全 情 報

ID番号 07850
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 宮崎信用金庫事件
争点
事案概要  信用金庫Yに勤務する支店貸付係担当係長X1及び本店営業部得意先係X2(両者とも労働組合の指導的立場にある組合員)が、Yの職員によるAへの不正融資疑惑について、周囲から事情を聴取するなど疑惑解明のための活動を行うに当たり、X1は不正融資疑惑を調査するためにオンライン端末機を利用してYのホストコンピューターにアクセスし、信用情報を印刷して印刷文書を取得し事実関係の確認・資料の収集をしたり、匿名の批判文書をYの総務部長に郵送したほかYの不正疑惑資料を衆議院議員の公設秘書(X1の弟)及び宮崎県警に提出するなどし、またX2も信用情報や管理文書のコピーを取得したりしたところ、会社外部の者(B)から内部資料が外部に出回っていることの指摘をうけたYにより内部調査が行われたところ、X1・X2の行為(信用情報の一部にアクセスし印刷したこと)が明らかとなり、本件の信用情報を入手したことが就業規則に定める懲戒解雇事由である「職場内外の窃盗」に当たり、外部者に情報を漏洩したことが「業務上の重要な秘密を他に漏らした」、Yの名誉と信用を著しく失墜したこと、資料の管理・保管義務違反に当たるとして懲戒解雇されたことから、X1・X2がYに対し、右懲戒解雇は懲戒事由として違法性がないなどと主張して無効の確認及び賃金の支払を請求したケースで、X1・X2がBに対して直接又は第三者を介して本件資料を交付した事実はなく、この点について懲戒解雇事由に該当する事実はないものの、X1・X2が本件信用情報を印刷した文書、本件管理文書の写しを入手したことは窃盗として懲戒解雇事由に該当し、重大な規律違反行為であって懲戒権の濫用があったとはいえないから懲戒解雇は有効であるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 2000年9月25日
裁判所名 宮崎地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 252 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1804号137頁/タイムズ1106号109頁/労働判例833号55頁
審級関係 控訴審/07985/福岡高宮崎支/平14. 7. 2/平成12年(ネ)192号
評釈論文 内野経一郎・労働法律旬報1545号32~35頁2003年2月10日
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-守秘義務違反〕
 本件信用情報には、会員の出資額、顧客ランク、融資額、融資条件、返済方法、延滞状況、担保明細が記載され、本件管理文書〔3〕及び〔4〕には、手形の支払義務者の不渡り等の信用情報が記載されている。これらの融資の内容や融資の相手方の信用状況に関する情報は、当該顧客にとって、高度のプライバシーに属する事項であり、また、金融機関の融資の相手方に対する評価は、当該金融機関にとって、最高機密に属する事項である。
 したがって、金融機関として顧客に対して高度の秘密保持義務を負い、機密情報を厳格に管理すべき立場にある被告が、職員に対し、担当業務の遂行に関係のない目的でこのような機密情報にアクセスしたり、機密情報の記載された文書を複写したりすることを許容することはあり得ない。〔中略〕
 正当な目的によって、これを実現するための手段までが当然に正当となることはない。企業の従業員には、使用者から特に調査の権限を与えられているなどの特段の事情がない限り、社内の業務が適正に遂行されていることについて調査し、資料を収集する権限はなく、金融機関においても、職員が、金融機関内部の不正を摘発する目的で権限なく捜索類似の行為を行うことは許されないというべきである。
 したがって、不正摘発目的であっても、原告らが、顧客の信用情報に対し、アクセスしたり、探索することは正当行為として評価することはできないから、原告らの右主張は採用できない。〔中略〕
 原告らの行為は、勤務時間中に、業務遂行のために交付されたオペレータカードを使用して、自己使用目的で、業務とは無関係に顧客に関する信用情報を収集したものであって、顧客の被告に対する信頼を裏切るものであり、このような行為が自由に行われることになれば、収集した資料の管理が個人に委ねられる結果として、故意又は過失による顧客の情報の外部流出を招き、顧客の信用及び被告に対する信頼に重大な影響を及ぼし、被告の存立を脅かすに至る事態が生じかねない。したがって、原告らの行為は、金融機関の職員として、重大な規律違反行為といわざるを得ない。
 原告らが被告内部の不正を糺したいとの正当な動機を有していたとしても、その実現には、社会通念上許容される限度内での適切な手段方法によるべきであり、右行為を容認する余地はない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、前記のとおりの原告らの懲戒解雇事由該当行為の態様、その結果の重大性からすれば、被告の不正を糺したいという原告らの動機や、原告らの勤務態度(前記第二、二4原告らの主張(二) 等の事情を考慮しても、本件懲戒解雇には、客観的に合理的な理由があると認められるから、本件懲戒解雇が相当性を欠き、懲戒権を濫用したものであるとする原告らの主張は採用できない。