全 情 報

ID番号 07778
事件名 賃金仮払仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 佐野第一交通事件
争点
事案概要  タクシー事業を営む会社Yのタクシー乗務員で労働組合の組合員であるXら三八名が、Yが人件費の削減を目的にタクシー乗務員の賃金体系を変更して賃率を引き下げた新賃金案を提案し、労働組合がそれに抗議していたにもかかわらず、右新賃金案による計算に基づきXらに賃金等を支払ったことから、Yに対し、従前締結した期間の定めのない労働協約に基づく賃金等を支払うべきであるとして、減額分の賃金の仮払を申立てたケースで、従前の協約は期間の定めのない協約であり、Yから九〇日以上の予告期間を置いたうえで、署名又は記名押印のある文書でもって右協約を解約する旨の申し入れがなされたことが窺われないことから、新賃金案に基づく賃金等が支払われたときには、右協約はその効力を有しており、仮に上記賃金等を新就業規則に基づいて支給していたものであるとしても、Yによれば新就業規則は新賃金案と同じ内容のものであるから、右協約と抵触し、労基法九二条一項により無効であることは明らかであるため、就業規則の不利益変更の点について検討するまでもなく、Xらは差額賃金請求権を有しているとして、申立てが認容された事例。
参照法条 労働基準法3章
労働組合法14条
労働組合法16条
労働基準法92条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 協約の成立と賃金請求権
裁判年月日 2001年7月2日
裁判所名 大阪地岸和田支
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 55 
裁判結果 認容
出典 労経速報1789号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-協約の成立と賃金請求権〕
 債務者は、本件協定は、有効期間を一年間とする労働協約であり、新賃金案を提案した当時、本件協定はその効力を有していなかった旨主張する。
 労働組合法一四条は、労働協約の成立要件について要式性を要求し、書証(略)は、上記要式性を具備した有効な労働協約であるから、債務者の主張が認められるためには、本件協定とは別に、債務者と組合との間で本件協定の有効期間を一年間と定めた旨の前記要式性を具備した書面を取り交わしていることが必要であると解される。しかしながら、債務者において、組合との間でかかる書面を取り交わしていることを窺わせる疎明資料を何ら提出していないし、本件記録を精査しても、かかる書面の存在は窺われない。したがって、債務者の上記主張は失当である。〔中略〕
 労働組合法一五条の解釈上、有効期間の定めのある労働協約については、その期間は三年を超えることができず(同条一項)、三年を超える定めをした場合には有効期間を三年間とみなされる(同条二項)一方、有効期間の定めのない労働協約については、九〇日以上の予告期間を置いた上で当事者の一方から署名し又は記名押印した文書でもって解約することができる(同条三項、四項)にとどまるのであり、有効期間の定めのない労働協約について、一律にその期間を三年間とみなすことを定めたものではないことは明らかである。したがって、債務者の上記主張は、主張自体失当である。
 そうすると、債務者から九〇日以上の予告期間を置いた上で署名又は記名押印のある文書でもって本件協定を解約する旨の申し入れがなされたことが窺われない本件においては、債務者らが平成一三年五月分の賃金及び賞与を支給した当時、本件協定はその効力を有していたものである。したがって、債務者が本件協定ではなく、新賃金案に基づいて平成一三年五月分の賃金及び賞与を支給したことは、労働基準法二四条一項本文の賃金全額払の原則に抵触するものであり、違法であることは明らかである。また、仮に、債務者が上記賃金及び賞与を新就業規則に基づいて支給したものであるとしても、債務者の主張によれば、新就業規則は新賃金案と同じ内容のものであるというのであるから、本件協定と抵触するものであり、同法九二条一項により無効であることは明らかである。