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ID番号 07843
事件名 損害賠償請求事件、民事訴訟法260条2項による仮執行の原状回復及び損害賠償請求事件
いわゆる事件名 長崎日鉄鉱業じん肺事件
争点
事案概要  Y(一審被告)が経営する伊王島、嘉穂、北松の各炭鉱の従業員として炭鉱労働に従事し、じん肺に罹患した者又はその相続人であるXら(一審原告)が、Yに対して雇用契約上の安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償を請求し、原審が一部を認容し、その余を棄却したことに対して、Xら及びYの双方が控訴していたケースで、Xらの控訴を認めその請求が一部認容された事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2000年7月28日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 73 
平成11年 (ネ) 546 
裁判結果 原判決変更(上告受理申立)
出典 タイムズ1108号215頁
審級関係 一審/07243/長崎地/平10.11.25/平成8年(ワ)605号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 一審被告とA土建との間の契約において、一審被告はA土建に対しその計画どおりの設計図書に従ってA土建が施工することを求め、工事行程や現場監督等種々の事項についてA土建に対して指示、管理することができる旨定めていることが認められる。一審被告とA土建との間の基本契約の締結の有無は不明であるが、各請負場所毎にその都度契約を締結していたものとしても、右認定の契約内容と同様のものが定められていたものと推認するのが合理的である。すなわち、採炭のための坑道作りとその維持補修、坑内全体の保安の見地からは、坑内の作業は相互に関わりがあり、その一部についてもないがしろにすることができない以上、一審被告がA土建に対し作業を依頼する部分についても採炭作業に支障をきたすことのないように工事の規格どおりに作業がなされなければならないから、A土建のする作業内容や方法、行程に関して一審被告が関心を払い、一定の技術レベルを求め、坑内全体の安全の保たれるように指示、管理し、坑内全体の統一性ある規律を求めるのは当然であり、そのために、A土建との契約において前記認定のような条項を定め、その作業に要する機材も保安規則に合致するものが使用されるべく一審被告において用意したものと解される。〔中略〕
 また、一審被告が、A土建の従業員をも含めて保安教育や検身をし、一審被告と一緒に入坑、昇坑させ、資格取得のための教育をしていたことをも考慮すれば、一審被告は、A土建に対し、工程、労働時間、安全などについて確実に把握し、指示をし、A土建はそれに従わざるをえない運命共同体的な職場状況にあったといえることや、A土建の従業員は実質的には一審被告の作業環境の中で掘進作業に従事していたものといえることからすると、一審被告とA土建の従業員は、社内の業務上の指示命令と同程度の極めて密接な指揮監督、管理支配の関係を有する状況にあり、一審被告はA土建の従業員に対し実質的に使用者に近い支配を及ぼしていたといえるし、その作業内容も一審被告の従業員とほとんど同じものであったといえるから、両者間には実質的使用従属関係があったと認められ、一審被告は、A土建の従業員に対し、信義則上、安全配慮義務を負うものといわなければならない。」