ID番号 | : | 07808 |
事件名 | : | 労働契約上の地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | ネスレジャパンホールディング事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 外資系の大手食品メーカーYの工場に勤務していた従業員Xが、本社では平成五年に工場内で起きた暴力事件に関与していたXの処分を検討中であったところ、平成一二年五月一七日、本社からその旨の連絡を受けた工場長がXを会議室に呼び出し、人事総務課長ら同席のもとで、その暴力事件が六ヶ月前に不起訴となったとはいえ処分が近々決定されること、またXは別の事件(昭和六〇年に事務室が損壊)にも関与していたことから処分は不可避かもしれず、Xに自発的に行動してほしい旨伝えたところ、Xはこれに反論していたが、工場長からXの退職時の要望は確実に叶えられるとの見通しが述べられたため、工場長宛に一身上の都合で同日付けで退職する旨を記載した退職願を提出し、工場長は同日、本件退職願を受理・承諾して、Xが同日付で退職する旨を記載した通知書を交付したところ、その翌日、Xは退職願を撤回する旨の書面をYに提出したが、Yはこれを拒否したため、Yに対し、〔1〕本件退職届はYによる要望事項の実現という停止条件付合意解約の申込みであり、また工場長は合意解約の申込みを承諾する権限はないから、Xは、Yが停止条件を成就させ、かつ合意解約の申込みに対する承諾の意思表示をする前に右合意解約申し込みの撤回の意思表示をしていることになるとして、合意解約は不成立、〔2〕強迫を原因とする取消し、〔3〕予備的に合意解約の申し込みの意思表示は、錯誤により無効であると主張して、雇用契約上の地位の確認及び賃金の支払を請求するとともに、強迫による慰謝料の支払を請求したケースの控訴審で、原審と同様、Xの主張はいずれも認められず、労働契約は、特段の事情のない限り工場長がXに対し本件通知書を交付した時点で合意解約により終了したことになるとして、Xの控訴が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法96条1項 |
体系項目 | : | 退職 / 合意解約 退職 / 退職願 / 退職願と強迫 |
裁判年月日 | : | 2001年9月12日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成13年 (ネ) 2115 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例817号46頁/労経速報1781号16頁 |
審級関係 | : | 一審/07738/水戸地龍ケ崎支/平13. 3.16/平成12年(ワ)126号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-合意解約〕 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないので、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」第3に説示のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕 〔退職-退職願-退職願と強迫〕 控訴人は、終始冷静に判断して行動しており、自宅において一晩を過ごした後にも、なお自己都合による退職をする意思に何ら変わりがなかったものと推認されるのであって、控訴人が、A工場長らの発言により、畏怖し、絶望的な心理的状態に陥って正常な判断能力を失い、本件退職願を提出するに至ったものとは、到底認められない。〔中略〕 引用した原判決が説示するとおり、〔1〕 被控訴人は、B暴力事件に関し、控訴人の処分をいたずらに長期間放置していたとはいえないこと、〔2〕 控訴人がB製造課長代理に対して行った暴行の態様は、必ずしも具体的には明らかではないものの、控訴人自身、B製造課長代理のベルトや襟首を20ないし30秒間つかんだ事実は認めており、B製造課長代理が負傷した事実を併せ考慮すると、控訴人がB製造課長代理に対して暴行を加えた疑いは否定できないこと、〔3〕 控訴人自身が認めている行為自体、就業時間中に自己の所属部署を離れ、管理職に対して有形力を行使するというものであり、企業内秩序を乱す行為として懲戒処分の対象になりうる行為であると解されることを考慮すると、被控訴人が平成12年5月の時点で控訴人に対する懲戒処分を検討したことが不当であるとは言えない。 したがって、A工場長らが、控訴人に対し、被控訴人において控訴人の懲戒処分が検討されている旨の発言をしたことが労働契約上の信義則違反・権利濫用に当たるとは認められない。 |