ID番号 | : | 07826 |
事件名 | : | 譴責処分無効確認等請求、同附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | NTT(年休・差戻審)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | NTTの職員で通信労組組合員でもあるXが、交換課課長の命令により職場の代表者として約一ヶ月にわたるデジタル交換機に関する技能者養成、訓練のための研修に参加中、全労連の結成大会に出席するために、三日前に一日分の組合休暇の取得申請をしたところ、上司は技能訓練中であることを理由として組合休暇を認めなかったため、Xは再度、前日に年休取得の申請をしたが時季変更権を行使されたところ、大会当日、訓練に参加しないで講義を受講せず、翌日には講義を受講したが、その翌月には右訓練の欠席は無断欠席であり就業規則の懲戒事由(上長の命令に服さない、職場規律に違反する行為のあったとき)に該当することを理由に、譴責処分がなされ、同処分がされたことを理由に就業規則に基づき職能賃金の定期昇給額の四分の二を減額されるとともに、同日分の賃金が削減されたことから、会社の時季変更権の行使は違法かつ不当労働行為であり、右譴責処分は権利の濫用により無効であるとして、処分の無効確認と減額賃金の支払を請求したケースの差戻審で、原審(差戻前一審)は時季変更権の行使を適法とし、不当労働行為該当性を否定したうえで、右譴責処分は権利濫用であるとしていたのに対し、年休取得により非代替的業務である訓練の一部を欠いたとしても、当該訓練の目的及び内容、欠席した訓練の内容とこれを補う手段の有無、当該訓練の所期の目的を達成することのできるなど特段の事情がない限り、時季変更権を行使することが許されるものと解するのが相当であるとしたうえで、YがXの年休取得が本件訓練の目的達成を困難にすると判断したことは相当であり、また手続的にも違法はなく、不当労働行為にも該当しないとし、さらに譴責処分及び賃金減額措置等についても違法はないとして、Yの控訴が認容され、原審が取り消された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法39条4項 労働基準法89条1項9号 労働基準法11条 労働基準法3章 |
体系項目 | : | 年休(民事) / 時季指定権 / 「時季」の意味 年休(民事) / 時季変更権 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 |
裁判年月日 | : | 2001年11月28日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ネ) 1894 |
裁判結果 | : | 被控訴人の請求棄却(原判決取消し)、附帯控訴棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例819号18頁 |
審級関係 | : | 上告審/07535/最高二小/平12. 3.31/平成8年(オ)1026号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔年休-時季指定権-「時季」の意味〕 控訴人においても、訓練中の年休取得は、控訴人主張の人道上の理由に限られ、それ以外の理由ではおよそ認めないというものではなく、訓練の期間にもよるが、おおむね1日間程度の年休の請求であれば、年休取得により訓練の目的が達成されなくなるとは判断されず、時季変更権が行使されることなく、請求どおり年休が付与されていたことが認められる。〔中略〕 〔年休-時季変更権〕 急速な技術革新を遂げつつある電気通信の分野の事業を営む控訴人にとって、その職員に対し、普段から技術革新に即応した高度の知識を習得させ、その技能の向上を図ることは、控訴人の事業の遂行上不可欠であるから、そのための具体的な方法として、当該職員の勤務する職場内において、又はA学園のような研修専門機関において実施する研修・訓練等(以下、これらを総称して「訓練」という。)は、控訴人の事業の遂行上必要な業務であるということができる。したがって、控訴人の各事業場が所属職員を訓練に参加させることは、当該事業場における業務であるということができ、また、訓練への参加は、職場の代表者として取得した知識、技能を職場に持ち帰ることをも目的とするが、直接的には参加を指名された当該職員の知識及び技能の増進、向上を目的とするものであるから、当該職員が自ら訓練に参加することに意義があり、訓練への参加の一部を他の職員をもって代替することは、訓練の趣旨に反することになるので許されず、その意味において、訓練への参加は、非代替的な業務であるということができる。 したがって、年休取得により非代替的業務である訓練の一部を欠いたとしても、当該訓練の目的及び内容、欠席した訓練の内容とこれを補う手段の有無、当該職員の知識及び技能の程度等によっては、他の手段によって欠席した訓練の内容を補い、当該訓練の所期の目的を達成することのできるなど特段の事情がない限り、時季変更権を行使することが許されるものと解するのが相当である。 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件訓練は、控訴人の事業遂行に必要なディジタル交換機の保守技術者の養成と能力向上を図るため、各職場の代表を参加させて、1か月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、これを所属の職場に持ち帰らせることによって、各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として行われたものということができる。 被控訴人は、本件訓練において修得することが不可欠とされ、そのため従前の講義時間が2倍に増やされていた共通線に関する講義6時限のうち最初の4時限が行われる日について年休を請求したのであるから、当日の講義を欠席することは、本件訓練において予定された知識、技能の修得に不足を生じさせるおそれが高いものといわなければならない。しかも、被控訴人は、交換課の平成元年度における唯一の代表として、保全科ディジタル交換機応用班の訓練に参加していたのであるから、被控訴人の上記修得不足は、ひいては、交換課全体の業務の改善、向上に悪影響を及ぼすことにつながるものということができる。〔中略〕 〔年休-時季変更権〕 控訴人においては、訓練中の社員に対する時季変更権を行使する主体は、原局での所属長と学園での所属長とが考えられるところ、いずれにしても使用者である控訴人の有する時季変更権を行使するものであることからすると、訓練の参加によって原局の所属長が当然に排除されるとの関係にたつものでもなく、また、学園における訓練も業務の一環であることからすると学園長もまた所属長ということができるのであって、控訴人内部においてそのいずれが行使することも可能であり、いずれが行使することが事案との関係において合理的であるかにかかるものというべきである。本件では、本件訓練が各職場の代表としてこれを職場に持ち帰らせて業務の改善、向上に資することをも目的としていること、欠席する訓練において予定された知識、技能の修得に不足を生じるか否かについての検討をするには、原局である立川ネットワークセンタにおいても判断できることからすると、立川ネットワークセンタにおいて時季変更権を行使することが合理性を欠くとはいえず、違法であるということはできない。そして、引用した原判決の認定した事実によれば、本件では、被控訴人は、平成元年11月18日午後、組合休暇の申請書を控訴人に提出したこと、これに対し、C所長は、同月20日午後3時ころ、被控訴人に対して組合休暇については許可しない旨の連絡をしたこと、その後、被控訴人からの年休の申請に対して、C所長は年休は認められないとして時季変更権を行使したことが認められ、このような経緯からすれば、本来の所属長であるD課長が年休申請の場に居合わせなかったことから、しかも年休取得が翌日に差し迫っているのに、申請されたのが午後3時ころであったことからすると、その上長であるC所長が時季変更権を行使したものと評価できるのであって、これをもって違法であるということはできない。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕 懲戒事由については、C所長が中心となって事実調査を行い、その結果を基礎に本件譴責処分が決定されたこと、その際の時季変更権行使の理由としては、「訓練の実施に支障を生じる」と記載されているのみであったことが認められる。しかし、本件訓練において、時季変更権の行使の理由としては同記載で十分であり、その結果を前提に量定をしたとしても、何ら杜撰な調査ということはできないのであって、同調査結果を基礎に本件譴責処分を行ったことが違法であるということはできない。 また、本件は訓練中の非違行為であるから、原則として学園長が事実調査を行うべきところではあるが、引用した原判決の認定した事実によれば、被控訴人は無断欠勤をする前から被控訴人の原局である立川ネットワークセンタにおいて、組合休暇の申請及び年休の請求をめぐるやりとりをしており、しかも、立川ネットワークセンタにおいて事前に無断欠勤になると警告を発していたことが認められ、これらの事情からすると、A学園よりも立川ネットワークセンタの方が被控訴人の無断欠勤に至る経緯をよりよく把握していたといえるのであるから、C所長において事実調査したとしても、そのことの故に本件譴責処分が違法であるということはできない。〔中略〕 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕 就業規則84条及び社員給与規則(〈証拠略〉)32条によれば、懲戒処分の有無にかかわりなく、無断欠勤した社員は、職能賃金の定期昇給額が減額され、その額は職能賃金の定期昇給の4分の2にすることができるのであるから、控訴人の定期昇給減額の措置は正当である。また、本件時季変更権の行使は適法であるから、被控訴人の年休取得は認められず、被控訴人が欠勤した日は不就労といわざるを得ない。したがって、同社員給与規則13条により1日分の賃金を削減したことは正当である。 |