ID番号 | : | 07807 |
事件名 | : | 労働契約関係存在確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 富士見交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー会社Yの平塚営業所に勤務し、全国自動車交通労働組合総連合会神奈川地方自動車交通労働組合(組合本部)のY平塚支部副支部長であったタクシー運転手Xが、支部長Aとともに、Yには労基法違反の長時間労働等違法な運行管理体制があるとして、労基署及び関東陸運局神奈川支部に告発を行ったことがあったが、その約三ヶ月後、前日に所定の非就労届を届け出てY茅ヶ崎支部役員と合同の執行委員会に出席し、右委員会終了後、非就労届を提出したものの右委員会を無断欠席したAに遭遇し、右委員会の報告をするために翌日の午前二時の終業時まで正常勤務に就くことなくAとスナックで過ごしたことから、Aとともに正常勤務を怠ったことが職場放棄に該当するとして懲戒解雇通知書が交付されたところ、組合本部とYとの間で交渉が数回もたれ、Yから退職届と執行委員を辞任する誓約書の提出を申入れられたが、Xがこれを拒否したため(Aは提出し、任意退職に変更され、再雇用された)、それ以降、交渉が打ち切られたことから、右懲戒解雇は解雇権の濫用、不当労働行為として無効である等として、雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースの控訴審(控訴審ではXの数回の職場離脱、メーターの不正操作等が認定されている)で、原審はXの請求を認容していたが、Xの職場離脱及び飲酒の上での営業車両の運転行為は、その他の非違行為ともども、一体として密接な関連を有し、通告書に記載された職場離脱のみならず、それ以外のXの非違行為もまた、本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることができ、これらは懲戒解雇事由に該当し、本件懲戒解雇に先立ちYのとった措置やXの非違行為の内容、態様等からすれば、本件解雇は解雇権の濫用には当たらず、また不当労働行為にも該当しないとして、Yの控訴が認容されて、原審が取消された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 裁判における懲戒事由の追加・告知された懲戒事由の実質的同一性 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 2001年9月12日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ネ) 3247 |
裁判結果 | : | 認容(原判決取消)(上告) |
出典 | : | 労働判例816号11頁/労経速報1785号7頁 |
審級関係 | : | 一審/07566/横浜地小田原支/平12. 6. 6/平成8年(ワ)550号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-裁判における懲戒事由の追加・告知された懲戒事由の実質的同一性〕 使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないが、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際に告知されなかったとしても、告知された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である。 これを本件についてみるに、前記認定の事実関係によれば、控訴人は、本件懲戒解雇の際、控訴人主張に係る被控訴人の非違行為のうち本件懲戒解雇前に行われたものすべてについて認識し、かつ、これを懲戒解雇事由とする意思であったが、これが多岐にわたるため、本件懲戒解雇を最終的に決定する契機となった事由、すなわち平成8年2月27日の職場離脱のみを本件通告書に記載したにすぎず、懲戒解雇事由をこれに限定する趣旨ではなかったものと認めることができる。〔中略〕 被控訴人の平成8年2月27日の職場離脱及び飲酒の上での営業車両の運転行為は、前記認定に係る他の非違行為ともども、被控訴人の勤務態度の劣悪さを示すものであるとともに、被控訴人がB副委員長からこれを改めるよう忠告を受けていたものであって、一体として密接な関連性を有するものとみることができる。 したがって、本件通告書に記載された平成8年2月27日の職場離脱のみならず、それ以外の前記認定に係る被控訴人の非違行為もまた、本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることができるものというべきである。 被控訴人は、控訴人が本件懲戒解雇時においてその主張に係る解雇事由について認識していたとしても、本件通告書に記載された職場離脱以外の事由はすべて処分の対象としないという認識であったとみるべきであり、平成8年2月29日の事情聴取の際にも、また、本件懲戒解雇通告の当日も、本件通告書に記載された職場離脱行為以外の非違行為について何らの言及もされなかったことはこのことを示すものであると主張するが、上記認定説示したところに照らし、採用することができない。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕 本件懲戒解雇については、上記1ないし5で認定したとおりの事由が存在し、これらは、控訴人の就業規則第42条第2号(他人に対し暴行、脅迫を加え又は教唆煽動し業務を阻害したとき)、第3号(職務上の指示命令に従わず粗暴な言動をし職場の秩序を乱したとき)、第5号(会社の名誉、信用を傷つけたとき)、第11号(料金メーターの不正行為が重なり悔俊の見込みがないとき)及び第12号(その他前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき)に該当するものということができる。〔中略〕 本件懲戒解雇に先立ち控訴人のとった前記認定のような措置等に照らすと、控訴人は、被控訴人の度重なる非違行為にもかかわらず、被控訴人の更生を期待し、組合本部とも連絡をとりながら、懲戒解雇権の発動を見送ってきたのであり、本件懲戒解雇に至るまでに被控訴人に更生、弁明の機会を十分与えたものということができ、前記認定に係る被控訴人の非違行為の内容、態様、程度等を併せ考えると、本件懲戒解雇は正当であり、解雇権の濫用には当たらないというほかはない。 |