法による教職員に対する定期の健康診断、中でも結核の有無に関する検査は、教職員の保健及び能率増進のためはもとより、教職員の健康が、保健上及び教育上、児童、生徒等に対し大きな影響を与えることにかんがみて実施すべきものとされている。また、結核予防法は、結核が個人的にも社会的にも害を及ぼすことを防止し、もって公共の福祉を増進することを目的とするものであり、同法による教職員に対する定期の健康診断も、教職員個人の保護に加えて、結核が社会的にも害を及ぼすものであるため、学校における集団を防衛する見地から、これを行うべきものとされているものである。
 これらによると、市町村立中学校の教諭その他の職員は、その職務を遂行するに当たって、労働安全衛生法66条5項、結核予防法7条1項の規定に従うべきであり、職務上の上司である当該中学校の校長は、当該中学校に所属する教諭その他の職員に対し、職務上の命令として、結核の有無に関するエックス線検査を受診することを命ずることができるものと解すべきである。
 3 これを本件についてみると、上記事実関係によれば、上告人は、市教委が実施した昭和58年度の定期健康診断においてエックス線検査を受診せず、A校長が職務上の命令として発したエックス線検査受診命令を拒否したというのであり、前記1(6)の事実をもって結核予防法8条、労働安全衛生法66条5項ただし書の要件を満たすものということもできないから、上告人が当時エックス線検査を行うことが相当でない身体状態ないし健康状態にあったなどの事情もうかがわれない本件においては、A校長の上記命令は適法と認められ、上告人がこれに従わなかったことは地方公務員法(平成11年法律第107号による改正前のもの)29条1項1号、2号に該当するというべきである。原審の判断は、以上と同旨をいうものとして是認することができる。