全 情 報

ID番号 07854
事件名
いわゆる事件名 私立大学セクシャル・ハラスメント事件
争点
事案概要  Yが運営する大学の教授であるXが、Xが担当するゼミを履修していた学生からのXを加害者とする旨のセクシャル・ハラスメントの訴えを受けて同大学に設置されたセクシャル・ハラスメント調査委員会の調査に基づいて、Yの理事長から訓戒処分を受けるとともに、教授会から「教務上の措置」としてXの全演習科目について担当を停止するとの決定がなされたことに対して、演習の担当者としての地位にあることの確認を求めていた仮処分のケースで、上記措置は教務上の措置として適法になされたものであるとしてXの申立てが却下された事例。
参照法条 男女雇用機会均等法21条
学校教育法58条
学校教育法59条
労働基準法89条9号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
懲戒・懲戒解雇 / 二重処分
裁判年月日 2001年1月18日
裁判所名 神戸地
裁判形式 決定
事件番号 平成12年 (ヨ) 9016 
裁判結果 却下(抗告)
出典 タイムズ1092号189頁
審級関係 控訴審/07861/大阪高/平13. 4.26/平成13年(ラ)156号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 本件措置は、債権者の権利としての側面も有する演習担当者たる地位を制限する不利益処分的性質を有するものであることから、そのような措置を学部長による教務上の措置として行うことができるかどうかが問題とならざるを得ない。
 教務上の措置は、本来、大学における教育、研究が適正になされるための必要な措置として行われるものであり、当該措置の関係者に対する制裁を目的としてなされるものではなく、制裁として、債務者の就業規則(甲1)六二条が規定する懲戒処分とは、その性質、目的を異にするものであるから、教務上の目的でなされた措置が、結果として当該措置の関係者に一定の不利益を被らせるものであったとしても、その措置を取ることに相当な根拠、理由があり、当該関係者に不利益を被らせることもやむを得ないと考えられる合理性がある場合には、これを教務上の措置として行うことも可能と考えられる。
 そこで、これを本件についてみるに、本件措置は、債権者が担当していた講義及び演習のうち、演習の全部につき、二〇〇〇年度及び二〇〇一年度にわたって停止するというものであり、権利としての側面も持つ演習担当者としての地位を二年度にわたって停止するものである点で、債権者に不利益を及ぼすものである。
 しかし、本件措置は、債権者の講義や研究に関する活動を制限するものではないし、また、その身分や給与等にも無関係の措置であって、その点での不利益を及ぼすものではなく、演習担当についてのみの期限を区切った措置であることからすれば、債権者の被る不利益が格段に大きいものとまではいえない。そして、債権者を加害者とするセクハラ問題が学生の告発から惹起し、調査委員会の調査がなされることになり、その時点で、学生の不安や動揺等を防ぎ、その勉学環境整備のため、同教授会及び学部長は、暫定的・緊急避難措置を取らざるを得ないとの結論に達し、一九九九年度Xゼミ【1】履修生に対する「経済学部長預かり」の措置を行っていたことから、平成一二年九月五日、債権者に対し、そのセクハラ行為に関し、訓戒の懲戒処分がなされたことを受けて、同年九月八日、同月二九日の経済学部教授会の審議を経て、本件措置がなされたものであるところ、既に、前記緊急避難的措置により同ゼミ履修生二一名のうち三名以外の者は他のゼミに移籍する結果となっており、かつ、それらゼミ生が移籍先でのゼミの履修を続けたい意向であったことや、債権者が債務者から受けた訓戒処分を冤罪として争う言動を続けていたことに加え、演習に関しては、教員の研究室等における個別指導・相談を不可避的に伴い、指導時間も夜間に及ぶこともあることをも勘案すると、経済学部教授会の構成員の多数が、債権者に対する教務上の措置として、演習指導の担当に限っては、債権者の担当を一定期間停止することが必要であると考えたことには、相当の根拠、理由があったものといえる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-二重処分〕
 債権者は、前記認定と異なり、本件措置は、根拠のない制裁処分である点で違法無効であるうえ、懲戒処分としての手続的要件を満たしていない点及び既に訓戒処分がなされているのに更になされた二重の懲戒処分である点でも違法無効である旨を主張する。
 しかし、既に認定・判断したとおり、本件措置は、債権者に不利益を課する面のあることは否定できないが、制裁としてなされたものではなく、教務上の措置としてこれが適法になされたものといえるから、債権者の主張はこれを採用することができない。