ID番号 | : | 07845 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件(2231号)、地位確認等請求事件(360号) |
いわゆる事件名 | : | 札幌西郵便局事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 札幌西郵便局内で面接を受け、非常勤職員として採用され、配属第一集配課で外務業務に従事していたXが、その約一年後に、同局第一集配課からの辞職願への署名・押印の求めを拒否したことから辞職承認処分を受けたが、その後、Xがこれに関する審査請求を行ったこともあり、当該処分は取り消されるとともに予定期間満了をもって当然退職した旨を通知されたことから(このことに関しても審査請求を行ったが却下された)、Xが国Yに対し、〔1〕主位的には、予定雇用期間が満了とされた日の翌日以降もその地位にあることの確認及び平均賃金の支払を、〔2〕予備的には、長期雇用に係る期待権を侵害されたこと及び辞職を強要されたことを理由に国家賠償を請求したケースで、Xは、人事院規則八―一四、同規則八―一二第七四条、任用規程三条等が適用される期間の定めのある非常勤職員として採用されたことであり、採用時には平成七年九月二六日から同月三〇日まで、再採用時には同年一〇月二日から平成八年三月三〇日まで、再々採用時には同年四月一日から同年九月二八日までとの予定雇用期間が認められるとしたうえで、〔1〕それ以降、Xを非常勤職員として採用することを前提とした手続がなされておらず、Xの地位が期間の定めのない者になったと認めることはできず、また期間の定めのある任用が繰り返されたからといって、任用予定期間満了後の更新拒否について解雇に関する法理が類推適用されると解する余地はないとして、Xの請求が棄却、〔2〕についても、札幌西局長がXに対して、予定雇用期間終了後も任用が継続されると期待することが無理からぬとみられる行為をしたというような特別な事情を認めることができず、また本件辞職承認処分も国Yに対して損害賠償義務を課さなければならないほどの違法性があると認めるには足りないとして、請求がすべて棄却された事例。 |
参照法条 | : | 国家賠償法1条 労働基準法14条 人事院規則8-12(職員の任免)74条2項 国家公務員法1条1項 国家公務員法2条1~3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め) 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 |
裁判年月日 | : | 2000年8月29日 |
裁判所名 | : | 札幌地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 2231 平成10年 (ワ) 360 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例833号83頁 |
審級関係 | : | 控訴審/07946/札幌高/平14. 4.11/平成12年(ネ)359号 |
評釈論文 | : | 長谷川聡・法学新報〔中央大学〕110巻5・6号293~312頁2003年10月 |
判決理由 | : | 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 郵政省設置法8条、国公法1条1項、2条1ないし3項、国営企業労働関係法2条1号イ、2号によれば、郵政職員は一般職に属する国家公務員たる身分を有するところ、国公法2条4項は、一般職に属するすべての職に同法の規定を適用するとし、他方、同法附則13条は、同法1条の趣旨に反しない限り、その職務と責任の特殊性に基づいて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則をもって、これを規定することができる旨定めている。 そして、国公法上、同法60条に定める臨時的任用以外に、期限付任用を認める明文の規定はないが、〔1〕同法上、臨時的任用以外の期限付任用を禁止する規定もないこと、〔2〕右のとおり、同法附則13条は同法の特例を設けることを許容していること、〔3〕人事院規則8-12(職員の任免)15条の2は、常勤職員についても一定の要件の下で期限付任用を許容していること、〔4〕人事院規則8-12(職員の任免)74条1項3号は、任期を定めて採用された場合において、その任期が満了した場合、その任用が更新されないときは、職員は当然退職する旨規定し、同条2項は、同条1項3号の場合において、「日日雇い入れられる職員が引き続き勤務していることを任命権者が知りながら別段の措置をしないときは、従前の任用は、同一の条件をもって更新されたものとする」と規定すること等に照らし、国公法が国家公務員の任期を定年に達するまで原則として無期限とする趣旨(職員の身分を保障し、職員をして安んじて自己の職務に専念させること)に反しない限り、期限付任用も一般的には禁止されていないと解される。〔中略〕 原告は、仮に原告の地位が期間の定めのあるものであるとしても、重大な職務不適格や非行事実等の特段の事情のない限り、任用は更新されるのが原則であると解すべきであり、そのような特段の事情が認められない以上、一方的に解雇(雇止め)することは、権利の濫用であって許されないと主張する。 しかしながら、〔3〕民間の臨時工の雇止めの効力の判断に当たって、解雇に関する法理の類推適用を認めるべきであるとした最高裁判所昭和49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁は、当該事案における当事者の合理的意思解釈によって右のような結論を導いているところ、当事者双方の合理的意思解釈によってその内容を定めることが予定されていない行政処分(公務員の任用)について、右のような考え方を直ちに当てはめることは無理因難であるし、〔1〕期間の定めのある任用と期間の定めのない任用とは別個の任用行為と考えられており(人事院規則8-12第75条3号の2)、期間の定めのない任用行為がない限り、期間の定めのない任用関係が成立するとは解されないこと、〔3〕人事院規則8-12第74条1項3号は、日々雇用職員については、任期が満了したときに当然退職すると定めていること等に照らし、期間の定めのある任用が繰り返されたからといって、これが期間の定めのない任用に転化するとか、任用予定期間満了後の任用の拒否について、解雇に関する法理が類推適用されると解する余地はないというべきである。〔中略〕 期間の定めのある任用がされた非常勤職員たる郵政職員の任用予定期間満了後の任用の拒否について、解雇に関する法理が類推適用されると解する余地がなく、(逆にいえば、任用予定期間満了後、再採用しないことにつき、必ずしも正当な理由がなければならないものではない。)、平成8年9月29日以降、原告が札幌西局外務非常勤職員たる地位を有しているとは認められないことはこれまで説示したとおりであり、原告が主張する右「本件の背景事情」の有無は、右判断を左右するものではない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 札幌西局長の原告に対する辞職承認処分は、結果的に原告の辞職の意思(ないしその撤回の有無)を十分確認しなかったと評さざるを得ない点で適切さを欠くものであったといい得るものの、処分から3か月余りでこれが取り消され、これによる直接の被害が回復されているという事情もある。そこで、こうした本件の一切の経過を総合してみると、札幌西局長ないし札幌西局職員が、原告に対して辞職願に署名押印を求めたこと、原告に対する辞職承認処分を行ったために原告が審査請求を余儀なくされたこと、その後その処分の取消しについて理由の説明や謝罪をしなかったこと等という原告主張の事実があったにせよ、それが、被告に対して損害賠償義務を課さなければならないほどの違法性があると認めるには足りないというべきである。 したがって、前記1の主張を前提とする原告の慰謝料請求もまた、その余の点を検討するまでもなく理由がない。 |