全 情 報

ID番号 07793
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 九州自動車学校事件
争点
事案概要  自動車教習所を経営する営利社団法人Yは、完全週四〇時間制に移行することに伴い、教習時間維持のために年間変形労働時間制を維持し、かつ日曜教習を取り入れ所定休日を月曜とすることを労働組合X1に提案したが、結局合意に至らなかったことから、就業規則で定めることができる一ヶ月単位の変形労働時間制を採用するとともに就業規則改訂により所定休日を月曜へと変更、さらに女性事務員の火曜から金曜の就業時刻を四〇分延長したところ、本件就業規則の変更に反対であったX1の組合員であるX2らが日曜日の勤務につき求めてきた休日手当の支払いについてはこれを拒否して、日曜日の出勤を休日出勤扱いにしないことを前提に算定した賃金額しか支払わず、また女性従業員が火曜から金曜にかけて早退したことに対しては、賃金カットや懲戒処分の対象となる通知をするなどしたことから、〔1〕X1がYに対し、右就業規則変更及びその後の組合員に対する働きかけが不当労働行為にあたるとして不法行為に基づく損害賠償請求を、〔2〕X2らがYに対し、就業規則の変更は労働協約違反等により無効であると主張して、労働協約等の労働条件に基づき算定された賃金と支給賃金との差額の支払を請求したケースで、所定休日を日曜日から月曜日に改訂及び終業時刻を延長する就業規則の変更は、合理性を有し有効であるとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項1号
労働基準法93条
労働基準法35条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 労働時間・休日
裁判年月日 2001年8月9日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 872 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1759号141頁/労働判例822号79頁/労経速報1790号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-労働時間・休日〕
 本件就業規則は、所定休日を日曜日から月曜日に変更し、女子事務員の月曜日から金曜日までの終業時刻を午後六時とするものであるから、本件就業規則制定前の労働条件と抵触することは明白であり、これらの労働条件を本件就業規則により変更することが合理性を有する場合に限り、本件就業規則は効力を有する。〔中略〕
 一般的には日曜日を休日とする職種が多く、公立学校の休日も日曜日及び土曜日であるから、休日が月曜日に変更されたことにより、原告組合員らの一週間の生活サイクルに一時的な変動をきたし、日曜日が休日である他の就労家族や学齢にある子供との交流に一定の支障が生じることは容易に推認し得るところである。しかし、日曜日が休日ではない職種や休日が不定期の職種に従事する者も少なからず存在し、これらの人々の社会生活や家族生活に何らかの深刻な悪影響が現に生じていることを認めるに足りる証拠はなく、また、第三次産業の比率が増大し、これに従事する者が多数となっていく傾向のもとでは、休日の多様性はますます拡大していくものと考えられ、したがって、日曜日が休日でなくなることによる労働者の不利益は、ないとはいえないものの、重大なものとはいえないというべきである。〔中略〕
 北九州市内の他の自動車教習所で日曜教習を行うものが増加しつつあり、また、被告の普通車課程入校生は平成元年以降おおむね漸減傾向にあることが認められ、少子化傾向のもとで今後受講生の争奪競争が激化すると考えられることにも照らし、休日教習の実施は被告の経営にとって十分必要性があったものと認められる。
 また、日曜日を休日とする職種が多いということは、日曜日に教習が行われることによって便宜を受ける受講者も多いということであり、現時、市役所の公証事務等の住民向け公的サービスを日曜日にも行うことのニーズが高まり、これに対応することが社会的な要請となりつつあることは周知のとおりであり、自動車運転免許の取得が一般化し、これに向けての民間教習所における教習が重要不可欠な社会教育の一環として定着している現状に鑑みると、受講希望者の便宜を図り、教習を受けやすい態勢を整えることの社会的意義は大きいということができる。〔中略〕
 してみれば、被告において、本件就業規則により、所定休日を日曜日から月曜日に変更したことには合理性があると認められる。〔中略〕
 平日出勤日の終業時刻の変更を局部的であるにせよ不利益な変更と見得るとしても、従来、女子事務員が平日午後五時三〇分以前に退社した後は、指導員や管理職職員らが、本来事務員の業務である受付業務等を肩代わりしており、この時間帯は、午後五時五〇分の教習を受ける会社、学校帰りの受講生が多数来校する繁忙な時間帯であること(人証略)、上記のとおり、本件就業規則により労働時間は総体として短縮される一方で賃金は減額されておらず、この点は実質的な賃上げともいえることに加え、上記の取扱いは、週四〇時間制と変形労働時間制を柱とする労働時間短縮という社会政策のもとにおいて、運転技能と交通法規の習熟のために増加する傾向にある教習時間を確保しつつ、短期間で集中的に教習を受ける受講生の便宜を図るという社会的要請に対応した結果と見ることができるから、本件就業規則の変更は、合理性のある変更と認められる。