全 情 報

ID番号 07798
事件名 破産債権確定請求事件
いわゆる事件名 矢田産業破産管財人事件
争点
事案概要  破産会社Y社の取締役Aが死亡したことによりその権利義務を相続したXが、破産会社の破産管財人であるYに対し、AはY社の従業員兼務取締役であったと主張して、Y社に対する退職金債権及び死亡弔慰金債権がいずれも存在することの確定を請求した(X自身がA死亡後にY社の財産を保全するために支出したと主張する一二〇万円について共益費用償還請求権の存在確定も請求している)ケースで、Y社とAとの間で死亡弔慰金を支払う旨の合意がされていたとしても、これに関する額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなければ、Aには死亡弔慰金債権は発生しないところ、Y社の定款には「取締役及び監査役の報酬及び慰労金は株主総会の決議をもって定める」旨の規定がおかれているものの、死亡弔慰金等の額を定める具体的な定めはないうえ、これらの額を定めた株主総会決議がされたことも認められないから、死亡弔慰請求権が生じたことを認めることはできず、またXがAの死亡に基づく死亡弔慰金債権を有しないものである以上は、退職金請求権も認められないとして(またAが従業員としての地位を兼有していた等の事情は認められないとして)請求が棄却された事例。
参照法条 商法269条
労働基準法11条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事) / 退職金 / 死亡退職金
裁判年月日 2001年8月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 6153 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1790号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-死亡退職金〕
 商法二六九条は、取締役が受け取る「報酬」は定款でその額を定めている場合のほかは、株主総会の決議でこれを定めることが必要である旨を規定しており、それが在職中の職務執行の対価と認められる以上は取締役が死亡した場合の死亡弔慰金も同条の「報酬」に含まれるものと解される。
 そうすると、破産会社と訴外Aとの間で死亡弔慰金を支払う旨の合意がされていたとしても、これに関する額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなければ、訴外A(その相続人である原告)には死亡弔慰金債権は発生しないことになる。
 そこで、この点に関して検討するに、破産会社の定款(書証略)には、その第二五条において「取締役及び監査役の報酬及び慰労金は株主総会の決議をもって定める」旨の規定が置かれているものの、死亡弔慰金等の額を定める具体的な定めはない上、これらの額を定めた株主総会決議がされたことも認められないから、結局、原告の主張にかかる破産会社に対する死亡弔慰金請求権が生じたことを認めることはできないというべきである。〔中略〕
〔賃金-退職金-死亡退職金〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 訴外Aの破産会社における職務や地位に関して原告は、破産会社の実態がBによるワンマン経営であり、同人がその決定権をすべて握っていたものであって、訴外Aは、Bの指示に従って破産会社の経営に関与してきたに過ぎないものであるから、その使用人である旨を主張するが、(書証略)(Cの陳述書)によってもこうした事実を認めることは困難で、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記認定の事実関係に照らせば、訴外AがBと共同して破産会社の経営にあたってきたものであることが推認されるところである。
 (3) そうすると、結局、訴外Aが従業員としての地位を兼有し、あるいは取締役としての地位が形式的ないし名目的なものに過ぎないもので、破産会社との間の雇用契約に基づき、同社の代表取締役であるBの指揮命令の下に労務を提供していたものであるとは認められないから、この点に関する原告の主張は理由がない。