全 情 報

ID番号 07847
事件名 雇用契約存在確認等請求事件
いわゆる事件名 製薬会社(普通解雇)事件
争点
事案概要  Y製薬会社に雇用され三〇人の部下を有する管理職の地位にあったXが、〔1〕複数の部下の女性をデートに誘ったこと、〔2〕「今すぐにでも貴方を抱きたい」という電子メールを送ったこと、〔3〕身体をなぞるようなしぐさをしつつ、グラマーと言ったこと、〔4〕出張に誘い、「二人で宿をとろうよ」と言ったこと、〔5〕部下の男性に対して、「単身赴任で大変だから、夜だけ相手をしてくれる女を世話してくれれば、管理職にしてやる」という趣旨のことを言ったこと等を理由として解雇(普通解雇)され、解雇は相当性を欠き違法・無効であるとして争ったケースで、YがXの解雇を選択したことには合理性が認められ、権利濫用には当たらないとして有効とされた事例。
参照法条 男女雇用機会均等法21条
民法709条
労働基準法89条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
解雇(民事) / 解雇事由 / 従業員としての適性・適格性
裁判年月日 2000年8月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 884 
裁判結果 棄却(控訴<和解>)
出典 時報1744号137頁
審級関係
評釈論文 小畑史子・労働基準54巻4号34~38頁2002年4月
判決理由 〔解雇-解雇事由-従業員としての適性・適格性〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 前記一及び二で判示したところによれば、原告が女性社員を食事に誘ったのも、相手が異性であることを意識しての上でのものであると理解せざるを得ない。そして、原告が、平成八年四月から同年一〇月末までの間に食事に誘った具体的回数は証拠上必ずしも明確ではなく、A子に対し一回、B子、C子、D子及びE子に対し各「数回」の域(二回から、原告が本人尋問において自認する最大五回程度。ただし、お茶に誘った回数は含まれない。)を超えるものであるとは認められないが、女性社員らはいずれも対応に苦慮し、苦痛を感じていたものであり、原告もまた、B子の一回を除き女性社員らにことごとく断られているのであるから、少なくとも歓迎されていないことは認識できなければならず、現に原告自身、D子に対し、「君は嫌かもしれないけどね。」と言って、同人に嫌がられていることを感じ取っていることを示しているところである(前記一1(四)(5))。
 (二) 次に、原告の言動中、C子に対する、面接実施時の「僕は六年半越しでアプローチしているのに君は全然相手にしてくれないね。」等の発言(前記一1(三)(3))、D子に対する、仕事の進行状況を確認する様子で近づいての「ところで、お茶でも飲みに行きませんか。」との誘い(前記一1(四)(2))、同じくD子が原告に書類の決裁印を貰いに原告席に行った際の「ごくろうさま。食事に行く約束待っててね。二人でデートしようね。」との発言(前記一1(四)(5))、E子に対する、「自分と一緒に出張するように。」「二人で宿をとろうよ。」との発言(前記一1(五)(3))、F及びG社員に対する「単身赴任で大変だから、夜だけ相手をしてくれる女を紹介してくれたら、管理職にしてやる。」等の発言(前記一1(七))は、いずれも上司として部下に接する機会に、あるいは上司としての地位を利用して行ったと評価できるものである。部下らが結果的に原告のこれらの誘い等に応ぜずにすんでいることからすると、原告が上司としての地位を前面に出し、誘い等に応じない場合の不利益を示唆してこれに応ずることを強要したということまではできないものの、相手が上司であることを認識せざるを得ない状況下での原告の各発言は、冗談と見られるものも含まれているとはいえ、部下を困惑させ、その就業環境を著しく害するものであったといわざるを得ない。
 (三) そして、被告が、本件解雇以前から、セクハラを含む嫌がらせのない職場の提供、従業員が意欲をもって業務に取り組める職場環境の維持改善に努めようとし、部下を預かる管理職者を実践の第一義的責任者と位置付けていたこと、原告自身、セクハラ行為の問題性を十分認識し、セクハラ行為のあった部下に対し退職勧奨を行っていたことは前記一3のとおりであり、このような状況下にあって、三〇名の部下を有する地位にある原告が性的言動を繰り返し、部下の就業環境を著しく害したことを被告が重大視して、原告が管理職としてのみならず、従業員としても必要な適格性を欠くと判断したことには相当の理由があるというべきである。〔中略〕
 原告の従業員としての能力を被告が相当に評価していたこと、原告に懲戒処分歴がないことについては被告も争っておらず、原告を三〇人の部下を有する管理職者の地位に就けたことからも、原告の能力に対する被告の高い評価を看取することができる。これらの事実からすると、より軽微な処分を経ることなく解雇することは、いささか酷であるとの感を持たないではない。
 しかし、被害を受けた者の多さ、原告の地位、セクハラに対する被告の従前からの取組みと、その中で原告が置かれていた立場、原告自身セクハラ行為をした部下に対する退職勧奨を行った経験を有し、自己の言動の問題性を十分認識し得る立場にあったこと、被告の調査に対し真摯な反省の態度を示さず、かえって告発者捜し的な行動をとったことなども考慮すると、被告が通常解雇を選択したことには合理性が認められ、被告が懲戒権あるいは解雇権を濫用したとまではいえないというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 他に、本件解雇を無効・違法とすべき理由はないから、本件解雇は、有効・適法であるというべきである。
 四 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がない