ID番号 | : | 07783 |
事件名 | : | 雇用契約関係存在確認等反訴請求事件(10540号)、損害賠償請求事件(12188号) |
いわゆる事件名 | : | 光安建設事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 土木工事等を業とする株式会社Yの土木施工技術者で現場監督であったXが、Yから業務のために使用する目的でY所有の携帯電話を貸与されていたところ、妻の友人Iに本件携帯電話から私用電話をかけたが、電話の相手が誰であるかわからなかったIが本件携帯電話の所有者であるYに連絡をしたため、Xの私用電話が発覚するに至り、本件携帯電話の私用利用及びIに迷惑をかけたことを理由に、Yから即時解雇されたところ、X所属の労働組合との団交の結果、いったんは解雇が撤回され、他方、XとIとの間でも示談が成立し、IのXに対する誤解は解決されていたが、Yがその後、解雇予告手当を大阪法務局に供託したため、XがYに対し、〔1〕本件解雇は解雇権の濫用により無効であるとして雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求し(その他、Xは労基法四一条二号にいう管理監督者に該当するとして時間外、深夜、休日労働に対する割増賃金が支払われていなかったため、その支払も請求)、〔2〕YがXに対し、Yが負担したXの私用電話による電話料金相当額(Xは以前から私用電話をしていた)の損害賠償の支払を請求したケースで、〔1〕については諸般の事情を考慮すれば、Xに従業員としての適格性が欠如したとはいえず、むしろ、本件解雇は、もっぱらY代表者及び取締役がXに対して事実確認をせず、Iの話を一方的に信頼した結果、Xを嫌悪して行ったものであるから、解雇権の濫用であり無効として、請求が認容され(なお、Xは労基法四一条二号にいう管理監督者には該当しないとしたうえで、休日労働に対する割増賃金及び付加金請求のみ認容されている)、〔2〕についても、請求が一部認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法41条1項2号 労働基準法114条 労働基準法89条1項3号 民法1条3項 労働基準法24条1項 |
体系項目 | : | 雑則(民事) / 附加金 解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為 解雇(民事) / 解雇権の濫用 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務 |
裁判年月日 | : | 2001年7月19日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ワ) 10540 平成12年 (ワ) 12188 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例812号13頁/労経速報1785号40頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇事由-不正行為〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 使用者は、常に労働者を解雇しうるものではなく、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときは、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効となる。また、即時解雇は、当該労働者が予告期間を置かずに即時に解雇されてもやむを得ないと認められるほどに重大な服務規律違反または背任行為がある場合に認められている。 そこで本件を見るに、上記認定事実によれば、被告は原告の私用電話の相手であるIが被告を訪れ、Iから迷惑な電話がある旨を聞き、Iの話を一方的に聞いたのみで、事実について原告に全く確認せず、あるいは事実の調査を行うことなく、突然原告に本件解雇を通告したものであって、原告に重大な規律違反があったとの事情はなく、本件解雇は社会通念上相当なものと是認することはできない。 この点について、被告は、原告のIに対する電話の内容はセクハラである、被告の原告に対する信頼がなくなったと主張し、(証拠略)にはこれに沿う記載がある。 しかし、被告代表者尋問の結果によれば、被告代表者は電話の内容については聞いていないことが認められ、また、Iと原告の電話の内容を明(ママ)かにする証拠はないが、結果として原告とIの間では示談が成立し、両者の間の誤解は解決したのであり、このことからすると、両者間の電話の内容は、誰がIに電話をかけたのかが明らかになって誤解が解ければ解決出来る程度のものであったことが推認できる。さらに、前記Iへの電話の件以前に原告に解雇を相当とすべき事情があったあるいはこれまで原告が被告から処分あるいは注意を受けていた等の事情は認められず、私用電話の是非はともかく、原告による私用電話が発覚したのは今回が初めてであるし、被告には本件解雇当時就業規則はなく、従業員の処分の基準となるべきものは存在していなかった。 したがって、これらの事情を総合すれば、原告に従業員としての適格性が欠如したとはいえず、むしろ、本件解雇は、もっぱら被告代表者及び取締役が原告に対して事実確認もせず、Iの話を一方的に信頼した結果、原告を嫌悪しておこなったものと言わざるを得ない(ママ) よって、本件解雇は解雇権の濫用であり、無効である。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-不正行為〕 客観的に合理的理由のない解雇をした使用者には、解雇による労働者の就労不能につき原則として「責ニ帰スベキ事由」があるので、労働者は解雇期間中の賃金請求権を失わない(民法536条2項)から、現実に原告が被告において就労していなくとも、被告は原告に対する賃金支払義務を免れるものではない。〔中略〕 〔労働時間-労働時間・休憩・休日の適用除外-管理監督者〕 労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を越(ママ)えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められ、現実の勤務形態もこの規制になじまないような地位にある者を指すから、その判断にあたっては、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的立場にあり、出社退社などについて厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有する者と解するべきであり、単にその職名によるのではなく、その者の労働実態に即して判断すべきものである。また、賃金においても、労基法の規制を越(ママ)えて活動をするに見合った役職手当等その地位にふさわしい待遇がされているか、賞与等において一般従業員に比較して優遇措置が取られてるかもいわゆる管理監督者にあたるか否かの判断の一要素となる。〔中略〕 原告に勤務時間について自由裁量が認められていたと認めるに足りる証拠はなく(被告は原告の勤務時間については原告に裁量がある旨を主張し、被告代表者もこれに沿う供述をしているが、他にこれを認めるに足りる証拠はない)、原告が、単に工事現場における従業員の配置を決めるだけではなく、これを越(ママ)えて被告の従業員の採用及び従業員の考課、被告の労務管理方針の決定に参画し、または労務管理上の指揮権限を有し経営者と一体的な立場にあった、あるいは、被告の経営を左右するような立場にあったと認めるに足りる証拠もない。 したがって、労働時間が定められ、賃金の面で特に管理職に見合う手当などが支給されていないこと等の原告の労働実態に、被告が実質的に被告代表者の家族で運営されていること考慮すれば、原告は被告の経営者である代表者と一体的な立場にあるとはいえず、いまだ労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するとまではいえない。〔中略〕 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕 休日労働に対する割増賃金については、原告本人尋問の結果及び被告代表者尋問の結果によれば、毎週日曜日が休日であること、(証拠略)によれば、平成11年3月21日及び同月28日いずれも日曜日であるが原告は出勤して就労しており、また両日ともその代替の休日を与えられていないことが認められるから、上記両日については、1日8時間の限度で(両日とも原告の実際の労働時間についてはこれを認めるに足りる証拠はない。)休日労働割増賃金を認めるのが相当である。 そうすると、前記のとおり、原告の賃金(基本給。手当の支給はない。)は1か月50万円であるから、これをもとに原告の時間当たりの賃金を計算すると、別紙1記載のとおり2873円となるから、1時間当たりの休日労働割増賃金は、2873円×1.35=3878円となり、前記両日分の休日労働割増賃金は、6万2048円となる。〔中略〕 〔雑則-附加金〕 付加金の請求については、被告は、原告に対し、休日労働割増賃金と同額の付加金を支払うのが相当である。〔中略〕 〔賃金-賃金の支払い原則-全額払・相殺〕 原告は、原告が主張する時間外労働割増賃金等と私用電話による損害賠償金とを相殺するとの意思表示をしているが、受働債権となる被告の原告に対する電話料金相当額の損害賠償債権は不法行為を理由とする損害賠償請求権であって、受働債権の性質からそもそも相殺が禁止されているから、相殺することはできない。 |