全 情 報

ID番号 07823
事件名 早期退職奨励金請求事件
いわゆる事件名 アラビア石油事件
争点
事案概要  石油開発等を目的とする株式会社Yの従業員Xが、三ヶ月前までの申請を条件として満五〇歳の誕生日から満六〇歳の誕生日の前日までに本人みずから退職し、かつ勤続満一〇年以上という要件を満たした者を対象とした早期退職奨励制度に基づき、退職時の年齢がちょうど五〇歳三ヶ月にあたる六ヶ月後を退職予定日として右制度の申請書を提出したが、同日サウジアラビアとYとの間の石油利権協定が失効し経営困難が見込まれたため、翌日付けで右制度が凍結・一週間後の廃止が決定されるとともに希望退職制度が新たに導入されたため、右新制度に応募して合意退職したが、早期退職奨励制度に基づく早期退職奨励金請求権はすでに申請により発生していたとして、その支払を請求したケースで、早期退職奨励制度は従業員の申請のみで発生する制度ではなく、「満五〇歳の誕生日から満六〇歳の誕生日の前日に退職すること」が必要であるが、Xは希望退職に応募して五〇歳誕生日前に退職したのであるから要件を充足しないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
労働基準法11条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 早期退職優遇制度
裁判年月日 2001年11月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 15744 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例819号39頁/労経速報1787号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-早期退職優遇制度〕
 本件制度に基づく退職奨励金請求権が従業員の権利か、権利としていかなる場合に発生するかは、労働契約の内容についての労使の合理的意思解釈の問題である。そして、早期退職にともなう退職奨励金について、統一的・画一的に労働者に対し適用される規定が存在する場合には、多数の労働者の協働を図る事業体における労働条件の統一的画一的決定の要請により就業規則の定めを求める労働基準法89条の趣旨(労働基準法89条3の2参照)を尊重して、当該規定の文言を基礎として当事者の意思を合理的に解釈すべきであり、本件制度に基づく退職奨励金請求権の発生要件についても、本件制度を定めた内規の文言を基礎として、内規の文言と一体となったと認められる労使の解釈慣行を検討することにより、これを決すべきである。
 そこで、前記第2の1(2)の本件制度の内規の文言を検討するに、「就業規則28条1項5号により退職する者」には、同条3項の定めから合意解約により退職する者のみならず解約告知による(ママ)退職する者も含まれると理解できること、退職予定日の3か月前に申請を要求しているのは、本件制度により退職する場合には労働者からの解約告知について予告期間を14日で足りるとする就業規則28条3項の規定及び民法627条1項等の規定に拘わらず3か月とする旨定めたものと理解することが可能であるから、これらの文言をもって直ちに被告人事部長の承諾が権利の発生に必要な制度と理解することはできない。〔中略〕
 しかしながら、前記第2の1(2)の本件制度の内規には「勤続満10年以上の者で満50歳の誕生日から満60歳の誕生日の前日までに就業規則28条1項5号により退職する者に対し、早期退職奨励金を支給する。」とあることから、退職奨励金請求権が発生するには「満50歳の誕生日から満60歳の誕生日の前日に退職する」こと、すなわち退職の合意ないし解約告知の効果が発生する申請書に記載された退職予定日の経過によって退職すること及びその退職日に労働者が満50歳以上60歳未満であることが必要と考えられる。したがって、本件制度は、原告主張のように申請のみで権利(退職奨励金請求権)が発生する制度とは認められない。
 そして、原告は、申請書の退職予定日である平成12年7月31日以前に希望退職制度に応募して、50歳の誕生日の前である同年3月31日に被告を退職したのであるから「満50歳の誕生日から満60歳の誕生日の前日に退職する」ことの要件は満たしていない。したがって、原告の希望退職制度による退職合意(希望退職制度への応募による退職申込み)が有効であることを前提とする限り、原告には退職奨励金請求権は発生しない。