全 情 報

ID番号 07789
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 井上金属工業事件
争点
事案概要  ボルト、ナット等の製造、販売等を目的とする株式会社Yが開設した営業所に勤務していたXら二名が、XらがYに入社する前に勤務していた元の勤務先で同じくボルトやナット等の販売を目的とするA社から、XらがA社の取引先名簿を盗取し、この名簿を元にA社の取引先に対して営業活動しているが、これは不正競争防止法に違反する行為であり法的措置をとる旨の内容証明郵便が送付されてきたことから、Yの専務取締役Bに連絡したが、事実無根であるなら無視して営業活動するよう命じられたのに対し、XらはYとして対応するよう求めたがこれを拒否され、その後も長時間の話し合いがもたれたが、Xらが右内容証明郵便を無視して営業活動に専念する旨の説得に応じなかったことから、解雇されたため、右解雇の無効を主張して、雇用契約上の地位確認及び賃金支払等の支払を請求したケースで、Xらは本件解雇はやや性急な面がないともいえないが、Xらの強固な対応からすると、これを解雇権濫用とまではいうことができないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 2001年7月27日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 11028 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1790号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 Y1が本件解雇を告げたのは、長時間の話合いの末であったことが認められるが、その話合いにおいては、A社からの内容証明郵便に対して、原告らが対抗措置を求め、それがないと営業活動ができないと主張したのに対して、Y1は、内容証明郵便を無視して営業活動に専念するように言い、平行線で推移したのであるが、これによれば、解雇の理由は、原告らがY1の内容証明郵便を無視して営業活動に専念するようにとの指示に従わなかったことにあるということができる。原告らは、営業活動をしないと言ったわけではなく、被告においてA社に対する対抗措置をとらないと営業活動ができないと言っていたのであるが、他方、Y1の内容証明郵便を無視して営業活動に専念するようにとの指示に従わなかったのであるから、営業活動を拒否したに等しいということができる。
 原告Xは、Y1から、被告として何の対抗措置もとらない旨告げられたので、月曜日からは、従前どおり、営業活動をするつもりであったと述べるが、そうであれば、同月八日の話合いが、長時間に及び、また、解雇の意思表示に及ぶことはないのであって、当日の推移からすると、原告らは、月曜日からの営業活動ができないことを強く主張したと認めるのが、合理的であり、上記原告Xの供述は採用できない。
 原告らは、本件解雇は、原告らを雇用したことによるA社による被告への攻勢を恐れたためであると主張し、A社が被告の取引先であるC社に原価を割った価格による売り込みをしたとか、D社に圧力をかけて被告からの購入を止めさせたと述べるが、これらを裏付けるものはなく、被告による解雇までの話合いの対象が被告が対抗措置をとるか否かということであったことからすると、解雇の理由は、原告らが、A社に対する対抗措置がなければ営業活動ができないと主張したことにあるというべきである。
 原告らが、A社から送付された内容証明郵便について、被告に対抗措置を求めた心情は理解できるが、その宛名は被告ではないし、その内容は警告の段階にとどまるものであり、また、被告として対抗措置をとるかどうかは、その経営に対する影響をも考慮してなされるべき経営判断の領域に入るもので、労働者としては、その判断に従うべきものである。
 以上によれば、本件解雇は、やや性急な面がないともいえないが、原告らの強固な対応からすると、なお合理性がないとはいえず、これを解雇権の濫用とまでいうことはできない。