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ID番号 07775
事件名 未払賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 京都銀行事件
争点
事案概要  銀行Yの元従業員Xが、Yの就業規則では、始業時刻が午前八時三五分、終業時刻は週初、週末及び月末の各営業日が午後五時三五分、それ以外の日が午後五時であり、休憩時間は午前一一時から午後二時までの間において一時間業務に支障のないように交替して取るものとされていた(外出先の届出承認が必要)が、実際には、男子行員にほとんどが八時過ぎまでに出勤し開店準備するなどしており、週二回は開店準備終了後午後八時三〇分から約一〇分間朝礼が実施されており、また男子行員については始業時刻前に事実上参加を義務付けられている融得会議が開催されることもあり、さらに終業後も午後七時以降も多数の行員が業務に従事していることが特殊な状況ではなかったことから、1.〔1〕始業時刻前の準備作業、〔2〕朝礼、〔3〕融得会議、〔4〕昼の休憩時間、〔5〕終業後の残業等につき時間外勤務手当の未払分とこれと同額の付加金の支払、2.Yの幹部から嫌がらせと昇進差別を受けて退職を余儀なくされたとして不法行為に基づく慰謝料の支払を請求したケースの控訴審で、原審はいずれの請求も棄却していたが、1.については、〔4〕を除き労働時間性が肯定されて(〔1〕〔2〕〔5〕につき、8時15分から始業時刻までの間の勤務及び終業時刻後午後7時までの間の勤務についてはYの黙示の指示による労働時間と評価できるとし、さらに〔3〕についても8時15分前に開催された場合の開始時間以降の勤務が労働時間にあたるとされた)Xの控訴が一部認容され(付加金請求は棄却)、2.については、Yに裁量権を逸脱した違法な行為があったとまでは認めにくいとしてXの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 違法な時間外労働と割増賃金
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 2001年6月28日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 4141 
裁判結果 一部認容(原判決一部変更)、一部棄却(確定)
出典 労働判例811号5頁
審級関係 一審/07640/京都地/平11.11.25/平成10年(ワ)861号
評釈論文 藤本茂・平成13年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1224〕227~229頁2002年6月
判決理由 〔賃金-割増賃金-違法な時間外労働と割増賃金〕
 A支店においては、男子行員のほとんどが8時過ぎころまでに出勤していたこと、銀行の業務としては金庫を開きキャビネットを運び出し、それを各部署が受け取り、業務の準備がなされるところ、金庫の開扉は、B支店長時代には8時15分以前になされ、C支店長時代になってもその時刻ころにはなされていたと推認されること、このような運用は、被控訴人の支店において特殊なものではなかったこと、また、A支店において開かれていた融得会議については、前記認定のとおり男子行員については事実上出席が義務付けられている性質の会議と理解できることなどを総合すると、被控訴人A支店においては、午前8時15分から始業時刻までの間の勤務については、被控訴人の黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当すると認めるのが相当である。また、融得会議など会議が開催された日については、それが8時15分以前に開催された場合には、その開始時間以降の勤務はこれを時間外勤務と認めるのが相当である。〔中略〕
 前記認定事実によれば、控訴人は、勤務先には午前8時過ぎ頃までに出勤することを常としていたことが認められるから、手帳に記載のあるなしにかかわらず、上記基準に従い、午前8時15分までには出勤して勤務に従事していたと推認するのが相当である。そうすると、控訴人の始業時刻前の時間外勤務手当については、本判決別紙記載の額について認めるのが相当である。〔中略〕
 前記認定事実によれば、A支店においては、多数の男子行員が午後7時以降も業務に従事していたこと、このような実態は、被控訴人の支店において特殊なものではなかったこと、A支店では、前記認定にかかる文書(〈証拠略〉)が回覧され、勤務終了予定時間を記載した予定表が作成されていたことなどからすると、A支店においては、終業時刻後、少なくとも午後7時までの間の勤務については、被控訴人の黙示の指示による労働時間と評価でき、原則として時間外勤務に該当すると認めるのが相当である。また、それ以後の時間帯であっても、被控訴人が時間外勤務を承認し、手当を支払っている場合には、その時間も時間外勤務に該当するというべきである。〔中略〕
 そうすると、控訴人の終業時刻後の時間外勤務手当(未払分、但しその計算においては、自主申告分と同様、10分間の休憩時間を控除したものとする。)については、本判決別紙記載の額を認めるのが相当である。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 付加金について裁判所は、使用者による労働基準法違反の程度や態様、労働者の受けた不利益の性質や内容、この違反に至る経緯、その後の使用者の対応など諸事情を考慮して、その支払を命ずるか否かを決定できるものである。そして、前記認定事実によれば、本件の始業時刻前の時間外勤務については、始業時刻前の準備行為という性質をも伴うものであることなどから、これまで原則として時間外勤務の対象とされてこなかった面もあると推認され、そのことについては、その時間帯の性質上、あながち理由がないとはいえないこと、被控訴人A支店においても、平成9年5月からは融得会議についてはこれを時間外勤務に該当するという扱いに改めたこと、終業時刻後の時間外勤務については、被控訴人において、なるべくこれを減少させようとそれなりに努力し、また、そのすべてではないといえ、従業員の自主申告分についてこれを支払ってきたこと、控訴人に対しても在職中はその申告分の支払がされてきたこと、また、平成9年5月分については、控訴人の勤務日はほとんどその請求がされ、時間外勤務手当が支払われていることなどの諸事情を総合考慮すると、本件については、付加金の支払までは命じないのが相当であると判断される。