ID番号 | : | 07788 |
事件名 | : | 退職金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 黒川建設事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | Sグループ内の旧Y1建設に就職し、同社の取締役就任を経て、旧Y1建設の各部門を分社・独立して設立された株式会社Y1及びS事務所の取締役に就任、その後S事務所の代表取締役(Y1の取締役は退任)を務めていたX1が、S事務所を退職した際従業員としての退職金が支払われなかったため、S事務所の法人格は全くの形骸にすぎないとしてSグループの社主Y2とS事務所の親会社であるY1に対し、退職金及び未払賃金の支払を請求し、また同じくS事務所の取締役を努めていたX2も退職にあたり退職が支払われなかったために、同様の訴えを請求したケースで、Sグループにおいては、退職金の算定に関し、取締役の地位は管理職の一つと捉えられ、従業員は役員就任後も退職金規定にいう従業員たる身分を失わず、役員就任の期間も通算して退職金の額を算出することを当然の前提としていたとして、Xらは取締役就任後も就業規則により退職金を受ける従業員であると判断し、またS事務所の実態は分社・独立前と同様、グループの中核企業であるY1の一部門と何ら変わるところなく、Y2もS事務所を直接自己の意のまま自由に支配・操作していたことなどから、S事務所の株式会社としての実体は形骸化し、法人格否認の法理が適用される結果、YらはいずれもS事務所を実質的に支配する者として、S事務所がXらに対して負う退職金債務等について責任を免れることはできないとして、XらのYらに対する未払賃金及び退職金の支払請求が一部認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法11条 労働基準法89条1項3号の2 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社 賃金(民事) / 退職金 / 退職金の支給時期 |
裁判年月日 | : | 2001年7月25日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 13308 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例813号15頁/労経速報1794号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小畑史子・労働基準54巻2号26~30頁2002年2月 |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 Sグループにおいては、少なくとも退職金の算定に関しては、取締役という地位は、係長、課長、部長と同様、部長の上位に位置する管理職の一つと捉えられ、Sグループの従業員は役員に就任した後も退職金規定にいう「従業員」たる身分を失わず、役員就任の期間も通算して退職金の額を算出することを当然の前提としていたということができる。 上記事実によれば、原告らは、S企画設計事務所の代表取締役又は取締役に就任した後も、本件就業規則60条(又はSグループ就業規則59条)により退職金支給を受ける「従業員」であるというべきであり、これに反する被告らの主張は採用できない。〔中略〕 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕 およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであって、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに法的技術に基づいて行われるものである。従って、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生ずる(最高裁昭和44年2月27日第1小法廷判決民集23巻2号511ページ参照)。 そして、株式会社において、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該会社の業務に対し他の会社または株主らが、株主たる権利を行使し、利用することにより、当該株式会社に対し支配を及ぼしているというのみでは足りず(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律9条は他社の事業活動を支配することを主たる事業とする持株会社を原則として適法とすることが参照されるべきである。)、当該会社の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して、法人としての実体が形骸にすぎないかどうかを判断するべきである。〔中略〕 S企画設計事務所は、外形的には独立の法主体であるとはいうものの、実質的には、設立の当初から、事業の執行及び財産管理、人事その他内部的及び外部的な業務執行の主要なものについて、極めて制限された範囲内でしか独自の決定権限を与えられていない会社であり、その実態は、分社・独立前、Aの建設本部に属する設計部であったときと同様、Sグループの中核企業である被告Y1建設の一事業部門と何ら変わるところはなかったというべきである。そして、被告Y2は、そのようなS企画設計事務所を、同社の代表取締役であった時期はもとより、そうでない時期においても、S企画設計事務所の代表取締役あるいは被告Y1建設の代表取締役としての立場を超え、Sグループの社主として、直接自己の意のままに自由に支配・操作して事業活動を継続していたのであるから、S企画設計事務所の株式会社としての実体は、もはや形骸化しており、これに法人格を認めることは、法人格の本来の目的に照らして許すべからざるものであって、S企画設計事務所の法人格は否認されるというべきである。 そして、本件においては、S企画設計事務所は、被告Y1建設の一営業部門として同被告に帰属しその支配下にある側面と、同時に、社主である被告Y2の直接の支配下に属する側面をも二重に併せ持っていたことからすれば、法人格否認の法理が適用される結果、被告らは、いずれもS企画設計事務所を実質的に支配するものとして、S企画設計事務所が原告らに対して負う未払賃金債務及び退職金債務について、同社とは別個の法主体であることを理由に、その責任を免れることはできないというべきである。〔中略〕 〔賃金-退職金-退職金の支給時期〕 退職金の支払時期について、原告らは、本件就業規則46条が適用されると主張するもののようであるが、同条項は退職時における給与の支払時期を定めたものであるから、採用できない。そして、本件において、他に退職金の支払時期に関する主張はないから、原告らの退職金債権は、期限の定めのないものとして、被告らに対し本件訴状が送達された日(平成9年7月15日)に支払時期が到来したと解すべきである。〔中略〕 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕 法人格否認の法理の適用の効果として、被告らは、いずれもS企画設計事務所と同一視されるのであるから、被告らがそれぞれ原告X1、同X2に対して負う債務の関係は、連帯債務となると解するのが正当である。 |